プロローグ
とある街道を馬車が走っていた。
あたりは深い森におおわれ、もう夜に近い時間のこともあり薄暗くなっている。
そんな森の中、馬車を引く男は一言不満を口にする。
「まったく、無駄に抵抗しやがって。もうこんな時間になっちまったじゃねーか。」
それを聞いた馬車の周りにいた男の一人が言葉を返す。
「まったくだ、さっさと子供を引き渡してくれりゃ殺さずに見逃してやったのによー」
男は粗末な皮鎧に手入れの行き届いていない長剣を持っている。
よく見れば、馬車の周りにいる6人の男たちも皆同じような恰好だ。
「ハン、戦っても死ぬだけなのに、ガキのために命かけるたぁ馬鹿なやつだな。」
馬車を操る男はそう言って、馬車の荷台を一瞥する。
荷台には4人の子供が乗っていた。少年が2人に少女が2人だ。
彼らはいわゆる盗賊崩れといわれる者たちで、先ほど一つの村から子供をさらってきたのだ。
普段はできるだけ戦闘を避けるように、目立たないように子供をさらうが、今日はさらおうとした子供の父親に見つかってしまい、戦いになったのだ。
父親には、子供をこちらに引き渡せば命は助けてやるといったのだが、その父親は抵抗した為、無駄に命を散らせることになったのだ。
そんな男の言葉を聞いた、黒髪の少年はビクンと肩を揺らす。
その殺された父親がこの少年の父親で、自身の父をあざける内容に怒りともいえる感情を抱くものの、口答えするのが怖くうつむくだけしかできなかった。
その様子を見ていた御者の男は、見下したように目を細めてほかの子供も見た。
もう一人の気の弱そうな少年も、茶色の長い髪をした少女もどちらも暗い絶望した目でうつむいている。そうして最後の少女に視線を向けたとき男は違和感を覚えた。
その少女は黒髪で髪は短く切られている。小柄で瘦せっぽちなどこにでもいそうな少女だ。
だが、そんな少女が浮かべている表情は絶望した顔ではなく、この状況に不自然な笑みだった。
「おいガキ、なにがそんなに面白いんだ。」
思えばこのガキは不思議だった。なぜか森の中で一人でいたのだ。
声をかけられた少女は、特におびえた様子も見せずよく通る声で答えた。
「わたし、馬車に乗るのは久しぶりなの。」
少女はそう言い、そのみすぼらしい姿に似合わないきれいな赤い目をこちらに向けた。
「馬車に乗って移動する。絵本で見た旅人みたいでとっても素敵。」
そう言って妖しく笑う少女はなぜか、とても魅力的に見えた。




