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第14話 変化

短めです。

時間経過を2ヶ月→3ヶ月に修正しました。

 アール種が他種族を恐れるようになってから32年。

 鳥のさえずりや魚が水面をはねる音、動物の営みを身近で感じたことがない彼らは、どこか心の奥に恋しさのようなものが有るのだろうか、植物や無生物を擬人化、擬獣化することが多い。


 近年では植物をペットのように可愛がり、物に異常な愛着を持つ人もいると言う。

 彼らは閉ざされた壁のなかで、近親相姦のような交配を繰り返し、同族に愛情を抱けなくなってしまうのだろうか?

 いや、そうはならないだろう。

 いつか能力者が彼らを率い、殻を破って新たな道を進むときが必ず来る。他種族との共存を目指して。


 相当話がそれたが、つまり彼らは朝、鳥ではなく葉のさえずりや目覚まし時計の呼び声で目を覚ます。

 そんなミカゼも例外ではなく、


「うるさいなぁ……」


 とジリジリ怒鳴る時計に文句を言うのだった。


 その針が指す時間は5時半。

 なぜこんなに早いのかと言われれば、彼が朝早くにマラソンをしているからだった。

 時が経つのは早いもので、ミカゼが能力者学校に来てから3ヶ月が過ぎようとしていた。

 生活には慣れ、クラスメイトとの関係も良好だ。


 気掛かりなのは、家族がなにか隠し事をしていることだろう。

 母は妹の学校についての話題をどことなく避けるようになったし、当の妹はこちらを心配させまいという、優しくて痛いほどの強がりな意志をありありと感じた。

 さすがに兄と話すのも辛いとなれば、ここを抜け出して会いに行くが、今のところそれはないようだ。

 だから今は一刻でも大切な人たちを守れるように、その優しさに甘えるとしよう。


 ミカゼは防風のジャージに着替え、今日も今日とて走り込みに出掛ける。と言っても生活棟から学校までの道のりを行ったり来たりするだけだ。

 もちろん、充填能力は使ったまま、そしてイングス先生の動きを真似て蹴り技を繰り出しながら走る。

 第三者から見ればかなり恥ずかしいことをやっているけど、あまり速く走りすぎると能力の使用を疑われて、探知に引っ掛からないことがばれてしまうので、脚力強化を使うために所々で体術の型を挟んでいるという寸法だ。


 ミエコも最初の頃は走っていたらしいが、段々と午後の訓練が過激になってきたそうで、先生からちゃんと体を休めろと釘を刺されてしまったらしい。

 素直に聞く玉じゃ無いと思うのだが、不思議と逆らう気分が起きなかったと語った。

 都合のいいように自分が作り替えられているかも知れないことに、最初は腹が立ったようだが、今では割り切ったそうだ。自分の手の届く範囲が大きくなればそれでいいと。


 強いと思った。

 だから負けじと努力して来たおかげで、最近はスタミナもだいぶ付き、充填スピードと最大充填量、そして放電の威力も上がってきた。


 それと同時に、自分の能力がますます分からなくなっていた。

 能力値、つまり能力の最大出力は生涯成長することが無いと言う。

 ならぱ、充填能力や放電能力、脚力強化の性能の向上はおかしいことなのではないか。そして、どこまで成長していくのだろうか。


 ここまでの考察を、コピーした能力が探知されないことも含めて、先生達に話すつもりはない。

 午後の訓練は、ここ3ヶ月ずっとコピー能力を空打ちしながら脚力強化なりを使うことにしているのでバレていないはずだ。


 そうしてミカゼは約一時間のマラソンを終え、一度シャワーを浴びると、いつも通り中庭でクラスメイトを待つのだった。



>>>



 いつもの食堂、いつもの朝。


 特別教室の四人は端っこの席に陣取っていた。

 今日は本物の魚を仕入れたと言うことで、ほとんどの生徒が焼き魚定食を注文している。

 他の生徒より早く来ている四人も、すでに半分を食べ終えた焼き魚定食が四つテーブルの上に並んでいた。


「洗脳にも程度がある?」


 特別教室のなかで、朝の話題提供はミカゼがするという一つの定番みたいなものが出来ていた。

 本日は朝のマラソンの時にそんなことを考えていたこともあって、この学校が生徒に施す怪しい何かを題材にしたわけだが、なかなかどうして興味深い議論になっている。


「たぶんな。ウナフが一度言いつけを破って能力を使ったことあっただろ。俺の場合、勝手に使う気すら起きない」

「私もミエコくんと同じかな。ウナフちゃんが能力を使っちゃったって知ったときはすごく驚いたよ」

「うーん。ということはミエコとヒリアスの能力は危険で、私のはそうでもない? えぇ、自分で言うのもあれだけど、私のも結構危ないと思うんだけどなぁ……」

「僕の場合はそういう制限はほとんどないと思う。自分の能力を喋るって選択肢は無いけど、使用することに関しては……。あっ、もしかして、同族に使うことが有るか無いかで程度が変わるんじゃないか?」

「ああ、一理あるかもな。俺のは絶対にアール種に使うことはあり得ない」

「なら私もそうかもしれないです。間接的になら使えると思うけど、直接は無いです」

「私のは、うーん。線引きは難しいけど、一応使えるかな」

「僕もウナフと似たような感じ。でもここを出るときは少し緩和されるよね。どこに配属されるか分からないけど、自分の能力については話せないと色々不便だろうし」

「それまで俺らは半年弱の辛抱だ。お前はあと21ヶ月残ってるけどな」

「それを言うなよ! 結構気にしてんだからさぁ。僕だってウナフと一緒に居たいし……」

「死ね」

「ド直球だね!?」

「そんな……。ミカゼ、恥ずかしいよ……」


 さっきの真面目な雰囲気はどこへやら、年相応のくだらない話を始める男子二人。そこに最初のようなわだかまりは無い。

 ウナフはミカゼの無意識発言に撃沈し、ヒリアスはそんな三人を微笑ましく見ながらも、虎視眈々とミエコへのおねだりを狙っている。


 そこには、どこか噛み合っている仲の良い四人の姿があった。

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