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第17話 英雄たちともう一人

 パチッ、パチッ、と木が弾けるごとに舞う火の粉ときらびやかな鳥になって踊る炎が校庭を明るく照らしている。

 遠くからでも伝わる熱の波動を感じながら、学校の三階にある特別教室の窓から顔を出す女性は、空のオーロラを見上げた。


 ガラララ


 後ろで引き戸の開く音がすると、二人の男性が入ってきた。


「よ、ラクロ。久しぶり」


 その声に女性は少しの喜色を滲ませながらも、努めてそれを隠し、呆れ顔をした。


「久しぶり、じゃないよツイス。昼間のあれ、やりすぎなんじゃないかなぁ」


 ツイスと呼ばれた灰色の髪の男性は苦笑して肩を竦める。


「まあ、なんだ。それはゼセンに言ってくれ」


 後ろにいた男性は、マフラーを引っ張り口元をはだけさせると、ツイスの頭をこずいた。


「やり過ぎたのは認めるが、お前の方が楽しんでただろ」


 昔と変わらない二人に、ラクロはつい顔をほころばせる。


「ゼセンも久しぶりだね。元気だった?」

「ツイスの馬鹿さ加減が増した以外は変わりないぞ。ラクロこそ、その髪どうしたんだ」

「ん? ああこれね」


 ラクロは自分の髪に指を通し、さらりと流した。


「一応、監視と見極めの仕事だったから染めたんだよ。前の髪色は目立つでしょ?」

「そうか? 僕はあの色好きだったんだけどな」


 ツイスの言葉に気を乱しそうになるラクロ。

 ゼセンはもどかしい二人を見て、やれやれと首を振った。


「そ、そんなことはどうでもいいから、突っ立ってないでこっち来て!」


 特別教室の机をバンバンと叩き、入り口辺りに立つ二人をこちらに呼び寄せた。


「な、なんだよ急に。そんな変なこと言った? それよりもどうだったんだ、監視対象は」


 赤くなりそうな頬を必死に抑え、自然体でそんなことを言ったツイスを恨めしそうに見た。


「はぁ。監視対象ね。うん、揶揄いがいがあっていい子だったよ。その周りの子達も明るかった」


 少ししんみりと話す彼女を見て、ツイスは意外そうな顔をする。


「感情移入をするほどなのか。興味が湧くな」

「まあね。あの子達も私を慕ってくれてたみたいだったから」

「そうか……」


 少しの間を空けて、ツイスが言葉を続ける。


「彼らも特別教室なんだろ? 懐かしいなあ。僕たちの出身校はここじゃないけど、やっぱり似たような造りだね」


 雰囲気を変えたツイスが懐かしそうに目を細める。

 ゼセンも机を撫で、右も左も分からなかった学校時代に思いを馳せているようだった。


 暫しの間、言葉が無くなる。

 開け放たれた窓から騒ぎ声と音楽が、風と炎に乗って運ばれてくる。


 穏やかな空間のなか、静寂を破ったのはラクロだった。


「そろそろ、話を始めようか」


 その声に二人は頷く。


「その前にツイス、能力使ってる? あまり聞かれていい話じゃないから」

「それなら心配ご無用。僕たちさっきまで校庭で買い食いしてたからね」

「ええ……、いいなあー。私も食べたかったなー」

「そっちもご安心を。ちゃんとラクロの分も有るのさ」


 そう言ってツイスは何処からか、ほかほかのクヴァシオ焼きを取り出す。


「珍しく気が利くではないかツイスぅ~」


 容器を受け取ってホクホク顔のラクロ。

 脱線しかけたところでゼセンが咳払いをして話を戻した。


「んで、結局俺達は何をすればいい?」

「もぐもぐ、もぐもぐもぐ」

「おいおい……」


 ラクロが食べ始めてしまったので、仕方なくゼセンは集められた概要だけを確認する。


「たしか、従属能力を持ったスクエラ種と構成変化を持ったティーキ種(灰色のカラス)が見つかったんだっけか。俺達はそいつらを倒しに行けばいいんだよな」

「ああ、僕もそう聞いたけど」


 ラクロは飲み物のように残りのクヴァシオ焼きを掻き込むと、こくんと頷く。


「そう、それもあるんだけど、それよりももっとヤバイ」


 長めの楊枝を容器のなかに入れ、輪ゴムで閉じると机の上に置く。

 彼女は先程とは打って変わって、真剣な目をした。


「〝王〟の居場所が分かったんだよ」

「「!!!」」


 ゼセンは音の無い驚愕の声を漏らし、ツイスは額に汗が流れるのを感じながら、乾いた笑いをこぼした。


「はは……、それは結構なことで。でも、この三人じゃ幹部クラスを倒すか退けるのが精一杯だぞ」

「あ、ああ、そうだ。さすがに俺らだけじゃないだろ?」


 その問いにラクロは肯定する。


「あと三人いるみたいだよ。その中の二人はよく知ってるんじゃないかな。ハロウとシエンっていうんだけど」

「それなら聞いたことがあるよ。一緒に仕事をしたことは無いけど、かなり強いらしいな」

「あと一人ってのは誰なんだ?」

「ええと、ハハトって名前らしいんだけど、分かる?」

「いや、聞いたことがないな……」


 ゼセンは頭を捻るが、ついぞ聞いたことがない名前だった。


「うん、私もよく知らないんだ。今度六人で顔合わせをするから、そこで色々話をすればいいんだけどね」


 ここでまた静寂が訪れた。

 ツイスとゼセンは共に、〝王〟や他の三人について考えているようだった。

 そこに穏やかさは無い。これから始まる戦いに皆緊張していた。


 外では一際明るい炎が空へと巻き上がり、夜闇を迸る。

 どうやらキャンプファイヤーと祭りが終わったらしい。

 場違いな指笛や拍手がこの特別教室にも届いた。

 しかし、その歓声や炎に溶けて漂う想いが、張り詰めた空気をほどくのにさほど時間はかからなかった。


 ツイスはふっ、と息を吐いて頭を掻くと、口の端を吊り上げた。


「ま、今悩んでもしょうがないよな。まずはその居場所とやらに行ってみるっきゃないってことさ」


 気丈に笑う彼に、ゼセンもニヤリとする。


「カッコつけんなよ、ツイス。お前、一人じゃ何も出来ないだろ」

「だね。最強だけど最も弱っちいもんね」

「ラクロ、それ褒めてるのか……?」


 ラクロの口調がいつの間にか今と少し違う、昔のものに変わっていることは、本人も含めて三人は気付かない。

 そしてツイスとゼセンも、仕事では飄々としているのに、饒舌になっていることは分かっていない。


 三人はこの時だけ、昔に戻ったように談笑するのだった。

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