タイトルなし
私は誰かと言葉を交わすのが、苦手だった。
言葉を交わすことで、自分が嫌われてしまうんじゃないかとか、自分が面白くない人間だって思われるのが嫌だったから。
昔はどこにでも言葉が飛び交っていた。私にはそれが、誰かを査定しているように思えてしまった。
口から出たその音が、その振動が、何かの価値を持っていた。私にはない価値を持っていた。
だから私には、価値がないんじゃないかなんて、そんなことを思う日もあった。いや、思わなかった日はなかった。
「どうせなら」
ボソッと呟いたその声が、私の口から出た最後の言葉だった。
価値なんてないなら、話す必要はないや。
私はそっと、口を閉じた。
目付きの悪い私は、きっとこのまま無愛想な奴だと嫌われる。
でも、それでいい。その方が、言葉を交わして嫌われるよりましだろうから。
私は小説を好きになった。
声でも、音でもない言葉が、まるで生きているように物語を奏で、世界を作っているのが、とても好きだった。
そんなことができるこの小説の作者は、神様なんじゃないかって、冗談めいたことを思っていた。
そして、手紙を書いた。私は神様に手紙を書いてみた。
そこから私と神様の、言葉のやり取りが始まった。奇跡だと思った。
あれから、だいぶ経った。
私は見つけていた、自分の居場所を。言葉の要らない世界を。
何も話さなくても、私のことを好きでいてくれる仲間を見つけた。
私はこの場所が、世界で一番大切だった。
だから、こんな世界を壊す奴は誰だって許さない。それが例え、神様でも。
――――私は神様のことを殺すことにした。