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異世界の王様  作者: 池崎数也
第二章
42/191

第四十一話:志信先生による戦闘訓練

 夏の朝特有の清々しさを感じながら、義人は念入りに準備運動を行う。

 服装は薄手の半ズボンに黒のTシャツで、優希に作ってもらったものだ。靴も紐で結ぶものを履き、ある程度体を動かして不備がないか確かめる。

 最後に深呼吸をすると、自身と同じように準備運動をしていた志信へと目を向けた。


「よし、それじゃあお手柔らかに頼むよ」

「ああ」


 志信も準備が整ったらしく、悠然と相対する。その向こうでは、カグラがいつものように微笑みながら立っていた。




 事は前日の夜へと遡る。

 以前早朝に散歩をして以来、義人は六時前後に目を覚ますことが多くなった。ならばと散歩をしていたのだが、それも数日で飽きがくる。


「んー……志信は朝から自主練してるらしいし、俺も混ぜてもらうかな」


 八時頃まで寝ていても良いが、そうなると眠り過ぎという気がしてならない。それに、日中に政務ばかりしていると思いっきり体を動かしたくなるのだ。

 幸いと言うべきか、志信は二言で承諾。そして、義人の予定と違ったのはそこでカグラが口を開いたことだった。


「では、並行して魔法の訓練も行いませんか? 初歩の自分にかける『強化』なら、自身の魔力を操作しながら体を動かす訓練になります。上手くいけば身体能力を向上させることもできるので、シノブ様との訓練も実りのあるものになると思いますよ」


 笑顔で提案してくるカグラだったが、義人は首を傾げる。


「並行して練習って……身につくのか?」

「ええ。魔法使いも魔法剣士も、最初は体の動かし方から学びます。魔力というのも、言わば体の延長上のものですね。手を動かすように魔力を動かし、魔法を使うことを覚えていくんです」


 カグラの説明に、義人は自分の手を見下ろす。どうやら魔力を操作することに慣れれば自分の手のように動かせるらしいが、義人にはそれがどんな感覚か想像もできない。


「カグラ、魔法とやらは俺でも使えるのか?」


 そんな義人を他所に、志信がカグラへと尋ねる。カグラは志信を頭からつま先まで見ると、納得するように頷いた。


「大丈夫だと思います。ヨシト様ほどではありませんが、シノブ様も魔力を持っているみたいですから」

「そうか……では、俺も少し教えてもらうとするか」


 そう呟く志信に、義人はため息を吐く。

 志信は魔法を教わるだけですむが、自分は魔法と格闘を両方同時に学ばなくてはならないのだ。

 もっとも、学ぶ時間が限られているため所詮は付け焼刃にすぎない。覚えきれるかわからなかったが、それでも知らないよりはマシだろうと自身を納得させた。

 生兵法は怪我の元ともいうが、生兵法にすら届かない気がすると少し気落ちもしたが。



 そして現在、義人は志信を相手に適当な構えを取っていた。

 志信のように武術を習っていたわけでもないため、志信の見様見真似で構えを取る。僅かに腰を落とし、半身開いて両拳を握った。左拳は軽く握って適度に前へと出し、右拳は腰付近へと構える。


「義人、それは俺が無手の時の構えだな?」

「ああ。というか、これくらいしか知らないし」

「そうか。ならば、もう少し下半身をリラックスさせろ。足の筋肉が緊張していては、滑らかな動きがしにくい」

「ういっす」


 軽くステップを踏むように、足を小刻みに動かす。そんな義人の動きを見た志信は、腕を組んで頷いた。


「さて、それではまずは義人がどれほど動けるかを調べたい」

「ん? 百メートル走でもするか?」

「いや、それは良い。元の世界での運動神経と照らし合わせれば、おおよその運動能力はわかる。俺が言っているのは……」


 志信はそこまで言葉を紡ぎ、流れるような動きで構えを取る。義人の見様見真似の構えとは違い、堂に入った隙のない構えだ。そして、何が楽しいのか小さく笑う。


「戦いにおいて、どこまで動けるかだ。反射神経、攻撃速度、見切り、体捌き。それと咄嗟の状況判断等だな」

「どうやって調べるんだ?」


 志信の構えに内心で感嘆しつつ、義人は尋ねる。すると、志信は小さな笑みを僅かに引き締めた。


「簡単なことだ。手合わせをすれば良い」

「ハッ、成程。そりゃ簡単だ」


 義人とて男の子だ。こういった“戦い”などには憧れる心がある。

 威勢良く志信を見据え、一度深呼吸をして駆け出す足に力を込めていく。


「それじゃあ、いくぜ志信!」


 自身を鼓舞するように声を張り上げ、義人は駆け出した。




 ―――その十秒後、義人は地面に寝転びながら青空を見上げていた。


「ああ、今日も良い天気だ」


 ひんやりとする地面に全身を預け、虚ろな目で青空を見上げる。

 構えはともかく、喧嘩さながらに殴りかかった結果がこれだ。

 突き出した右拳は空を切り、気づけば視界が回転。それに意識が追いつかないまま地面へと叩きつけられ、義人は現実逃避気味に青空を見つめていた。


「アレっすよ。視界からいきなり姿が消えるとか、どこの漫画かと」


 拳が志信を捉えたと思った瞬間、文字通り志信が消えた。そしていきなり体が縦に回転し、地面へと落下。合気道、いや、あるいは投げ技だったのかもしれない。

 どちらにせよ、義人には見分けがつかなかった。


「大丈夫か?」

「……おー。以前受身を習ってなかったらやばかったけどな」


 そう言いつつ身を起こそうとするが、実際は受身を取り損ねたらしく微妙に体が痛い。もしも地面がコンクリートだったならば、今頃全身を強打して死に至っていたかもしれなかった。


「加減はしたのだが……大丈夫か?」


 地面に転がった義人を見た志信が、少しばかり心配そうな声を出す。義人はなんとか上半身を起こすと、軽く頭を振った。


「いやぁ、流石は志信。動きすら見えなかったよ」


 一体どうやったのかと疑問を乗せて呟いてみれば、志信は不思議そうに首を傾げる。


「見えていなかったのか? 目は俺の動きを追っていたから、対応できると思ったのだが」

「え? 俺、目で追ってたのか?」


 言われて思い返すが、意識が追いついていなかったため判断できない。反射的に志信の動きを見たのかもしれないが、頭のほうがそれを認識していなかったのだろう。

 義人はそう判断すると、とりあえず立ち上がる。


「よし、もう一本!」


 気合を入れるように叫び、再度拳を構えた。それを見た志信も軽く拳を構える。


「では、今度はもう少し遅い動きでいく。避けるか、防御。もしくは反撃してくれ」

「おう!」


 返事と共に志信が地を蹴った。五メートルほどあった距離を瞬く間に踏破し、義人から見れば目に止まらぬ速度で踏み込んでくる。握られた拳はいつの間にか掌底の形を取っており、カウンターを仕掛けるには速度が違いすぎた。


「ちっ!」


 義人は咄嗟に両腕を交差させ、背後へと跳躍する。攻撃が届かない距離に逃げる、もしくは衝撃をある程度殺せればいいと判断しての行動だったが、志信はさらにその上をいく。

 踏み込むはずだった右足はさらに地面を蹴り、義人が稼いだ距離をさらに潰す。そのことに義人が頬を引きつらせたが、志信は左足で踏み込み、体を捻りながら体重の乗った掌打を繰り出した。


「っ!?」


 交差した両腕の上から掌打を叩きつけられ、声を上げる間もなく義人は真後ろへと吹き飛ぶ。

 軽く五メートルは空中浮遊をしながら衝撃に耐えていると、それに合わせるように志信が距離を詰めてきた。


「速いって!?」


 足が地面に着くなり、義人は乾いた地面を滑るようにして勢いを殺していく。僅かに土煙が立ったが、それを気にしている余裕はない。すでに眼前には志信が迫っている。

 牽制のつもりなのか、志信はボクシングでいうところのジャブのようなものを左右交互に放つ。威力よりも速度を重視したらしいのだが、素人の義人の目から見れば十分に脅威だった。

 咄嗟にジャブを弾き、あるいは逸らす。鳩尾(みぞおち)にでもくらえば、悶絶すること間違いなしだ。

 義人は自分から攻撃を仕掛けようかと思ったが、今は衝撃を殺すために地面を滑っている。そのため、攻撃はおろか防御もできず攻撃を捌くので精一杯だ。

 志信のやつ、本当に手加減してるんだろうな!?

 そう思った瞬間、志信が左足を軸に体を捻る。その動作に見覚えがあった義人は、先程よりも頬の筋肉が引きつるのを感じた。


「ばっ、おまっ!?」

 志信が無手の際、最も得意とするのは手技や投げ技ではなく足技である。

 足技というのは下手すればバランスを崩すこともあり、相手に足を取られては不利になる。だが、その反面手技に比べれば威力は大きい。そして、志信が学んだ藤倉流では足を取られた際の対処法も存在している。

 もっとも、義人が危惧したのはそんなことではない。

元の世界での志信の運動能力を知っている義人は、身体能力が増した現在の志信の蹴りの威力を予想して血の気が引いた。

 恥も外聞もなく、身を投げ出す勢いで思いっきり地面を蹴って真横へと跳ぼうとする。志信の前動作から察するに放たれるのは前蹴りだ。ならば、思い切り横へと跳べば避けられるかもしれない。

 そんな一縷の希望を込めて、義人は必死に地面を蹴って回避を試みる。

 そして、跳ぶなり前蹴りが脇腹に掠った。


「のわああぁっ!」


 音を打ち抜くような速度で繰り出された前蹴りが掠り、義人の体が勢いに押されて横へと回転する。

 そして勢いそのままに地面を数メートル転がり、掠った脇腹へと手を当てた。


「……(えぐ)れてないだろうな。俺の腹」


 割と本気で呟くが、鈍い痛みが伝わってくるだけで出血もない。Tシャツをめくって見てみれば、掠った部分が赤くなっている。


「ヨシト様!? 大丈夫ですか!?」


 今まで様子を見ていたカグラが心配そうな表情で駆け寄る。どうやら、カグラの目から見ても今の一撃は大分危険なものだったらしい。


「もう! シノブ様! 今の蹴りは本気でしたね!?」


 義人の様子を確認するなり、カグラが割りと本気で怒鳴る。その怒鳴り声を向けられたわけではないが、義人はつい反射的に背筋を伸ばしてしまった。

 そんな義人の反応を他所(よそ)に、志信が申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや、すまん。義人の反応が予想よりも良かったため、体がつい動いてしまった。一応加減はしたが……」

「加減してあれかよ……」


 直撃すればどうなったか。それを想像して、義人は少し顔色を悪くする。


「しかし、中々良い反応だった。俺としては、手技を捌くのは無理だと思ったのだが」

「捌いたっていうよりも、必死に弾いただけだって。というか、組み手よりまずは基本を教えてくれ。できれば防御を。いきなり組み手はもう嫌だ」


 義人が頼むように言ってみると、志信は少しだけ考え込んで頷く。


「防御か。そうだな、相手を倒す技よりも、自分の身を守る技のほうが良いか。カグラ、王剣を義人に」

「ノーレ様を? シノブ様、一体何をするつもりなんです?」

「無手の場合と、剣を使った場合ではどれくらい動きが違うのかを見たい」

「……きちんと手加減をしてくださいね?」


 ニコリと、笑顔で釘を刺すカグラ。その笑顔に薄ら寒い殺気のようなものを感じた志信は、迷わず頷いた。


「もちろんだ」


 そう言って、志信は近くに立てかけておいた『無効化』の棍を手に取る。それを見た義人もひとまず王剣ノーレを手に掴み、一息に抜き放った。


「よし、それじゃあ頼むぜノーレ」

『……ふん』


 頼りになる自身の相棒へと声をかける義人だったが、返ってきた声はかなり冷たい。それを聞いた義人は、思わず脱力した。


「ちょっとちょっと、ノーレさん。なんでそんなに不機嫌なんだよ?」

『……知らんわ、戯け』


 怒っているというよりは、拗ねたような声色である。

 義人は自分が何かしたかなと首を捻るが、そんな義人の仕草を見たノーレはさらに不機嫌になっていく。


『……巫女が気づかんかったら、妾をまた置き去りにしておったくせに』


 ぼそりと小さくノーレが呟くが、どうしたものかと考えていた義人にはよく聞き取れなかった。


「ん? なんだって?」

『何でもないわ、戯け! とっとと仏頂面に叩きのめされるが良いわ!』

「ちょ、ひどっ!? そこまで怒られるようなことをした覚えはないぞ!」


 何やら怒っているらしいノーレは、まったく聞く耳を持たない。そんな義人達の会話が聞こえない志信は、棍を軽く振るって構えた。


「それでは、いくぞ義人」

「ちょっと待ってくれと言いたいけど、仕方ねえ……来い、志信!」


 すぐにはノーレの機嫌が直らないと判断した義人は、ノーレを正眼に構える。それを見た志信は、ゆっくりと間合いを詰めながら口を開く。


「義人、お前は魔法でもなんでも使って良い。俺は魔法は使えないが、お前の出来ることを見ておきたい」

「……魔法、か。使いたいんだけど……使えないかな?」


 台詞の後半部分はノーレに向けた言葉だ。ノーレはしばらく沈黙していたが、やがて諦めたようにため息を吐くのが聞こえた。


『……ふぅ、仕方ない。駄々を捏ねてもこの唐変木には伝わらんか……まったく。良いじゃろう。補助してやるから、とっとと叩きのめされるが良い』

「言ってることが微妙に酷い気がするんだけど?」


 しかも、叩きのめされることが前提である。義人としては、そこは少しでも善戦しろと言ってほしかった。

 それでもなんとか気を取り直すと、義人は志信との距離を測る。

 義人の武器であるノーレは両刃の西洋刀だ。志信の扱う棍に比べれば、その間合いは圧倒的に狭い。それを補うために魔法を使おうとするが、志信の棍には『無効化』が付与されている。


『いや、ぶっちゃけ手詰まりっす』


 一合も武器を交えることなく、義人は思念通話で愚痴を吐く。それを聞いたノーレは、鼻を鳴らすように不機嫌そうな声を出した。


『戯け。戦う前から諦めてどうする。たしかに勝ち目はないが、なければ作るんじゃ』

『はっはっは。無茶を(おっしゃ)いますなノーレさん』

『戯言を言う暇があったら、とっとと攻撃せんか。魔法の使用は妾に任せよ』


 何が何でも戦わせる気らしい。義人は小さく息を吐くと、気を引き締める。

 それを待っていたのか、義人が気を引き締めた瞬間志信が動いた。


『右じゃ!』


 その動きを察知したノーレが警戒の声を上げる。義人はすぐさまそれに反応すると、右胸部を突きにきた棍先をなんとか弾いて逸らした。

 それに義人が安堵しようとすると、すぐに次の打突が放たれる。手加減はされているらしいが、攻撃が“線”ではなく“点”で放たれる打突は距離感がつかみにくい。その上攻撃の速度は速く、瞬きをする暇もなかった。


「よっ! はっ! とっ!」


 それでも、義人は何とか(さば)いていく。

 声をかけてからでは防御が間に合わないと判断したのか、ノーレは初撃以降声をかけない。義人は持ち前の動体視力と運動神経を必死に使い、次々と繰り出される棍先での突きを紙一重で捌いていく。

 手加減をされてはいるが、繰り出す打突はそれなりに速い。汗を流しながらも打突を捌いている義人を見た志信は、僅かに口元を緩ませた。


「素人にしては良い動きだ」


 小さく呟かれた賛辞の言葉を聞く余裕など、義人にはない。防御に専念しているためだろうが、その集中力は見事だと志信は内心で評価する。


「だが、足が止まっているぞ!」


 突きをフェイントにして足払い。上半身への攻撃に意識が集中していた義人は、突然足元へと繰り出された回し蹴りに反応できなかった。


『させん!』


 しかし、それにはノーレが反応する。義人と志信の中間に突風を発生させると、迷わず両者を後ろへと弾き飛ばす。

 警戒した志信は地面を蹴って後ろへ跳び、義人は風に体を押されて後ろへと飛んだ。


『ヨシト!』

「おう!」


 義人はノーレが魔法を使うのを察知していたのか、着地するなり王剣を振り上げる。そして、志信目がけて真横へと薙ぎ払った。

 その瞬間、幾多もの(かま)(いたち)が放たれる。義人の腕では狙いなどつけられないが、下手な鉄砲でも数撃てば当たるものだ。

 高速で飛来する鎌鼬に、志信は僅かに眉を寄せる。ミーファの炎やサクラの氷の矢と違い、風は視認することができなかった。


「ハッ!」


 それでも自身に迫る“何か”だけを察知して、『無効化』がかけられた棍先で鎌鼬を打ち消していく。

 都合七回棍を振るい、自身に迫った鎌鼬を全て『無効化』しながらも志信は義人の動きから目を離さない。そんな視線の先で、義人はさらに王剣を振りかぶっていた。


「もういっちょ!」


 今度は上段から叩きつけるように王剣を振り下ろすと、圧縮された風の塊が撃ち出される。

 かつてこの世界に来た際、いきなり襲ってきた鳥の魔物のシドリが使ったものと同じ魔法だが、威力は義人のほうが上だ。

 志信は地面の砂を巻き上げながら迫る風の塊を前にして、すぐに迎撃を判断する。棍を振り上げ、裂帛の気合と共に地面を割るように踏み込み、棍を振り下ろした。

 『無効化』が付与された棍は風の塊を両断すると、その勢いをもって霧散させる。それを見た義人は引きつった笑いを浮かべた。


『……あやつ、本当にお主と同じ世界の人間か? 風の魔法は視認できないはずなのに、何の迷いもなく自分に迫る魔法だけを打ち消しおったぞ……』

『……保証できないね。俺も、常々志信は人間離れしていると思ってたけど、まさかここまでとは思わなかったよ。というか、どうする? 不意を突いても無理だぞ?』

『あやつの武器に付与されている『無効化』が厄介じゃの。こうなったら中級魔法で薙ぎ払うのも手じゃが、おそらくそれも効かん。上級魔法は今のお主では到底扱えんし、お手上げじゃな』

『うへぇ……まさに鬼に金棒だな。味方なら心強いけど、敵に回すとこれほど厄介な敵はいないってか』


 思念通話で話し合うが、対抗策はない。いっそ特攻しようかと義人が考え出したところで、志信は構えていた棍を下げた。


「成程。王剣を使えば戦うことができるようだな。義人は目が良いし、反応も良い。防御に関しては成長が良さそうだ。その上でノーレがサポートに回れば中々に手強い」


 構えを解いた志信を見て、義人も緊張を解く。僅か数分の組み手だったが、どっと疲れを感じた。


「『強化』とやらがかかっているらしいし、義人は元々基礎運動能力に問題はない。あとは剣を振ることに慣れれば、それだけで一段階上の強さを得られるな。明日からは練習刀を使っての訓練をしよう」

「え、あ、うん。マジっすか。意外と高評価?」

『下の下程度じゃがな』


 ボソッとノーレが呟く。


「義人の場合、俺とは違って距離に関係なく戦える。俺の場合は近づかなければ攻撃できないが、義人は魔法を使えば良い。それが俺にはない強みだな」

『妾が協力せんと下級魔法すら使えんがな』


 さらに、義人にだけ聞こえるようノーレが呟く。


「志信は武器で『無効化』ができるから良いじゃないか」

「いや、どうやらこの棍では中級魔法までしか『無効化』は効かないらしい。あまり多用するのは控えるつもりだ」


 ノーレの言葉を何とか聞き流すが、ノーレは途切れることなく言葉を投げかけてくる。


『どうせお主では中級の弱い魔法しか扱えんから、仏頂面には通用せんな』

「……あの、さっきから何を怒ってるんでしょう?」

『自惚れるなということじゃ、戯けめ』


 ノーレの呟きが、義人の心には痛かった。


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