表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の王様  作者: 池崎数也
第一章
3/191

第二話:異世界

「はぁ? 召喚先の座標を間違えた?」


 一人の少女が、もう一人の少女に向かってそう尋ねる。


「はい。間違えたといいますか、こちらの世界に引っ張っている途中で糸が切れたといいますか……」


 それに対し、もう一人の少女は眉を寄せながら答えた。


「間違えた、じゃすまないわよ! どうするの? どの辺に召喚したの?」


 少女が詰め寄る。もう一人の少女は、眉を寄せたままで己の感覚からおおよその召喚位置を割り出す。


「多分、西の森辺りに……」

「魔物の巣窟じゃないの!」


 答えに、少女が叫ぶ。


「どうしましょう?」

「どうしましょうって……そりゃ助けにいかないと駄目でしょ。私の隊と、あとは手の空いてる隊を出して! すぐに行くわよ!」

「わかりました。事後承諾になりますけど、三部隊ほど出撃させます」


 もう一人の少女はそう言って、傍にいた兵士に声をかけた。その命令を聞いた兵士は、すぐさま駆け出していく。


「事後承諾ってアンタ……その承諾を取る相手を魔物の巣に放り込んだんでしょうが!」


「はぁ……返す言葉もないです」


 怒鳴る少女と、肩を落とす少女。だが、すぐさま片方の少女は駆け出す。


「それじゃ、わたしも行くから!」

「はい、お気をつけて。あ、会えたらちゃんとニホンゴで話しかけてくださいね? この世界の言葉で話しかけたら、多分警戒しちゃいますから」

「わかってるわよ!」


 一人は残って見送り、一人は駆けていく。


「……ふぅ」


 その様子を見ていた初老の男性は、心からのため息を吐いた。




「うーん……」


 寝返りをうつ。義人はそれを数十秒周期で何度か繰り返すと、ゆっくりと目を開けた。


「…………?」


 自分の部屋ではない。いや、そもそも室内ですらなかった。

 そこは鬱蒼と木が生い茂り、足元にはたくさんの落ち葉が敷き詰められている。天蓋では木から伸びた枝葉が日光を遮り、少し薄暗かった。

 吹く風は僅かに肌寒く、木の上に止まっている鳥はやけに馬鹿でかい。


「なんだ、夢か」


 即断すると、再び横になる。豊沃な大地の香りが鼻をくすぐったけれど、それすらも夢だと思い込むことにした。

 そうさ、目を覚ませばきっとベッドの上なんだ。だから眠って目を覚まそう……。

 そう思い、義人は再び眠ろうとして……跳ね起きた。


「って、こんなリアルな夢があってたまるかい! そもそも、眠って目が覚めるわけねーだろ!」


 自分自身に突っ込みを入れると、再度辺りを見回す。


「しっかりしろ俺! 実はこれが俺の部屋なんだ!!」


 それが本当ならかなり嫌である。

 義人は混乱が落ち着くように深呼吸すると、現状の把握をすることにした。何があったかを思い出し、この現象がなんたるかを推測する。


「たしか、学校が終わったから帰る途中だったんだよな。それで、いきなりここにきた」


 現状の把握は、僅か十秒で終わった。しかし、すぐさま首を捻る。問題は、どうやってここにきたかだ。


「もしかしてテレポート? うわ、俺って超能力者だったんだな……って、だからいきなり脱線してどうするんだっての。もっと真面目に考えないと」


 腕を組み、ブツブツと呟く様は一見異様である。誰かに見られたら、黄色い救急車を呼ばれるかもしれない。

 誰か……?

 ふと、義人の頭に疑問が掠める。そして、それに続いて冷や汗が流れた。

 やばい、混乱して二人のこと忘れてた。

 慌てて周りを見るが、優希も志信も近くにはいない。落下途中までは腕にしがみついていたはずだが、その姿はなかった。


「おーい優希ー! 志信ー!」


 声を張り上げてみるが、返事はない。義人は沈黙すると、とりあえず辺りを探すことにした。


「くそ、歩きにくいな」


 生い茂る草や、足元の落ち葉が安定感をなくす。そのことに軽く愚痴を言いながら、薄暗い周囲を見回していく。


「あれ? なんか、やけに体が軽いような……」


 歩いている途中で、義人は首を傾げた。いつもに比べ、体がかなり軽く感じられる。重力が変化したのか、もしくは自身の筋力が突然の異常発達をしたかのような感覚だ。

 あまりの違和感に、義人は軽くジャンプしてみる。すると、軽くなのにいつもの全力よりも高く跳べた。


「な、なんじゃこりゃー!」


 自分で跳躍したことが信じられず、思わず叫ぶ。

 そのまま着地すると、義人は頭を抱えた。これは、やはり夢なんじゃないかと思ってしまう。だが、すぐさま顔を上げた。

 高くジャンプできて、損はないだろう。バスケで簡単にダンクシュートが出来るじゃないか。ポジティブにそんなことを考えてみる。

 そう判断すると、人探しを再開することにした。なにはともあれ、二人を見つけないといけない。

 人の手が入っていないこと確実な森の中を進み、たまに立ち止まって声を上げる。すると、遠くのほうからきっと鳥のものだろう、『ギャーギャー』とか『クケケケケケ』なんて常識にない鳴き声が聞こえてきた。


「鳥か? いや、鳥だな。というか、鳥であってくれ」


 その鳴き声は徐々に義人に近づき、姿を見せる。その姿を見た義人は、あっさりと前言を翻した。


「ハッハッハ。OK了解コンチクショー。テメエら、絶対鳥じゃねえだろ」


 その姿を見た義人は、ヤケクソのように笑う。

 一メートル弱の体躯に、やけに鋭い嘴。羽毛は何の冗談か、艶のある紫一色。そして極めつけは、その額にある三つ目と頭の横から生えた二本の角だろう。そんな化け物チックな鳥が、三匹。

 世界の鳥類図鑑にもこんなの載ってなかった気がするなー。

 やや現実を逃避しながら、義人は内心で呟く。

 こんな鳥がいたら、間違いなく図鑑に載っているだろう。もしくは未確認の鳥類という可能性もあったが、この鳥は食物連鎖なんて軽く覆しそうである。つまり、生態系を狂わせるものだ。だから、きっと鳥ではないと義人は思いたかった。


「クケケケケケ!」

「うおっ! 飛べるのかよ!?」


 先程聞いた奇声で鳴きながら、化け鳥が飛翔する。一メートル近くある鳥が飛翔する様は中々に壮大だったかもしれない―――嘴を開けて、義人に襲いかかってこなければ。


「俺を食うつもりか!」


 自身に迫る危険を肌で感じ取り、義人は咄嗟に横に跳ぶ。その僅か横を嘴が掠め、風圧で義人はバランスを崩した。上体が泳ぎ、それを狙って二匹目の化け鳥が突っ込んでくる。


「っ!」


 バランスの崩れをそのままに、バク転の要領で後ろへと跳ぶ。やけに体が軽いせいか、予想よりも後ろへと着地した。

 運動神経が良くてよかった……。

 義人は自分の両親に感謝した。そして、三匹目が突っ込んでくる前に駆け出す。

 一歩地を蹴るごとに、落ち葉が舞い上がる。その落ち葉の量に比例するかのように、義人の体は前へと進んでいく。今まで感じたことがないくらいの速さに、驚きつつも感謝した。

 これで逃げ切れる。そう思った瞬間、真横からの衝撃に義人は地面へと倒れこむ。全身を強く打ちつけ、意識が一瞬飛びかけた。


「な、に?」


 痛む体を押さえて、衝撃がきた方向を見てみる。しかし、そこには何もいない。ただ、少し離れた場所にさっきの化け鳥がいた。

 まさか、あの位置から……?

 義人は再び混乱する。原理はまったく不明だったが、あの化け鳥は遠距離から何かをしたようだ。

 化け鳥は義人の動きが止まったことを確認すると、悠々と傍に寄ってくる。そして嬉しそうに一鳴きすると、義人に飛びかかってきた。


「クケケケケッ!」


 鳴き声と共に、鋭い嘴と鉤爪が義人を捉えようとする。


 ―――その瞬間、風が奔った。


 すぐ横から、化け鳥の喉元に何かによる一撃が命中する。化け鳥は突然の攻撃に悲鳴を上げ、義人はそれを瞬時に判断すると、衝撃で僅かに下がった化け鳥の顔面に蹴りを叩き込んだ。そのまま蹴った反動で後ろへと転がり、痛む体を無視して立ち上がる。


「サンキュー志信! 助かった!」


 そして、すぐ傍で身の丈ほどの棒を構えた志信へと礼を言った。




 話は僅か前にさかのぼる。

 誰かに名前を呼ばれた気がして目を覚ました志信は、すぐさま周囲を見回して状況を確認。それと同時に感じた、ピリピリするような嫌な気配に眉を寄せた。

 辺りを見回すが誰もいない。そう判断しようとして、少し離れた木の陰で倒れこむ優希を見つけた。

 志信は小走りに駆け寄り、すぐに脈を診る。次いで外傷がないかをざっと確認して、何も怪我がないと判断した。気絶もしくは眠っているだけだろう。志信はとりあえず、優希を木にもたれかけさせておく。


「…………」


 沈黙したままで志信は思考する。

 常に冷静な彼は、この状況に置いても落ち着いて現状の把握に努めた。そして、先程から敵意を含んだ視線を感じている。

 その危険性を考えた志信は、傍に生えていた細木を手ごろな長さで折り取った。形は少々歪だが、十分武器になるだろう。ともすれば、棍に見えるかもしれない。志信は身の丈ほどの棍で一度突きを繰り出して、頷く。

 この場を移動するべきか、それとも留まるべきかを考え、すぐ傍で眠る優希に視線が向く。

人一人を抱えて移動するのは、得策ではない。


「クケケケケケ!」


 そうやっていると、不意に遠くのほうからそんな鳴き声が聞こえた。志信は棍を構え、辺りを探る。気配は近くにない。だが、それほど遠くでもなさそうだった。

 一度周囲を見て、眠っている優希に及ぶ危険がないことを判断して駆け出す。あまり足音が立たないように移動し、注意深く辺りを見回した。

 その際、いつもよりも体が軽く感じたが志信は無視する。今はそんなことを考えるときではないと、彼の直感が告げていた。

 そうやって走ること僅か、志信は目の端で何かを見つける。そちらに目を向けて見れば、一メートルほどの鳥らしき生き物がいた。ただし、それは志信に意識を向けておらず、他の何かを追っているようだ。


「あれは、義人?」


 その先にいたのは、義人だった。今まで見たことないような速度で走り、不意に横へと吹き飛ぶ。さっきの鳥が翼を振り、その直線状にいた義人が吹き飛んだ。それを見た志信は、今の現象が化け鳥によって起こされたものだと判断した。非現実的だが、それ以外に原因がわからないのだからそれが真実となる。

 義人の危険を察知した志信は、そのまま全力で駆け抜ける。先程の義人を上回る速度で走り、今まさに捕食せんと飛びかかっていた化け鳥に向かって踏み込む。手に持った棍を突き出し、一番効果の高そうな喉元へと一撃を叩き込んだ。


「サンキュー志信! 助かった!」


 それに反応した義人がすぐさま抜け出し、礼を言う。それを聞いた志信は、僅かに口元を笑みに変えた。



「志信、優希がどこにいるか知らないか! まだ見つかってないんだ!」


 義人は棍を構える志信にそう尋ねると、志信は油断なく棍を化け鳥に向けたままで首肯する。


「向こうにいる。眠っているが、危険はないだろう」

「そっか……無事で良かった」


 ほっと安堵の息を吐き、義人は表情を引き締めた。何はともあれ、まずは目の前の化け鳥をどうにかする必要がある。

 何は武器になりそうな物がないか辺りを見回すと、それに反応したように化け鳥が鳴き声を上げて羽ばたいた。


「っ!!」


 その動作に、最も早く反応する志信。先程の、義人が吹き飛ばされた現象と同じだという確証はないが、可能性は高い。その判断の元、義人を横へと突き飛ばして自身も跳ぶ。

 それに遅れて数瞬後、今まで二人がいた場所の落ち葉が吹き飛んだ。地雷でも爆発したかのように、落ち葉が千切れて舞い散る。


「な、なんだぁ!?」


 理解が追いついていない義人はそう叫び、予想を確信に変えた志信は着地と同時に駆け出す。離れた距離を瞬く間に潰し、棍の間合いに化け鳥を引き込んだ。


「しっ!」


 再度の踏み込みに、今度は額の三つ目を狙った打突。僅かに捻りを加えたその一撃は、正確に化け鳥の三つ目の一つを痛撃する。


「グギャァー!!」


 その痛みに、化け鳥は悲鳴を上げた。たたらを踏み、数歩後ろに下がる。だが、すぐさま翼を広げて跳躍した。大きな翼をはためかせ、棍の届かない位置まで飛ぶ。そして、身の危険を感じたのかそのまま木々に隠れるように飛び去った。

 志信は警戒を解かずに棍を構え、義人は他にも何匹かいたことを思い出して周りを見回す。しかし、今の騒動で警戒したのか化け鳥の姿はなかった。


「気配は消えた、か」


 志信がポツリと呟く。それを聞いた義人は、今度こそ心から安堵の息を吐いた。


「はぁ〜……いや、マジで助かった。ありがとな、志信」

「いや、大したことではない」


 十分に大したことだよ。

 義人は言葉に出さず、そう思う。正直な話、義人は手が出なかった。隙を突いて蹴りを入れてみたけれど、大した効果はなかっただろう。

 それに対し、志信の行動は素直に凄いと思えた。事実、化け鳥を追い返したのは志信一人の功績と言っても過言ではない。だが、本人は全く気にしていなかった。


「まったく、そんなところは相変わらずというかなんというか」


 やや呆れたように言ってみるが、そこに非難の色はない。義人は一度だけ大きく息を吸い込むと、気合を入れる。


「よし、まずは優希と合流しないとな」

「わかった」


 頷き、志信が歩き出す。義人は一度周りを見回してから、それに続いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ