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第16話 お祭りの夜

 学校に着くと、すでに校庭には職員と生徒が集まっていて、誰かの話を聞いているようだった。

 四人はこっそりとその集団に紛れ込むことに成功すると、校庭に設置された即席のステージで話す二人の人物を見た。


「あれ、あの二人って……」


 ウナフが隣のミカゼに話し掛けると、ミカゼは驚いたような顔で頷く。


「ああ、あの英雄の二人だね……」


 ステージ上に居たのは、第二次スクエラ種大侵攻を食い止めた英雄だった。


 だからと言って何かが起こるわけでもないが、生徒は熱心に二人の話を聞いている。

 内容は先生が話すことと変わり無い。


 恐いかもしれないけど、誇りを持ってほしい。

 自分の力に決して溺れるな。むやみに殺すな。

 壁の外には美しい世界が広がっている。


 よく聞いた話だったが、実体験を交えて話す彼らの言葉には重みがあった。

 特に、外の世界で見た光景の話は、少年少女の心をひどく刺激した。

 興味を持つように話を展開していると分かっていても、悔しいかな憧れを抱かずにはいられなかった。



 三十分ほどの講演会はあっという間だった。

 話は終わりに差し掛かっていた。


「――と言うわけだね。みんな、僕の話を聞いてくれてありがとう。さて、本当ならここで終わりなんだけど、僕たちはこのお祭りの開会の合図を任されたみたいなんだ。任されたからにはド派手にやろうじゃないか。とっておきをみせるよ」


 そう言った灰色の髪の男性は、隣のマフラーで口元を隠す緑がかった黒髪の男性に何か耳打ちをした。そして彼は、口元は見えないがニヤリと笑ったようだった。


「さて、こちらに大きな銃があります」

「「「!?」」」


 いや、無かっただろ!?


 心の声が一致したように、生徒全員が驚愕の表情を見せた。

 無理もない。

 唐突に、ステージ上にアール種一人の身長をゆうに超すような、巨大な対物ライフルが現れたのだ。

 いや、生徒だけではない。

 職員も驚いている。と言うか、焦っている。


 ざわめきだす会場を物ともせず、口元を隠した男性は銃を手に取った。

 そして銃を真上に向け――――引き金を引いた。


 パシュン!


 放たれたのは銃弾ではなく光線。

 気の抜けるような音とは裏腹に、反動で起こった衝撃が会場を吹き荒れる。

 光線は恐ろしいほどのスピードで空を駆け上がり、漂っていた雲を吹き飛ばした。


 穴が開いたような空の真ん中で、光線は無音で、七色の巨大な花火となって弾けた。


ズッドオオオン!!


 後から響く音に悲鳴を上げる者もいたが、何よりその絶対的な威力と空を舞う虹の火の粉に見惚れた。


「さあ! 祭りの始まりだあー!!」


 その声に生徒と先輩能力者は全力で返すのだった。



 ほっとしたような顔を見せる職員の拍手の中、祭りは始まった。

 いつの間にかステージ上の二人がいなくなっていたが、何かの能力だろう。


 ウナフ達はまず、校庭のトラック沿いにある出店を回ることにした。


「私、もうお腹空いたなー!」

「うん、私も」


 カラコロと前を歩く美少女二人の後ろをミカゼとミエコは付いていく。

 店を出している先輩能力者や他の生徒、果ては職員まで目を留めるほどに美しい彼女達を前に、男二人は焦ったように声を潜め話し合う。


「おい、てめえ聞いてないぞ! 破壊力ありすぎだろ!」

「僕に言われてもねぇ!? でも男ならやるしかないだろ!」


 そう、この二人は女子組が来る前に、ミエコの部屋で作戦会議をしていたのだ。


 今日、手ぐらいは繋ごうと。


 告白した初日に顔に触れてかつキス未遂をするやら、ハグをするやらしておいて、何を言っているのだとつっこまれることは必至だろう。

 しかしそれ以来何もしてこなかったのだ。いや、何も出来なかったのだッ!!


 不甲斐ない自分から脱却するために、男二人で5W1Hを話し合ったのだが、ウナフとヒリアスの力を見せつけられて心が折れそうなのだった。

 そんなことは露知らず、ウナフは屋台に目を巡らせる。


「クヴァシオ焼きだって! おいしそう」

「クヴァシオ種って食べられたんだ」


 ウナフが指差す先には小さくカットされたクヴァシオ種の足が入った、球状の食べ物があった。

 初めて見る食べ物だが、買った人は美味しそうに食している。


 香ばしい匂いがこちらまで届き、空腹が刺激された四人は早速買うことにした。


 茶岩塩(ソースっぽい味の塩)を振りかけかぶりつけば、ほどよく焦げ目がついた外とトロトロの中身が調和し、何とも言えない幸福感が口の中を満たす。その秩序のなかに突然、くにくにした食感のクヴァシオ種が現れる。それは決して味の邪魔をする異物ではない。むしろ食感と味を飽きさせない、まさに主役なのだと気付かされた。


 もふもふと口から蒸気を出しながら食べること数分。

 空になった容器を捨て、次の食事を催促する腹を満たすべく、四人は出店を回り始めた。



 遠くの山脈に沈もうとする太陽は、空を赤く染め上げる。

 雲が散らされた真上の空も、いつの間にか薄い雲が覆い、太陽の光を反射してその存在を主張していた。

 徐々に夜が迫る、夕刻の時間。


 ゆっくりと食べ物系の店を回ったが、初めて見たのは最初のクヴァシオ焼きだけだった。食堂の料理の種類が多いから当たり前と言えばそれまでだが。

 とはいえ、肉類は全て本物を使用しているので美味しかった。

 特に、ウィスティム種(第2話参照)を丸ごと焼いて、スライスした肉をパンに挟んだウィスティムバーガーは、クヴァシオ焼きに匹敵するほどの美味しさだった。


 四人は膨れた腹を落ち着かせるため、食休みをすることにした。

 昇降口の階段に腰掛け、足をぶらつかせながら満足そうにお腹をさするウナフと壁に寄りかかるヒリアス。こちらも幸せそうだ。

 そして項垂れる男子二人。


「ヒリアス達よりもテンション上がっちまった……。俺はどうすれば良いんだ……」

「それはあの屋台がいけないんだ。それにあんまりガツガツ行っても嫌がられたら終わりだろ? この後には最大のチャンスがあるじゃないか」

「ああ、キャンプファイヤーか。もともとの狙いはそこだったな。よし、俺はやるぜ」

「その調子だ、ミエコ。ある程度後ろへ下がりつつ、適度に暗いところで、だぞ」

「何他人事みたいに言ってんだ。お前も頑張れよ」

「うぐっ……。あ、ああ、やるさ。やってやるとも」


 静かに夜は更けていく。


 キャンプファイヤーが始まるまでの時間にも色々と祭りを楽しんだ。

 校庭のステージでは無駄に上手い能力者の即席バンドが学校中を盛り上げ、クイズ大会やファッションショーなど、イベントが盛りだくさんだった。


 やがて、燃え盛るような熱気から、白い灰がちらほらと見える木炭が静かに大気を揺らめかせるように、どこか熟成された熱気となったとき。


 上空から丸太がふよふよと降りてくる。


 一向に準備されないキャンプファイヤーを疑問に思っていた生徒達は納得顔を見せた。


 校庭の真ん中から人が退くと、次々と丸太が積み重なり、井桁型のキャンプファイヤーが出来上がった。


 能力者学校ならではの光景を四人は眺めていた。

 ウナフの手首にはじゃんけん大会で手に入れた貝殻の腕輪、ヒリアスの髪にはファッションショーで獲得したかんざしが刺してある。


 先輩能力者や職員も終わりの空気を感じ取って、キャンプファイヤーの周りに集まってきた。

 相当な人数が校庭に集結した頃。


 何の予兆もなく、学校中の明かりが消えた。

 驚きで揺れる人波。

 しかし、その驚きは別のものへと変わる。


 キャンプファイヤーのすぐ上にぽっ、と小さい炎が出現した。続いて空に円を描くように現れる幾つもの火球。それらはゆっくりと中央へ引き寄せられていき、キャンプファイヤーの下部へ移動すると一気に着火した。

 そこから舐めるように這い上がっていく炎は、いまだ空中に浮かぶ一つの火球を目指す。

 やがて炎が、組み立てられた木を完全に包み、空中の炎も飲み込んで大きな火柱を上げた。


 固唾を飲んで見守っていた大勢もようやく歓声を上げる。


 その声に呼応するように炎は勢いを増して――――空中を踊り始めた。

 比喩表現ではない。本当に炎がキャンプファイヤーの上空を様々に姿を変えながら踊っているのだ。


 在学中の能力者は驚きと興奮の目で見つめ、卒業生は囃し立てるように声を出す。


 キャンプファイヤーが始まった。


 周りに集まるアール種たちは炎の踊りに触発されて、自然と体が動き出す。

 それを見た即席バンドはバックミュージックとしてケルトっぽい音楽を掻き鳴らした。

 熱気はキャンプファイヤーの円の外まで伝播し、遠目に眺めていた人も、誘われるように輪の中へ入っていく。


 内側にいた四人は雰囲気に押されるようにして、笑顔が漏れ出す。行動が大胆になっていく。

 ミカゼとミエコは目を見合わせ頷くと、それぞれウナフとヒリアスを誘導して二人ずつになった。


 ミカゼは輪の中で声を張り上げる。


「ウナフ! ちゃんと言えてなかったけど、それ似合ってるよ! すごくきれいだ!」


 ウナフは驚いたように目を見開いたが、すぐに頬を上気させはにかんだ。


「えへへ、ありがとう! ミカゼもかっこいいよ!」


 自然と手が差し出され、どちらからともなくその手を握るとBGMに合わせて体を揺らした。



 ――僕は揺れる髪と楽しそうに笑う声、その笑顔、纏う雰囲気、彼女の全てに見惚れた。


 ――私は少し跳ねた黒髪、見上げれば見つめ返してくれる慈しむような目、握った手、優しさ、彼の全てに惚けた。



 いつの間にか輪の外側に出てしまったようだ。


 人の影で炎の光が届かない薄暗がり。

 繋いでいた片手と同じように、もう片方の手も握る。

 向き合った二人。


 一歩を踏み出せば、体が触れてしまうだろう。


 男女は数瞬見つめ合う。

 刹那の初々しい躊躇いのあと、同時に足を踏み出した。


 今度は遮るものは何もない。

 二つのシルエットは一つに重なった。


 そして同じように重なったシルエットが反対側にもう一つ。

 初めてのキスは蕩けるように甘く、そして熱かった。


 四つの想いは二つになり、そして一つとなって火の粉舞い散る夜空に溶けていった。

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