世界への帰還
深い深い森の中を、一人の老人が歩いていた。
老人は古風なローブを身に着け、立派な杖を持っていた。
ちらりと見えるローブの中の顔は、しわが目立ち、髪やひげは白く染まっている。
しかしその老人の目は、鋭い光を宿しており、衰えを感じさせない様子だった。
やがて老人が進んでいくと、森の中にぽっかりと空いた穴のように開けた場所があった。
その場所の中央には、ひと3人分の高さはあるかと思われる巨大な岩がそびえたっていた。
老人はその岩をしばし鋭い目でにらみつけていたかと思うと、その岩に近づき、何やら口の中で唱え始めた。
老人が何かを唱え終わると、その岩がうっすらと輝きだし、岩に大きなひびが入り始めた。
***
何もない世界を漂っている。
痛みも苦しみも喜びも、何もない停滞した空間の中をただただ漂っている。
そんな空間を漂っていた存在は、急に何かに引っ張られるような感じがした。
その存在はとっさに抵抗しようとしたが、何やら懐かしい感じがして次第に抵抗を緩める。
そうしてその存在はかつての感覚を取り戻していく。
まず音が聞こえる。
かさかさという、木の葉が風に揺られる優しい音だ。
次に匂いだ。
土の独特な、それでいて安心できる自然の匂いだ。
そして感触。
あの何もない空間では感じなかった、確かな地面の感触、そして自分の体の存在を感じる。
そしてそれは、自分というものを知覚しながらうっすらと目を開く。
まず初めに飛び込んできたのは光だ、それは光をまぶしがるように目を細める。
次第に目が慣れてきたころ、それは自身の前にたたずむ人影に気が付いた。
それはとっさに声を出そうとしたが、声の出し方が分からずにその人物を見上げた。
目の前に立っている人物、老人の男が口を開く。
「目が覚めたか?」
その老人の言葉をきいて、それは言葉と声の出し方を思い出した。
「あなたは、だあれ?」
その声はきれいに透き通るような、幼さを感じさせる声だった。
鋭い目つきの老人は、こちらをまじまじと見つめながら口を開く。
「わしの名は、オスワルド・ブルーデスという。
お前の封印を解いた魔術師だ。」
それが封印されていた少女と魔術師オスワルド・ブルーデスの出会いだった。




