続・残念な美少女
・思い出す
「藤代さんって一人っ子?」
「ううん。三人兄弟の真ん中だよ」
「朋ちゃんとこの下の子すっごい可愛いよぉ」
佐藤君の質問に青川さんが答える。家族のことを誉められれば悪い気はしない。そうなの。凄く優しくて可愛いくて自慢の弟なの。
「え!うっそ、どのくらい?どの位可愛い!?」
「えっとねぇ。は、侍らせたいくらい」
頬を染めて、目を潤ませて、うっとりと青川さんが呟いた。
「………」
幻聴?今、弟を、はべらせたい、とか聞こえ…。待って?
・たまに役に立つ
「この間さ、登校のときに道に一杯広がってる先輩たちの自転車集団がいてさ。
また、スピードが凄く遅いの」
「うわ、朝からついてなかったね」
「それがさ、ちょうど青川さんも登校しててさ。結構通る声で『やだぁー。邪魔ぁー』ってふっつうに、言い放っちゃって。まあ、先輩たちも驚いて道空けるよね。
道が塞がれてたから、後ろが詰まっててさ。青川さんの自転車の後に続いて、皆で通ったよ」
「やだ、ちょっと格好良い…?」
・新年の抱負
「初詣のときだけ、神頼みに来るような輩の願いを神様が叶えるとは思えないんだよねぇ。
それって神様にも凄く失礼だと思わない?」
「青川さん。それを元旦の神社で発言する必要は有るの?」
「うん。だから私は、新年の抱負を神様に伝えたの」
「そう。胸の内に秘めておいてくれる?」
「聞きたい?あのね!朋ちゃん教を立ち上げようと思って!教祖は私!ご神体は生き神様の朋ちゃんだよ!きっと、今のクラスメイトはすぐに入信してくれると思うの」
「布教する気なの!?
あと私を勝手に担ぎ上げないでくれる!?」
・元旦の癒し
「もうね、元旦から説教かまして、疲れたのよ」
「お疲れ。朋姉。ココア入れたから飲んでよ」
「ありがとー」
「朋姉。ココア飲んだら、二人で近所のお稲荷様にお参り行かない?俺、たこ焼き食べたくなっちゃって。付き合ってよ」
「行く行く。ありがと、新年早々、気を使わせちゃって」
「たこ焼き食べたくなっただけだから」
・議題
「二月です。恐怖の二月がやってきました。皆さま、お集まりいただき誠にありがとうございます」
「議題はバレンタインの義理チョコについて。当クラスでは身の安全を最優先に、最悪義理チョコ禁止なども視野に入れて、会議を進行いたします」
「男子は大変だねぇ」
「何言ってるんだ。女子だって他人事じゃないぞ。女子の方がハードル低いんだからな?
友チョコ~♪とかいって、配られる確率はお前たちの方が高いんだぞ」
「議長。義理チョコ禁止だけでなく、友チョコも禁止にすべきだと、女子一同提案をいたします」
「ねえ朋ちゃん。今日のHRおかしくない?」
「どこかの金持ちの娘が、何か仕出かすにはうってつけの日だから、皆、対策を立てようとしているだけだよ」
「ふぅん?」
「青川さんが一言、バレンタインにかこつけて、何もしませんっていえば、この議題は終わるのだけど。どうかな」
「やぁん。期待されてるぅ?頑張っちゃう?」
・朋ちゃん教
「えー。皆さま。藤代様の身を挺しての契約に基づき、当クラスは無事にバレンタインを開催できることになりました」
「朋ちゃん、約束だよ。絶対だよ?手作りチョコの交換だからね?」
「私、焼き菓子の方が良いな。クッキーとか、パウンドケーキとか。焼いてね?焼いたものが良いから。お願いよ?」
「任せて!」
「うう、藤代様。胃薬は差し入れるからね」
「ごめん、ごめんなぁ。もう神だよ。藤代さんは神様だよ」
「神様なら拝まなきゃ」
「拝まなきゃ」
「ん?朋ちゃん教、復活の気配がする」
・リサーチ
「青川さんは本当に藤代さんにべったりだなぁ。進級してクラス別れたらどうするんだ?」
「橋本先生。やだぁ、別にどうもしませんよぉ」
「ええ、青川さん藤代さんとクラス別でも平気なんだ?」
「佐藤君まで。もう」
「クラス替えはどうしようもないしぃ。お昼とかは一緒に食べるけど」
「そっかぁ」
「ただ」
「「…ただ?」」
「私が、自由になる」
・歴史選択
「朋ちゃん、歴史選択どうするの?」
「私は世界史かな」
「えー。一緒に日本史取ろうよぉ」
「日本史も、好きなんだけどね。世界史ってあまり知らないから、どうせなら良く知らない方を学ぼうかなって」
「え、なに。その良い子ちゃんな理由。腹立つ」
「そんなこと言われても」
「あー、お綺麗な顔ですなぁ!くっ、私にこの顔は殴れないっ」
「またそんなことを。青川さんが誰かを叩いているとところなんて、この一年見たことないよ。そういう誤解されるこというの、良くないよ」
「あーもう!好きっ!」
・歴史選択
「でも、青川さん、日本史好きなんだ?少し意外」
「うん。好きだよ。教科書の内容でも、解釈が古いものがあるし、納得のいかない記述も多いの。だから、全部きちんと聞きたいの」
日本史の授業、授業にならないだろうなぁ。まあ私、世界史だし…。
「なるほど」
「待って、藤代さん!放置しないで!私も日本史選択予定なのっ」
「そうだそうだ!頑張ってくれ藤代さん!見捨てないでっ」
・話題のすり替え
「青川さんさ、今は可愛いくて若いから皆が物凄く大目に見てくれているけど、あと数年したら、そんなこともなくなるよ。今のうちにその性格何とかしたら?」
「心配してくれるの?ありがとぅ!うん分かってるよ。だから、今の内に、人を見た目で判断しない友達を作りなさいって親に言われてるの。今なら、私の見た目で、罠を仕掛けたい放題だからって」
(すみません。俺たちのことですか。大いに見目に惑わされている俺たちのことですか)
(やめて。自分が下劣な人間になったように感じる。いつの間にか試されてるとか、聞いてないです)
(その顔は、もう凶器だよ。凶器もった人間に逆らえないよね?私悪くないよね?)
「青川さんの親って少し変わってるよね」
「そう?でも、私のことを心配してくれるし、ごまかさない良い両親だよ」
「でも、青川さんの愉快犯は趣味でしょ?ごまかさないの。人に迷惑かけるのは駄目だよ。止めなよ」
(((ごまかされてた!)))
・お供えはじめ
「藤代さん。これあげる。間違って買っちゃって」
差し出したのは、イチゴミルクのパックジュース。いつも負担をかけている藤代さんにせめてのお詫びだ。
「良いの?ありがとう。お金払うよ」
「いや、逆にそれは悪いよ。言葉は悪いけど、俺が飲めないから、どうにかしたかっただけだし」
「朋ちゃん。貰ったげなよ。気の使い過ぎは壁を作るよ。ありがとうって笑えばいいの」
「そ、そう?じゃあ、ありがとう、佐藤君」
「どういたしまして」
ちょうど体育の後だ。温くなる前に今飲むのだろう。プツリとストローを刺して飲み始める。
ズズズ。ズコー。
こう、何ていうか、もっと可愛らしい飲み方を期待していたのだけど、藤代さんは眉間に皺を寄せて仁王像のような顔で一気に飲み切った。
・お供え
最初はただ、俺たちが可愛い顔で飲み食いしている藤代さんを見たいだけだったのだが、いつしかそれがクラス全体に贖罪メーターのように広がった。
「飴をあげてみた。仁王像のような顔で、一気に噛み砕かれた」
「俺たちが、生贄にしているから…?」
「ポッ○―あげてみた。やっぱり眉間に皺寄せて、寄り目で一気にボリボリ食べてた」
「ストレス、溜まってるのかな…」
「ホットココアあげてみた。フウフウするどころか湯呑みたいに持って、眉間に皺寄せて忌々しいものを見るような目で、半眼になってズッズッて飲んでた」
「私たちが、不甲斐ないから…」
「固めのお煎餅あげてみたぁ。一心不乱に食べてた。可愛かったぁ」
「「「それだ!!!…あっ」」」
・危険
「おはよう、朋ちゃん。聞いてください」
「おは、…何」
珍しく青川さんが不安げな顔をしているので、何事かと構える。
「さっき、見知らぬ人にカンチョーしちゃった。…どうしよう…」
聞かなかったことにした。
・危険な続報
「ひどい、聞いてよぉ。無かったことにしないでよぉ、朋ちゃぁん」
「二限の数学の宿題で最後の応用なんだけど、ちょっと分からなくて」
これ以上聞きたくないので、前の席に座っている子と話を再開させる。否、させようと、した、のだけど、青川さんはそのまま続けてしまう。
「しかも、入っちゃったの…」
は?
「入れるつもりは無かったのよ…?ちょうど階段で、良い角度だったみたいで…」
見知らぬ人に、本気のカンチョーを…?朝から?やめて?
謝った?謝って許してくれた?望み薄じゃない?
本当にこれ以上は聞きたくなくて、そっと顔を背ける。けれど、そんなことでめげる青川さんじゃなかった。
「…人の話は聞いてよ、もうっ!カンチョーしちゃうゾ☆」
がしっと肩を掴まれて、「でね?」と話を続ける。あまりにおぞましい脅しである。
「朋ちゃんと間違えて、カンチョーしちゃってね」
「さわるなあぁぁっ」