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自由を夢見た吸血鬼  作者: もみじ
日没
107/136

この剣は誰に

  

王城の長い廊下。

右手の広い窓から昼下がりのあたたかい日差しが差し込み、窓枠が廊下にくっきりとした影を作っている。

王城には幾たびと出入りしたことがあっても、ここまで奥に来ることは初めてだった。構造は他とまったく同じはずなのに、このあたりは目新しく異質な感じがする。

目的である王の寝室に近づくと、うつらうつらとしていた護衛兵が足音に気づいてこちらを向いた。

うたた寝していた姿を見られたというのに、まったく悪びれる様子はないようだ。


「. . . 蒼の騎士団長様が、どういった御用でこちらに?」


「陛下にお会いしたい」


護衛兵はあからさまに眉をひそめて、ぶっきらぼうに言った。


「只今、陛下はお休み中です。お帰りください」


「陛下に大事な話がある。お呼びいただけるだろうか」


ヘルギの言葉にどうしても引く気はないと感じたのか、護衛兵は強めに反発した。


「陛下のお休みを妨害してまでの大事とはよっぽどのことなのでしょう。しかし、その大事をなぜあなたが伝えにくるのですか?」


「どういう意味かね?」


「平民である貴方 . . . いえ、もっとふさわしい方が来られるはずです。宰相閣下はこのことをご存じなのですか?」


宰相という言葉が飛び出して、ヘルギは眉を寄せた。

わざわざその男がいないタイミングを選んで来たのに、ここでも邪魔をされるのか。


「陛下に大事な話をするために、宰相を通す必要もない。そこまでの権限を宰相も持っていないはずだろう。時間も限られている。早急に陛下に会わせていただけないか」


「お断りします。お会いになりたいなら宰相閣下に許可をとってからにしてください」


「それではだめだ。陛下と一対一でお会いしたい」


「お帰りください!」


ヘルギの迫力に押されながらも、護衛兵はヘルギの要望を跳ね返し続ける。

時間に迫られ焦るヘルギと、通そうとしない護衛兵の声は徐々にヒートアップしていった。

その言い争いをピシャリと鎮めたのは、扉の奥からの怒声だった。


「煩わしい!余の部屋の前で何を騒いでいる!」


扉が開かれ出て来たのは、寝間着姿の王であった。

白髪交じりで疲労の色を浮かべた王は、ヘルギの姿を意外そうな目で見た。


「申し訳ありません陛下。陛下に至急お話したいことがあり参りました。どうか、お時間頂けないでしょうか」


王は口を結んで、どこか悔し気に佇んでいる護衛兵と跪くヘルギを交互に見た。


「ヘルギ団長、剣をそちらに預けろ。そうすれば入って来てもよいぞ」


ヘルギは跪いたままわずかに躊躇ったが、護衛兵に大剣を渡すと、王の部屋へと入った。

王は眠りを邪魔されて不機嫌なのか、眉間にしわを寄せたまま、早速問うてきた。


「それで、余に話とはなんだ。昼寝の時間を邪魔してまでのことなのだから、余程の大事なのだろう」


王は言外に余程の大事でなかったら承知しないと言っているようだった。

ヘルギは意を決して、王の前に跪いた。


「陛下、お願いがございます。この争いを終わらせてください」


「何のだ?」


「コーラル伯爵との争いです。どうか寛大な心を持って、彼らを許していただけませんか」


跪いているため王の表情は見えなかったが、声色から苛立ちを感じた。


「なぜ許してやらねばならない。反乱を起こしたのは向こうではないか!」


「. . . 確かに、仰る通りです。しかし、このまま衝突すれば悲惨な結果を招きます。一度でも双方が多くの血を流してしまえば、二度と和睦の機会は失われるでしょう。戦いは憎しみへと変わり、どちらかが倒れるまで終わらない争いへと至ってしまいます!」


「それがどうした!そんなことより、離反した者を罰し、王家の威信を守る方が大事であろう。 裏切りものの命など余はどうだってよい」


「裏切り者ではありません、陛下!彼らはただ、期待しているのです。陛下が彼らに眼差しを向けられることを。もし陛下が彼らに心を寄せられるならば、帝国からこの国を守る心強い味方となってくれるはずです。今ならば、まだ和解できる可能性があるのです!話し合いの場を一度でも用意していただくだけで構いません、どうか彼らに和解の機会をお与えください!」


ヘルギは胸の内にある言葉を全て尽くした。

反乱軍と呼ばれ始めている彼らだが、実際に様子を見るに、ただ憎しみのために動く集団ではなかった。自分たちの理想を成し遂げるために、行動しているだけだ。ならば、そこに争いを避けれる可能性がある。そして、それを成せるのは目の前のただ一人であるのだ。

言葉を待つヘルギの心は、期待と不安で渦巻いていた。


「ヘルギ団長」


その言葉に、顔を上げる。

その目に飛び込んできたのは、怒りだった。


「お前は誰に仕えている! お前をここまで引っ張り上げてやったのは、誰だと思っている!?」


(ああ、そうか。俺の言葉は、もう届かなくなってしまったのか)



ある記憶が呼び起こされる。

周囲には方々からあつめられた貴族。それらが、口元を隠しながら小声で会話しているようだった。


どこの家柄? 


片方はあの没落した . . .

 

自分の血縁を処刑して成り上がったという噂は本当なのか?


もう片方は平民出でしょう?


汚らわしい血、それが騎士団長だなんて . . .


どうして陛下はあのような二人を


小声でも聞こえてくるのは、果たして隠そうとしているのかわざとなのか。

前半の陰口は隣の文官のことだ。隣に並んだその男は、聞こえないふりをして陛下の登場をまっている。


やがて、白髪など一つもない、まだ若さを残した王が登場した。


「またもや成し遂げてくれたようだな」


機嫌のいい王が、二人の忠臣にねぎらいの言葉を述べる。


「此度の帝国の侵攻を防げたのはそなたらのおかげだ。ロベール、帝国の動きに事前に気づき、迅速に手筈を整えたその手腕、まことに見事であった。そしてヘルギ団長、コーラル伯爵と協力して帝国軍を追い返したときの様子はよく聞いている。勇猛果敢だったとな」


そこで陛下は続けていったのだ。


「そういえば、ヘルギ団長。その戦いで自前の剣が折れたと聞いたぞ。折角の機会だ、今回の功績として、一級品を用意させよう。ロベールにも、後で別の何かを用意させよう」


王は最後に、列席する貴族たちを見渡すと、彼らは静かになった。

次の言葉に牽制の意味があったのかは分からない。ただ、ヘルギから見てその言葉は陛下の本心であったように思われた。


「余は良い臣下に恵まれた」



この時に、王に対して心から尽くすことを誓ったのだ。

アレク殿下の言葉にすぐに返事を返せなかったのも、この記憶があるからだ。


「陛下、私は貴方に忠誠を誓っております」


「そうであろう。ならばなぜ、反逆者をかばうのだ!余に逆らう者を倒すことが、お前の役目だというのに」


ヘルギは静かにその言葉を受け止め、最後の希望に賭けて見上げた。


「陛下、私はアレク殿下と会いました。彼は今、反乱軍と共におります」


「な、に?」


「陛下、アレク殿下と確執があることは十分承知しております。しかし、アレク殿下は間違いなく貴方の御子です。歩み寄れば、きっと和解することも出来るはずです。どうか、陛下の方からお許しになりなってはいただけませんか」


「 . . . アレクが?」


王はヘルギを凝視したが、真剣な目で迎えられ誤魔化すように逸らした。

これが、最後の希望だった。ヘルギは願いが通じるように、必死に祈った。


「いや、いや!意志は変わらぬ!反逆者にこちらから歩み寄るなど、それこそ王家が力に屈服したのだと思われる!それに、アレクがそちらに付くならば、あれはもう余の息子ではない!」


「陛下!」


「ヘルギよ!余を惑わそうとしても無駄だ!余に仕えるというならば、決定に従え!」


王はこれ以上の話はないと言い放ち、自分の寝台に戻ってしまった。

ヘルギは立ち上がると部屋の外に出た。扉を出ると、預けておいた大剣が地面に転がっているのが目に入り、護衛兵に目を向けた。しかし、彼はヘルギに目を向けることなく、眠ったふりを続けた。


ヘルギは地面に転がった大剣を拾い上げ、来た道を引き返していった。


(陛下、貴方にいただいた剣を貴方に向けることになるかもしれません。しかし、それは貴方を憎んでいるのでも嫌っているわけでもありません。ただ、私が忠誠を誓った貴方が、戻ってきてくださることを信じているのです)


長い廊下を進む足が、途端に沼にはまったように重たくなった。


「アレク殿下に、返事を送らなければならないな」

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