10歳の私へ。
10歳の私へ。
お元気ですか?
ちょっとした風邪をひいているかもしれませんが概ね元気だということは私が一番よく知っていますが、とりあえず聞いてみました。定型文っていうのは意外と便利ですからね。
未来の自分への手紙を書くということは小学校などでよくありますし、これから何回か経験すると思いますが、今回は逆です。過去の私へのお手紙です。
つまりは、もう届くことのない手紙ですが、そこは気にしないでください。
まずは、自分への手紙での定番、夢の話でもしましょうか。先ほども言いましたが定型文というのは意外と大切です。
あなたの夢は、叶いません。
少なくとも、23歳の今の時点では。
あなたは図書館のおねえさんになりたいと願っていますね。その憧れは非常に輝いている素敵なものだと思いますが、残念ながら今のところ図書館司書になる未来は見えません。
大学を卒業した私は、あなたの予想もしなかった仕事に就いています。たぶん、あなたはまだこの仕事の存在自体を知らないでしょう。
そんな私ですが、日々頑張って生きています。ある程度幸せだと言えるでしょう。
それは、あなたが頑張って生きてきてくれたおかげです。ありがとう。
さて次は、なぜ突然こんな手紙を書き始めたか、という話をしましょうか。
それは、久しぶりにあなたの書いた小説を見つけたからです。
ノートの表紙に大きく『4-3 和泉さおり』(仮名)と書いてくれていたから、私はこうして10歳のあなたに手紙を書けています。
自分の持ち物には大きく名前を書く、それはとても良い事ですし今も変わっていません。職場の靴には誰よりも大きく名前が書いてありますよ。
そんなことは置いておいて、あなたの書いた話を読みました。
忘れ去っていた物語ですので、まるで他人が書いた小説かのように楽しんで読めました。
最後はどうするつもりなんだろう?風呂敷広げすぎじゃない?と思いつつ読み進めていると、クライマックス直前で「続きは自分でかんがえてね!」とブン投げられていて少し驚いてしまいました。
そして、最後まで書けないのも、大風呂敷を広げすぎて畳めなくなるのも変わっていないんだな、と思いました。
あと、ファンタジー世界が好きなのも。
10数年が経っても、おんなじような話ばかりを書いていますし、なかなか完結させられません。
そんな未来の私が、過去のあなたに一番伝えたいことは、
『物語を書いていてくれて、ありがとう』
ということ。
クラスメイトがノートの隅にイラストを描いている時、あなたはそこに物語を書いていますね。
絵が上手い友だちに憧れることも、ピアノが弾けるクラスメイトを羨ましく思うことも、これからあると思います。
ですが、そんな友だちの誰よりも、あなたは特別なスキルを身につけているのです。
絵が描けても、ピアノが弾けても、それらは意外と実生活では役立ちません。もちろん趣味として人生を豊かにはしてくれますが、『使える』ことは少ないのです。
物語を書くことにも読むことにも慣れたあなたは、まず国語の成績で苦労しません。これは絶対です。
しかも、いつとは言いませんが間違いなく入試に役立ちます。美術も音楽も入試科目にはなりませんが、国語はほとんどの学校で入試に使えます。
それに、今後たくさんのレポートを書くことになりますが、それら全てを簡単に作ることが出来ちゃいます。どれだけ長い論文でも、10万文字書けと言われることはありませんからね。
仕事を始めてからも、語彙力が足りない、という事にはなっていません。もちろん専門用語を知らないことはありますが、おっちゃんおばちゃんの中で働いていても、会話の中で知らない言葉は出てきません。とっても便利です。
あなたが今、楽しくて楽しくて仕方なくて毎日している『本を読む』『本を書く』ことは、間違いなく私、つまり未来のあなたの為になることです。
根暗と言われても、変だと言われても、本を読み続けてくれて、ありがとう。
そして、これからも続けていってください。
あなたの、そして私の、一生の財産になりますから。
23歳の私より。