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第15話 テスト最終日とお祭り

「はい、鉛筆を置いてください。回収するから回答用紙を裏返してね。お疲れ様でした」


 キンサ先生がそう言うと、特別教室の面々は思い思いに体を伸ばして緊張をほぐす。


 あれからさらに1ヶ月が経った今日は、能力者学校で行われるテストの最終日だった。

 そのテストは普通の学校とは内容が全く違う。


 壁の外での活動におけるサバイバル知識や、他種族の生態系と特徴の理解。

 能力者が所属する軍の指揮系統や、細かい部門の名称。

 そして自分の能力についての理解度と、それを活かした戦術、戦略を書かせる個別試験。個別試験では、ある程度ありふれた状況でのテンプレートな対応から特殊な局面での対処方法を自分の考えで綴るなど、幅広い。

 また実技試験もあり、能力の練度確認の他に、壁の外に出てのキャンプなどがある。


 実技試験は先々週に滞りなく終わったので、今日は本当の最終日なのだ。


 キンサ先生がテストを回収し終えて教室を出ると、それに続くように四人は疲れた脳に栄養を求めて食堂へ下りていった。


 食堂は同じことを考えた生徒で混雑していたが、席は十分にある。とはいえ、四人席は埋まっていたので中央の長いテーブルにミカゼとウナフ、ミエコとヒリアスで隣同士のいつもの席順で座った。


「どうする? 午後のお祭りのために軽めにしておく?」


 ミカゼの問いに三人は同意した。

 よく周りを見れば、そこにいる生徒はどこか浮き足立っていて、普段より活気がある。


 そう、今日はテスト最終日であると同時に、この学校に先輩能力者が来て催し物をする、数少ない息抜きと娯楽の日だったのだ。


「俺は『ヨロ~ズ』で済ませようと思う。お前らはどうする」

「僕もそうするよ。食堂は混んでるしね」


 それに女子二人は首を縦に振ると、制服の上着だけ背もたれに掛け、席をキープしつつ立ち上がった。


 連れ立って歩き、お馴染みの入店チャイムを聞きながら『ヨロ~ズ』へ。

 いつもよりは人がいたが、混雑しているわけではなかった。


 レジには気だるそうな女性店員と、ベテランっぽい熟年の女性店員がいた。

 生徒はだいたいベテランのおばさんの方で会計を済ませる。

 若い女性店員の方で会計をしない理由は、何かと話し掛けられてからかわれる事と、その人がそれなりに美人であるがゆえの気恥ずかしさからだった。男子にとっては年上の女性にからかわれるのは色々とダメージが大きいのだろう。


 ミカゼは暇そうにしている店員にちょっとした挨拶をした。


「こんちわです。店員さん」

「ん? おお、新入りくんか」

「もう新入りじゃないですよ。ミカゼです」

「そうだったね、ミカゼくん。今日はミエコくん達もいるのか」

「どうも」

「こんにちはー。今日も綺麗ですね!」

「こんにちは」


 この女性店員とは特別教室の面々もすっかり顔馴染みになっていた。

 ちなみに四人で始めて来たとき、一瞬でミカゼとウナフ、ミエコとヒリアスの両想いを見抜かれて全員が赤面するということがあったが、ここでは割愛する。


「今日はどうしたの? また世間話?」

「世間話だけをしに来たのはあの一回だけですよ。どんだけ引きずるんですか。今日はお祭りなんで、軽食で済ませようっていう話です」


 ふーん、と女性店員が答えると、今度はウナフが話し掛ける。


「店員さんは午後のお祭りには参加するんですか?」

「いい質問だね、ウナフちゃん。君とミカゼくんの愛に免じて重大発表と一緒に教えてあげよう」

「あ、愛だなんて……」

「余計なこと言わないでくださいよ! 恥ずかしいなぁ、もう」

「HAHAHA。リア充は滅べばいいのに」

「本音はそっちですか!? 何がしたいんですか!」

「まあ、冗談は置いておくとして」

「本当に冗談か? 目がマジだったぞ……」


 ミエコが店員の謎のテンションにげんなりしつつ、そうツッコミをいれる。店員さんはわざとらしく咳払いをした。


「ウナフちゃんの質問だけど、私はお祭りには参加しないよ。しないというよりは出来ないだね。何でかって言うと、私が今日をもってここから居なくなるから」

「え、どういうことですか」


 思わずミカゼが聞き返した。

 女性店員は事も無げに言葉を返す。


「ここよりも割りの良い仕事が見つかっただけだよ。楽しかったけど、本日が最後なのさ」


 突然の暴露にみんなは口をつぐんでしまう。

 少しの間の後、ミカゼが口を開いた。


「そうですか。向こうでも頑張ってください」

「なんか軽いね!? しんみりとした間は何だったのかなぁ。お姉さんびっくりだよ」


 するとヒリアスが申し訳なさそうに言う。


「いえ、寂しくないわけじゃないんですよ。それよりも店員さんならどこでも上手く出来そうな気がしているので。ささやかながら応援させてください」

「うん、私もそう思います!」

「おお……、ええ子や……。そこの男子二人は捨てて、私と一緒に来ないかね?」

「「結構です」」

「だあー! そんなはっきり言わなくてもいいじゃないかぁー!」


 喚く店員さんを尻目に四人は買い物を済ませた。もちろん会計はベテラン店員の方だ。


 「リアジュウ、メッスル」と呪詛の如く繰り返す彼女を正気に戻して、きちんと別れの挨拶をした。

 女性店員は困った顔をしながらも、どこか嬉しそうだった。



 食堂に戻ってきた四人はキープしておいた席に座り、デザートパンやおにぎりを開けて、一息つく。


「結局、名前教えてくれなかったね」


 湿っぽい雰囲気のなか、ウナフがそう言う。


「そうだね。怪しい事この上ないのに、頑なに喋ろうとしないんだよな」

「偽名でも名乗りゃあいいのに。ああ、でもあの人ならすぐにボロが出そうだな」


 ミエコの言葉にみんなは納得して笑い合う。


「あの人が能力者学校で働いていた以上、関係者なことは確実だからまたどこかで会うかもしれないよね」

「うん、そうだね。私たちも頑張らないと」


 気を利かせた男子二人のおかげで、その場は温かさを取り戻した。


 そうして短い昼食を終えたあと、もう一度だけ彼女に挨拶をして、着替えのために生活棟へ戻るのだった。



>>>



「うん、これで良いかな」

「ありがとう、ヒリアス」


 ウナフは着付けを手伝ってくれたヒリアスに礼を言った。


「似合ってるよ、ウナフちゃん」

「えへへ、ありがとう。ヒリアスは綺麗だね」


 二人が着ているのは浴衣のような衣装だ。

 ウナフが淡い空色に白の花柄なのに対し、ヒリアスは濃い青で大人っぽい印象だ。

 3時頃から始まるお祭りは服装が自由なのだ。

 

 準備の出来た二人は早速、男子の待つミエコの部屋へと向かった。


 ヒリアスがインターホンを押すと、何やらバタバタと音がしてミエコが出てきた。


「お、おう、まあ上がれ……よ……」


 だが、そこでミエコが固まってしまう。


 しばらくそのままでいると、中々来ない三人に痺れを切らしたのか、ミカゼが奥からやって来た。


「何やってるのミエコ。ああ、ヒリアスさん似合ってるね。てか二人とも、見つめ合ってないで早く入ってくれるかなぁ」


 玄関で動かない二人にそう声を掛け、溜め息をついた。


「ごめんね、ミカゼ。なんかミエコが固まっちゃって……」


 ヒリアスの後ろにいたウナフは、ドアノブに手を掛けたままのミエコの下をくぐり抜けて部屋に入ってきた。


「まあ、その気持ちは分からなくもないけ……ど……」


 今度はミカゼがウナフを見て硬直してしまった。

 ウナフは突然見つめてきたミカゼの目を、恥ずかしがりながらも見つめ返す。


 まっったく進まない。


 何とかして魅惑による行動阻害を抜け出した四人は、赤い顔を手で扇ぎながら部屋に入った。

 だが、よく時計を見ればもう3時ではないか。

 パンフレットを見て何をするか決めようとしていた時間を、見つめ合うだけで無駄にした彼らは、慌ただしくその場を後にした。


読んでくださり、ありがとうございます。


唐突にこの世界の長さ基準について。

単位はノルト(n)で、1n=0.78125mです。

ちなみに、1m=1.28nです。

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