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自由を夢見た吸血鬼  作者: もみじ
カナンの英雄
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二度目の人攫い

冒険者ギルドの扉が開かれる。それと同時に扉に付けられたベルが鳴り、心地いい音色が響く。

ギルドにいる冒険者たちの幾人かが、扉から入ってきた少女に顔を向けるもそこに好奇の色はない。

今やアイティラは、子供だからと侮られることもなくなり、周囲の冒険者も少女のことを同業者として認めていた。

ただ好奇や侮りの目はなくなったが、一人になってしまった彼女に同情的な目を向ける冒険者が多い。

だが、アイティラはそんな視線を気にもせず、依頼書が貼ってある壁のもとへと進んでいった。


アイティラは依頼書が貼ってあるボードを、上から下へと順に眺めていき、ある一点で視線を止めた。

そこには一つの依頼書が貼られていた。


「子供の人攫いについての調査依頼?」


アイティラはその依頼書をしばらく眺めた後、その依頼書を手に持って、カウンターで忙しそうにしているセレナのもとへと進んでいった。


***


「兄貴—、もう休憩しませんかー」

「そうですよぉ、第一こんな道を子供が歩いてるとは思えねえです」

「アニキ、アニキー」


「ああ!もう、うるせえ!てめえら黙ってろ!」


さびれた街道を四人の男が進んでいる。

先頭を歩く大柄な男は、その顔に髭を生やし、まるで山賊のような風貌だった。

そんな男の後ろには、疲れたような情けない歩き方で二人の男が続き、そのさらに後ろでヒイヒイ言いながら荷車を引く男が続いていく。


「だって、もう何時間も見つかりませんぜー、もうどっかの村の近くで潜伏してた方がいいんじゃないんですかー」

「どっかの村とはどこだ!ここらの村は最近警戒が強くなってきてるから、子供をさらうのも一苦労だぞ!」


先頭を歩く兄貴と呼ばれた男が大きな声を上げた。


「だからといって、街道を歩いてるだけでそう都合よく見つかるはずが......」

「ああん!?」


兄貴と呼ばれた男は、不満を口にした男を睨む。

そして男は後ろを向いたまま、言い聞かせるように語りだす。


「いいか、俺は考えたんだ!最近村での警備が厳しくなってきているだろう。そして子供を心配する親たちは子供にこう言うんだ。最近ひとさらいが出るから外には出ないようにね、と」

「そうですねー。そしたら子供たちは外に出なくなって、ますます俺たちの仕事が......」

「違う!」


途中まで言いかけていた言葉を、兄貴と呼ばれた男はピシャリと大きな声で否定した。

そしてその顔を凶悪に歪め、自信たっぷりに言い放った。


「外に出るなと言われた子供は、親に反抗心を抱き、一人で外に出て行くだろう!そして家出した子供たちを俺らが捕まえるって寸法だ!」


自信たっぷりに言い切った兄貴分に向けて後ろの男たちは小さな声でぼやく。

「そりゃ、兄貴だけでしょうよ......」と。

しかしそれには気づかずに、彼らの兄貴分は自分の考えが正しいと思い込んでいるようだ。


「なかなか見つからないが、もう少ししたら見つかるはずだ。きっといる......」


そう言って兄貴と呼ばれた男が首を回し、視線をまえにむけると、そこには木にもたれかかって座っているローブ姿の子供がいた。


「いたぞ!子供だ!」

「「「ええ!?」」」


後ろの三人は目を向いて、驚いた声を上げた。

彼らはこんな街道を子供がいるとは内心思ってなかったのだ。

だが、そんなことにも気づかず山賊のような姿をした大男がその子供のもとへと進んでいくため、彼ら三人も慌てて後に続く。

遅れて三人がついたころには、彼らの兄貴分とその子供がすでに向かい合っていた。


「よう坊主、それとも嬢ちゃんか?こんなところで何してんだい?」


兄貴がローブの子供の前に立ち、その山賊のような怖い顔を歪めながら低い声を出す。

こうするとたいていの子供は怖がっておとなしくなるのだ。最も子供だけでなく、大人にも有効だが。

しかし目の前の子供はその男を見上げても、まったく恐れを感じさねぬ声で答えたのだ。


「私は仕事でここに来たの。後はちょっと知りたくなったからかな。」


目の前の子供が全く臆せずに話しかけてきたことに、兄貴とほか三人も驚いた。

しかし兄貴はその驚きの表情を引っ込めると、突如として大きな声を上げて笑い出した。


「ガハハハッ。俺にビビらねえとは大した嬢ちゃんだ。気に入った!」


そしてひとしきり笑ったあと、彼は小柄な少女を見下ろし、その顔を凶悪に歪める。


「だが悪いな、こっちも仕事なんだ。聞いたことあるかいお嬢ちゃん?巷で噂の人攫いとは俺らのことよ」


男は少女を見下ろすも、その表情はフードに隠されてよくわからない。

だが、何も言わない様子からするに、目の前の少女は声も出ないほど恐れているんだろうと思った。

すると突然目の前の少女が、そのフードをずらしてその顔をあらわにした。


男はその顔を見て思わず言葉を失った。

別にこの少女が特別美人だとかそんなことはない。むしろどこにでもいそうな少女だが、なぜか男は少女の赤い瞳から目が離せなかった。頭の中に靄がかかった様な気分になり、その瞳に吸い込まれそうになる。


「あは、あなたたちに会えてよかったよ」


少女口から紡がれる言葉が、すんなりと頭の中に入ってくる。


「一つお願いがあるの、私をあなたたちの飼い主のもとに連れて行ってほしいの。いいでしょ?」


少女はそう言って妖しく微笑んだ。

男は呆然としたままその様子を見つめ続ける。


「兄貴?どうかしたんですかい?」


男は顔を上げ、不思議がる三人の方を向いて笑い声をあげた。


「ガハハハッ!なんでもねえ!それとお前ら、このままあいつ等の本拠地まで行くぞ!」

「え、なんでですか兄貴?特に集まる予定もなかったと思いますが」

「いや、この嬢ちゃんをそこに連れて行こうと思うんだ!分かったらさっさと行くぞてめえら!」


彼ら三人はよくわからずに互いに目くばせをしあうものの、この少女をなぜ本拠地の方まで連れて行くのかは分からなかった。

だが、兄貴が決めたことだから何か意味があるんだろうと納得し、三人そろって頷いた。


「ああ、そうだ。嬢ちゃんはその荷車に乗ってくれ。乗り心地は最悪だがな!」

「ええ!この子を乗せてくんですか!?俺もう荷車引くの疲れましたよー!」


荷車を引いていた男の情けない悲鳴がこだました。


***


日が落ちて、あたりが茜色に染まる街道を進みながら荷車を引いている男が後ろを振り返る。

そこには荷物に紛れてローブを纏った少女がのんきに座っている。

男は重い荷車を引きながら、彼らの前を歩く三人に追いつこうと必死に荷車を引き続ける。


「くぅ、疲れたー。あんたも少しは歩いたらどうだ」


額に汗をかきながら、男は少女にそう告げる。だが少女はその言葉に反応を返さない。

少女が荷車から下りないこと確認すると、男は仕方なく別の話をし始めた。


「それにしても、あんたもしかして兄貴と知り合いなのか?俺たちの本拠地に連れて行くなんて、そうとしか考えられねえし」


そう、男にはそれが分からなかった。

わざわざ兄貴が本拠地に連れて行くと言ったのなら、兄貴はこの少女のことをなにか知ってるんじゃないかと思うも、少女の正体を教えてくれないため、少女をどう扱えばいいのか男は測りかねていた。


「知り合いじゃないよ。それにしても、あなたたちの言う本拠地ってどんなところ?」


男はその質問に一瞬ためたらったが、どうせその場所にこれから連れて行くのだし話してもいいだろうと考えた。


「うーん。気味の悪いところだな。本拠地にいる連中は大体頭のいかれた連中でな、金払いが良くなければ、俺たちだってかかわりたくない連中だ。」

「あなたたちの仲間でしょ?それなのにかかわりたくない連中なの?」

「仲間といっても、俺らはただ奴らに協力してお金を得るだけの関係だ。それに兄貴が決めたことだからな、俺たちはそれに従うだけだ。」


荷車の車輪が石につまずいて大きく跳ねる。

少女は荷車の側面をつかんだまま、少し身を乗り出して男に問いかける。


「兄貴って、一番前を歩いてるあの人?」

「ああ、そうだ。兄貴はかっこいいだろ。」


少女はそう言われても、とくに反応を示さなかった。


「兄貴は俺たちが貧民層で暮らしてた時からの、俺たちのリーダーでな。たまにおっかねえが、頼りになる兄貴なんだ」


男の声は心なしか弾み、誇らしげな声に変わる。

男が両手が、荷車の持ち手を強く握りしめた。


「まあ、たまに兄貴は馬鹿なことも言うんだがな。だが、俺たちはそんな兄貴についていくって決めたんだ」


男は小さく笑みをこぼし、先頭を歩く男の背中を見つめる。


「ふーん、そっか。だけど私には関係ないかな......」


男は後ろからした小さな呟きに気づかなかった。

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