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自由を夢見た吸血鬼  作者: もみじ
ダリエルの町
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ダリエルの町

アイティラは大男のギルこと、その身に宿っていた悪魔とやらを切り殺した。

そうしてもう一人残っていた執事服の男、ロラントの方へ顔を向ける。


「待たせちゃったね。でも安心して?すぐにお友達のところへ行かせてあげるから。」


アイティラが歪んだ笑顔でそう告げるも、ロラントはどこかボーとしている。

そうして、おぼつかない足取りでアイティラの方へ近づいてくる。


「あなたは、この国に破壊をもたらす者ですか?」


その言葉は震えている。そしてどこか期待するような色も混じっている。


「いや?わたしはわざわざ壊したりはしないよ。邪魔になったら壊すかもしれないけど。」


その言葉をきいて、ロラントは満足そうに穏やかな笑みを浮かべる。

アイティラは、気味の悪いものでも見るような目をして剣を向ける。


「じゃあさっさと死んで頂戴。」


剣がロラントの心臓めがけて突き刺される。

ロラントは、抵抗もせずにその剣を受け入れる。


そうして地面に横たわったロラントの死体は、どこか暗い笑みを浮かべていた。


***


馬車の中から、ハンスは少女の姿を見つめていた。

ハンスに向かって自由にしてあげると言い放った少女は、馬車から降り、自分たちを捕らえた人さらいの男たちと、人さらいを指示していたと思われる執事と大男の二人組をあっさりと殺してのけた。

自分と同い年くらいに見える少女が、あんな大人たちを一人で倒すなんて信じられないが、それでもこの目で見れば信じるしかない。

(それにしても、途中から背中に黒い羽のようなものが見えた気がするが、おそらく何らかの高度な魔術なのだろう。)

村で生活したハンスにとって魔術は縁遠い存在であり、唯一村にいた元冒険者の男が魔術を使って火を出しているのを見たくらいだ。


最後に執事服の男にとどめを刺した少女はゆっくりとこちらに近づいてくる。血濡れの剣を持ちながらゆっくりと迫ってくる姿はなかなか恐ろしい。


「ねえ、....そういえばまだ名前を聞いてなかった。わたしはアイティラ。あなたの名前は?」


だが、そんなことお構いなしにアイティラと名乗る少女は、こちらの名前を聞いてきた。


「僕はハンスだ。その、助けてくれてありがとう。....なあ、あんたは冒険者なのか?」


「冒険者?」


アイティラと名乗った少女は冒険者という単語に首をかしげている。どうやら冒険者を知らないらしい。

村人の自分でも知っているのだ。冒険者を知らないとなると冒険者など来ないような、どこか辺境の村出身なのだろうか?


「いや悪い。あんたみたいな強い人は冒険者くらいしか知らないんだ。」


アイティラは、何やら少し考え込んだ後、馬車の中を覗き込んだ。


「それで馬車の中にいる残りの二人はあなたの知り合い?」


その馬車の中にいる二人は、アイティラを怖がっている。

ハンスはそんな友人である二人を安心させるように言う。


「二人とも、もうあの大人たちはいないよ。だから安心してくれ。」


その言葉に二人は顔を上げるとおずおずとアイティラに話しかける。


「あの、助けてくれて、ありがとうございます。」


「ありがとう、ございます。」


ぎこちなくだが、感謝を伝える少年と少女。

アイティラはそれにうなずいて馬車から離れる。


「おい、あんた。どこに行くんだ?」


ハンスは少し不安になりながら言う。なぜならここは、左右が森に囲まれているのだ。道をたどれば町に着くかもしれないが、その間魔物や獣に襲われればなすすべもなく死ぬことだろう。

だからこそ、戦えるアイティラに見捨てられるとかなり困る。


「大丈夫だよハンス。お金を回収するだけだから。」


そう言って、あたりに散らばる死体一人一人から硬貨を回収している。

ちなみに今は夜だ。わずかな月明かりによって、アイティラの姿を見ていられるが、よくもまあこの暗さで硬貨なんて拾えるものだとハンスは感心する。

そうしていると、アイティラはこちらの方まで近づいてきた。


「お金の回収は終わったから、街の方に進みましょう。」


***


ダリエルの町はそれなりに大きい街だ。

冒険者ギルドも魔術師ギルドも町の中には存在し、昼間には通りに屋台が所狭しと並び活気に満ち溢れる。

そんなダリエルの町でも、夜はさすがに静けさに支配される。

住民が寝静まって静けさを感じさせるダリエルの門前で、二人の門番が立っていた。


「それでよぉ、俺は言ったんだ。おめえの店のシチューは、味が薄くて食べられたもんじゃないってな。」


「ああ、あの爺さんの作るシチューはまずいよな。だがよく言えたな、あの爺さん大柄で見るからに恐ろしい風貌だろ?俺は恐ろしく言えないね。」


他愛もない話をする門番二人。それもそのはずで、わざわざ深夜に町に入る人間はほとんどいなく、基本的には暇なのだ。


「まあ、普段なら俺も言わないが、あの日は...ん?あれ、人じゃないか?」


夜に染まった街道を、小さな影が四つほどこちらに近づいてくる。


「ほんとだ。それにしても、もしかしてあれは子供ではないか?」


二人の門番が見据えている中、その四人組はどんどん近づいてくる。


「とまれ!こんな夜更けに子供だけで来るなんて、何があった?」


門番の男が声をかけると、先頭を進んでいた赤い目の少女が近づいてきて言った。


「実はわたしたちはさっきまで、人さらいの怖い人たちに連れて行かれそうになっていたの。」


その言葉を聞いて、門番は職務に忠実に状況を聞き出す。


「人さらいだと?それでその人さらいたちはどうなった。」


「通りすがりの魔術師が、魔術でやっつけてくれた。」


なるほど、こんな時間に魔術師に偶然助けてもらうとは、なかなか運がよかったのだろう。


「それで、その魔術師殿は一緒ではないのか?」


「うん、その人は急いでいたみたいで、人さらいたちを倒したらすぐにどっか行っちゃった。」


助けるだけ助けておいて、そのあとは子供たちをほおっておくとは、いささか薄情な人物だなと、その魔術師に対してあらぬ感想を抱く。


「そうか分かった。ダリエルに入ることを許可しよう。」


そこで職務は終わったとばかりに、門番は表情を和らげる。


「それにしても災難だったな。宿をとる分のお金はあるのかい?」


「うん、その魔術師の人がお金を渡してくれたの。」


少女は聞かれたことにはしっかりこたえられている。人さらいにあったようだが、精神状態はおかしくなっていないようだ。


「それならよかった。それで、後ろの三人はさっきから静かだが、大丈夫かい?」


声をかけられた三人のうち二人の少年少女は、どこか怯えを感じているようだ。

だが、黒髪の少年の方はこちらをしっかりとみている。


「はい、大丈夫です。」


まあ、人さらいに会えば、おびえた様子の二人の反応はもっともだ。

ここはすぐにでも休ませた方がいいだろうと思い、門番はダリエルの中にある宿の場所を教えてやる。


「ありがとう、門番さん。じゃあ三人とも、宿まで行きましょう。」


赤目の少女は機嫌よさそうに笑っている。


***


教えられた宿で手続きを済ませたアイティラたち四人は、宿の一室を借りて現状確認をしていた。

ちなみにこの宿の主人であるお爺さんは、見た目はいかにもな大男で、正直歴戦の戦士と言った方が似合っている風貌だ。

そのお爺さんは、夜中に子供たち四人だけで入ってくるアイティラたちに驚いたものの、人さらいにあった話をすると、とてもやさしく迎え入れてくれ、あまりもののシチューまで食べさせてくれた。ちなみにシチューはやけに味が薄かったが、さすがにそんなことは言えなかった。

そうして、一室を借りたアイティラ達は、こうして四人で円を作って座り込んでいる。


「それにしてもアイティラ、よく門番の人にあんなにすらすらと嘘がつけるな。」


ハンスはアイティラと門番のやり取りを聞きながら驚いていたものである。

この町に着くまでの道のりで、アイティラとはいろいろと話したりもしたが、どこかこの少女はおかしな感じがする。まあ、違和感と言えるほどのものではないので、問題には思わないが。


「だってわたしがそんなに強かったら、怪しまれるかもしれないでしょう?」


まあ、それもそうなので、ハンスは納得することにする。

ハンスが何も言ってこないことを確認し、アイティラはハンスとほか二人に質問する。


「それにしても、あなたたちはこれからどうするの?元居たお家に帰りたいでしょ?」


その言葉に、静かだった二人の少年少女がともに頷く。ハンスはなぜか頷かないが。

そうしていると、今まで静かだった茶髪の少女が口を開いた。


「あの、いつも村に来てくれる行商人の人がいるので、その人にあたってみたいと思います。」


ハンスはその行商人を思い出す。とても親切で優しい中年の男性だ。彼は一週間に一度村まで来て、生活に必要なものを届けてくれるのだ。彼なら事情を話せばすぐに村まで馬車に乗せて連れて行ってくれるかもしれない。


「その人の居場所は分かるの?」


「はい、わたしたちの村まで来てくれる行商人はその人くらいなので、門番の人にでも聞けばすぐに分かると思います。」


「そう。それならあなたたち三人は、明日その人のところに行けば大丈夫そうね。」


アイティラと茶髪の少女の話に区切りがついたところで、先ほどから何やら悩みこんでいるバンスが口をはさむ。


「その、アイティラ。あんたは元居た場所には帰らないのか?」


ハンスはアイティラがどこから来たのか分からない。だがもし騙されて人さらいの達についてきたなら、もともと住んでいたの村にでも帰るのだろう。


「わたし?わたしはそうね、元の場所に帰るつもりはないよ。この町でしばらくは居ようかなって思ってる。」


その言葉を聞いてハンスは、一瞬ためらってから、意を決して話し出す。


「なら、僕も...。僕も君とこの町に残ってもいいか?」


アイティラはハンスの真意をすぐに理解できなくて、考え込んでいる。

そして、今まで静かだった気の弱そうな少年が、ハンスの言葉で顔を上げる。


「ハンス!村に帰らないってどういうこと!?なんで...。」


そこまで口にしたところで気の弱そうな少年の声は、途端に小さくしりすぼみになっていく。


「村のみんなだって、戻ってきてほしいと思ってるよ。だから、一緒に村に戻ろう。」


気の弱そうな少年は、ハンスを村に連れ戻そうと必死になっている。

しかしハンスは無言で首を振り、気の弱そうな少年と茶髪の少女に向けて口を開いた。


「ごめん。でもこれは僕が決めたことなんだ。だから一緒に村には戻らない。」


そこまで言って、ハンスはアイティラを振り返る。


「勝手に話を進めちゃったけど、僕は君についていきたい。ダメかな?」


アイティラはハンスの頼みに、特に気負った風もなく頷いた。


「わたしは別にいいよ。ちょうど案内人が欲しかったところだから。」


ハンスはホッと息をついた。さすがにこの流れで断られたら気まずい。

そんなことをハンスが考えていると、アイティラはどこか楽しそうに笑った。


「それじゃあ、みんな寝ましょう。今日はいろんなことがあったからね。」


そうして、いろいろあったこの一日は幕を閉じた。

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