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異世界の王様  作者: 池崎数也
第五章
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第百四十二話:忍び寄る影 その5

『―――ユキ、お主、魔法を使えるな?』


 そんなノーレの言葉を聞いて、各々が示した反応は様々だった。

 義人は思わず優希に視線を向け、小雪は首を傾げる。源蔵は会話の流れがわからないのか、不思議そうな顔をしながら片眉を上げた。


「…………」


 そして、優希は無言で答えることもしない。敢えて言うならば、小雪のように小さく首を傾げた程度だ。


『前々から、その可能性は疑っておった。“向こうの世界”から“こちらの世界”に移動した時といい、今回のことといい……これで確信が持てたわ』


 優希の反応をどう取ったのか、ノーレが話を続ける。ノーレは自身の言葉通り、確信を持っているのだろう。以前は言葉を濁していた彼女が向ける言葉には、一切のよどみがない。


「……確信?」


 ノーレの真剣な口調を聞いて、義人は疑問の声を向けた。以前、ノーレから『おそらくは』という程度に話を聞いていたが、どうやって確信を得たのか。未だに背中に隠れる小雪を抱きかかえて自身の膝に乗せると、言外に話を促す。


『ヨシト、以前妾がお主に『確信が持てたら話す』と言ったこと、覚えておるか?』

「え? あ、ああ……えーっと……たしか、レンシア国に行く途中でそんな話をしたよな?」

『うむ。そして、今回の騒動でその確信が持てた』


 今回の騒動というのは、義人が魔物に襲われた件だろう。そして、ノーレの言葉から連想する事柄が義人にもあった。


「俺があの化け熊に殺されそうになった時のことか?」


 そう言いながら、義人は記憶を掘り返す。

 化け熊が振り下した腕、いや、見ている光景すべてがスローモーションになり、時間が引き伸ばされたように感じた“あの瞬間”。それは、以前にも見たことがある光景だった。

 死ぬ間際に見ると言われる走馬灯などではなく、“流れる時間が遅くなった”ような感覚。暗殺騒動があった際には気のせいと思ったが、それも二度目になれば偶然ではない。


『うむ。時間停止……いや、遅延させたのか? どちらにせよ、並の魔法使いでは決して成し得ることではない。おそらくは、あの巫女ですら不可能じゃろう。そのような芸当ができる者は、魔物を含めてもそうはいないはずじゃ』

「……マジかよ」


 カグラでも使えないと聞き、義人は意味もなく天井に視線を向ける。しかし、すぐに返す言葉を見つけてノーレへと視線を向けた。


「でも、俺が聞いた魔法の中に時間の操作なんてなかったぞ?」


 義人が以前聞いた話では、魔法の種類は火炎魔法に氷魔法、風魔法に雷魔法、そして補助魔法の五つである。そして、そんな疑問を呈した義人に、ノーレはどこか疲れたような声で答えた。


『……非常に馬鹿げた話じゃが、分類で言えば補助魔法になるじゃろうな。以前にも言うたが、魔力とは『世界に干渉する力』じゃ。その魔力を使って想像……お主の言うところの『いめーじ』をして魔法を発動させる。そう考えれば、ユキは魔力を使って時間を操作するようにしたんじゃろう』


 ノーレとしても予想外だったのか、その声色は平静のものとは僅かに異なる。そして、そんなノーレの言葉に対して、優希は何も答えず沈黙するだけだ。

 いつも通りの優希の表情を横目に見ながらも、義人はノーレへと次の質問を投げかける。


「優希が魔法を……それもカグラでも使えないような魔法を使ったっていうのは、まあ、一応理解した。でも、確信を持ったのが今日とはいえ前々から疑っていたんだろ? なんでもっと早くその可能性を言ってくれなかったんだ?」


 尋ねながらも、義人は思い出す。ノーレの口ぶりからすると、だいぶ以前からその可能性を疑っていたはずだ。


『それについてはすまん、としか言えぬ。確信が持てず、偶然の可能性もあった……いや、“こちらの世界”に移動してきたことや、今回のことがなければ妾とて偶然で済ませていたじゃろう』


 しかし、と言葉を区切り、ノーレは言い辛そうに言葉を続ける。


『ユキの魔法の使い方は、通常の魔法使いとはかなり異なっておってな。お主に話すことが……いや、“向こうの世界”で口にすることが(はばか)られたんじゃ』

「かなり異なるって……え? なんだよそれ。もしかして、優希が普通の人間じゃないとでも言うのか?」


 本人の傍で尋ねることではないが、義人も気が動転していたのだろう。思わずそう尋ねてしまうが、それに対してノーレは否定する。


『いや、ユキは人間じゃよ。コユキのように、何かが化けているわけでもない。お主同様、先祖に魔力を持つ“何か”が混ざっておるじゃろうが、間違いなく人間じゃ。ただ、魔力量がちと大きいがのう』


 以前優希の魔力量を『魔計石』で計ったことを思い出し、義人は小さく相槌を打つ。優希の魔力量は『魔計石』で計れる上限を超えており、間違っても少ないと言える量ではない。カグラと同等か、もしくは小雪並、下手をすれば小雪以上である。義人は優希が魔法を使うことができないと考えていたため、魔法が使えるとわかった今ではその魔力の大きさは驚異的と言えた。

 思わず黙り込む義人だが、そんな義人に対してノーレは話を続ける。


『妾が最初に疑問を持ったのは、だいぶ以前のことじゃ。妾とヨシトが思念通話をしておる時に、ユキが会話に参加してきたことがあった』

「……それがどうかしたのか?」


 何か気になる点でもあるのだろうか、と義人は首を傾げる。そんな義人に、ノーレは呆れたような声を漏らした。


『わからぬか? ユキは妾とお主の思念通話……つまりは魔法を感知したんじゃ。あの巫女やメイドでも、最初は気付けなかったものを、じゃぞ?』

「……あ」


 ノーレの言いたいことを理解して、義人は思わず手を打つ。


『妾も、最初は気付かなかった。あまりにも自然に会話に加わってきたからのう。何度かそのようなことがあって、途中で気付くことはできたが……その場にいる全員に向かって話しかけていた時もあったから気付くのが遅れたわ』


 そう言われて、義人は記憶を辿る。思い返してみれば、確かにノーレとの会話に優希が途中から参加してきたことがあった。


『それとヨシト、これはお主が知らぬことじゃがな』

「……なんだよ? まだ何かあるのか?」


 優希が魔法―――それも、時間を操作するなどという、“向こうの世界”に多少慣れた義人でも首を傾げざるを得ない魔法を使ったのだ。正直なところ、すでに義人としては頭がパンク寸前である。体調が悪いというのも手伝って、今にも布団に倒れ込んでしまいたい気分だった。


『お主が魔物と戦っておる場所に妾達を案内したのは誰じゃと思う?』

「それは……小雪じゃないのか? 小雪なら俺の匂いとか魔力とかを辿りそうだし」


 以前レンシア国に行く際に戦った風龍のフウを思い出しながら返答する義人。小雪ならば龍のため、匂いなり魔力なりに対して鼻が利くだろう。そう思っての返答だったが、それすらもノーレは否定する。


『お主の居場所を見つけたのはユキじゃよ。それも、迷うことなくこの場所まで妾達を連れてきたんじゃ』

「……はい? え? 優希がここまで案内したのか? 小雪じゃなく?」


 ノーレの回答に、義人は思わずそのまま聞き返す。


『うむ。妾も最初は小雪にお主を探すように言ったのじゃが、無理でな。しかし、優希がお主の元に案内した。一度も迷うことなく、な』


 それがどんな意味を持つのか。僅かに視線を鋭くして、義人はノーレを見据える。


「それは……ノーレにも、カグラやサクラにも無理なんだよな?」

『巫女ならば可能かもしれぬ……が、断言はできん』


 カグラなら可能“かもしれない”。そう言われ、義人は言うべき言葉をなくして沈黙する。


『おそらくは、じゃが……』


 そんな義人に遠慮しているのか、ノーレはそこで一度言葉を切った。しかし、告げずにはいられなかったのだろう、ノーレは静かに告げる。


『―――ユキは、お主が関係している場合にのみ魔法を使っておる』


 おそらくは、と言いながらも、ノーレは確信のこもった声でそう口にした。それを聞いた義人は、隣に座る優希へ視線を向けながら口を開く。

 もし本当にノーレの言うことが正しいのならば、義人にも色々と符合することがあった。


「それじゃあ……もしかして、“こっちの世界”に戻れたのは俺が『元の世界に戻りたい』って願ったからか?」


 そう呟き、義人は思い出す。たしかに、召喚の祭壇の中で自分はその願いを口にしている。“こちらの世界”に戻りたいと、優希の前で口にしていた。

 そして今回―――否、以前の暗殺騒動を含めれば“今回も”と言うべきだろう。義人の危機を前に、優希は魔法を使用した。


「優希……今ノーレが言ったことは、本当なのか?」


 尋ねることに、何の意味があるのか。優希が否定したとしても、義人にはノーレの言葉が的を外しているとは思えなかった。それでも、優希の口から肯定の言葉を聞くまではと、答えを待つ。


「……本当って?」

「本当に、優希は魔法が使えるのか?」


 重ねて問いの言葉を投げかけ、しかし、優希は小さく首を傾げる。


「使える……のかな?」


 返ってきた答えは、非常に曖昧なものだった。優希自身もわかっていないのか、不思議そうな顔をしている。


「わたしにも、よくわからないんだ。昨日だって、義人ちゃんを助けたいと思っただけだから」


 そう言われて、義人は優希を真っ直ぐに見つめた。幼い頃からの付き合いであり、今は恋人同士である。もしも嘘をついているのならば、ある程度はわかる。義人の視線の意味を気付いたのか、優希も真っ直ぐに義人を見た。


「…………」


 嘘をついているようには、見えない。


「おとーさん……」


 無言で視線をぶつけ合う二人をどう思ったのか、小雪がオロオロとしながら義人の服の袖を引いた。それで我に返ったのか、義人は袖を引いた小雪の頭を軽く撫でて苦笑を浮かべる。


「ノーレの話は本当だと思うけど、優希が自力で魔法を使ったわけじゃないっていうのも本当みたいだな」

『おそらくは、無意識に魔法を使ったんじゃろう。しかし……』


 そこで、ノーレは口調に苦笑にも似た色を滲ませた。


『お主が関わる場合のみ魔法が使えるなど……まったく、呆れるほどの一途さじゃよ』


 一途というのは間違っているかもしれんが、と最後に付け足し、ノーレは苦笑の色を消し去る。


『そうなると、ユキならば“向こうの世界”と“こちらの世界”をつなぐことができるじゃろう。ヨシト、お主が本気でそれを望むのならばな』

「それは……」


 ノーレの言葉に、義人は思わず優希を見る。そんな義人の視線に対して、優希は再度真っ直ぐに見つめ返した。


「優希……可能、なのか?」


 小さく呟く義人。その声色に含まれているのは、僅かな期待と多分な心配。

 叶うのならば、もう一度“向こうの世界”に戻りたい。連れ戻せるのなら志信を連れ戻したいと思っており、それと同時に、“こちらの世界”で起こっている現象をどうにかする方法を知りたくもある。“こちらの世界”に戻る前のことを、カグラにも謝りたい。



 ―――でも、そのためには優希に無理を強いることになる……。



 “向こうの世界”から“こちらの世界”に戻ってきた際、優希は気を失っていた。おそらくは、多くの魔力を一気に消費してしまったからだろう。義人自身、今は多少マシになったが、魔法を覚えたての頃は中級魔法を使うだけで酷い疲労感を覚えた記憶がある。

 疲労を感じる程度の影響ならば良いが、それ以上の場合はどうなるのか。それがわからず、義人は眉を寄せた。

 もしも召喚魔法を使うのが自分自身だったならば、義人はここまで悩まなかっただろう。賭けるのが自分の身一つなら、当たって砕けろと挑戦したに違いない。だが、今回魔法を使うのは優希である。それも、カグラでさえ一度使えばすべての魔力を消費してしまう召喚魔法だ。実現の可否よりも、召喚魔法を使うことによって発生する優希への影響の方が気にかかってしまう。一体どれだけの負担がかかるのか、それを考えると容易に決断することはできなかった。



 ―――でも、代替案はあるか?



 そう自問するが、答えは“否”だ。

 義人自身が召喚魔法を使えるようになるというのも一つの手ではある。しかし、使えるようになるまでどれぐらいの時間がかかるかわからない上に、そもそも使えるようになるか保証がない。可能性としては、限りなく低いものになるだろう。魔法の技術も魔力も、圧倒的に足りないのだ。

 そしてなにより、“こちらの世界”に魔物が存在するという現状を前にすれば、悠長なことも言ってられない。空腹になった魔物がいつ人を襲うかわからず、時間的な余裕はないと言える。

 既に人を襲おうとした魔物がいる以上、決断は迅速に下すべきだ。今以上に騒ぎが大きくなってしまえば警察沙汰になり、最悪、自衛隊などが出動する騒ぎに発展しかねない。

 いくら警察でも、魔物の相手をするのは難しいだろう。小型の魔物ならどうにかなるかもしれないが、義人が戦った化け熊のような魔物が相手では分が悪い。自衛隊が持つ装備ならば話は別だろうが、そこまで話が大きくなってしまえば収集もつかなくなる。

 理屈で考えるならば、優希に協力を仰ぐべきだろう。このままでは時間の経過と共に“こちらの世界”、とりわけ義人自身が生まれ育った町に生きる人々が危険に晒される可能性が高くなっていく。

考え、悩み、苦悩する。眉を寄せ、義人はひたすらに思考を働かせる。

 恋人(ゆき)に負担をかける。その一点が、ひどく引っかかってしまう。魔物の存在も、魔法の存在も知らない“こちらの世界”の人間が危険だという事実も、建前に思えてしまうほどに。


「義人ちゃん」


 そんな義人の思考を遮るように、優希が声を上げる。その声に釣られて義人が優希に視線を向けると、優希は小さく笑った。


「義人ちゃんが望んで、わたしにその望みを叶える力があるのなら……」


 優希は手を小さく握り締めながら、自身の胸に当てる。迷っているのか、それとも何か考えているのか。僅かに目を伏せ、数拍の間を置いてから義人に視線を向けた。


「わたしは、それを叶えてあげたいな」


 その言葉とその瞳に、迷いの色はない。言葉に偽りなく、義人が望んだことを叶える気なのだろう。可能か不可能か、それすらも超えて叶えてみせると、優希の瞳が告げている。

 そこまで言われてしまうと、義人は何も言えなくなった。何かを言うべきで、何か行動するべきだ。そう思うのに、体が動こうとしない。

 そんな義人の代わりに、ノーレが言葉を向ける。


『ユキ、わかっておるのか? 安全とは言えんのじゃぞ? 妾も補助できるならしたいが、それも無理じゃ。それに、今回のように複数の人間を召喚魔法で“向こうの世界”に連れて行くとなると、魔力の消費も大きい。そうなると、お主の負担も大きいんじゃぞ?』

「うん、わかってるよ」


 ノーレへの返答にも、迷いがない。そんな優希の様子に気圧されたのか、ノーレは僅かに声を潜めて再度尋ねる。


『……仮に召喚魔法が成功した場合、再び“向こうの世界”に戻ることになる。そうなれば、もう一度“こちらの世界”に戻ってこられるという保証もない……それでも良いのか?』

「うん」


 変わらず、優希は迷いなく頷く。ノーレの言葉を信じていないというわけでもないだろう。断言する優希に、義人はゆっくりと口を開く。


「優希、本当に良いのか? 危険もある、“こちらの世界”に二度と戻ってこられない可能性もある。その、なんだ……優希の気持ちは嬉しいんだけど、優希に悪影響があるのなら、俺は……」


 俺は、どうするというのか。続く言葉が見つからず、義人は視線を彷徨わせる。何度か口を開いては閉じ、そして、大きくため息を吐いた。

 今後の方針は自分の意思一つで決まってしまう。そのことに、小さくないプレッシャーを覚える。

 迷う義人は、思わず優希へと視線を向けた。そして優希の真剣な表情が目に入り、ふと、その表情から以前聞いた言葉が脳裏に過ぎる。



『義人ちゃんは、本当に“それで”良いの?』



 それは、夕暮れの公園で義人が優希へ告白した日のこと。志信を見捨て、“こちらの世界”で生きようと優希に告げた、“あの日”のこと。



『義人ちゃんは、本当にその選択で後悔しない? 藤倉君のことを諦めて、忘れて、この世界で生きていって……後悔しない?』



 今、優希が向けてくるのはあの日と同じ表情、同じ視線だった。無言で、それでいて雄弁に告げてくる。

 本当に、それで良いのかと。その選択で後悔しないのかと、静かに義人の答えを待っている。

 もしも義人が『“こちらの世界”に残る』と言えば、優希もそれに従っただろう。魔物をどうにかしなければならないが、小雪の手を借りて駆逐すれば良い。根本的な解決にはならないが、時間稼ぎにはなる。


 ――だが、それだけだ。根本的な解決には、決して成り得ない。


 “向こうの世界”での人々に、親友である志信。“こちらの世界”での家族や友人に、恋人である優希。破綻から持ち直しかけていたカーリア国に、“こちらの世界”で魔物が人を襲うという現状。それらをすべて考慮し、己がどうしたいのかを自問し、義人は目を閉じる。

 内臓を締め付けられるようなプレッシャーが体調に響くが、泣き言も言えない。膝の上に座った小雪も、座布団の上に置かれたノーレも、話を聞き入っていた源蔵も、義人の答えを待っている。

 嫌な緊張感だった。カーリア国で約八万人の国民の生活を守っていた時にも感じていた、嫌な緊張感(プレッシャー)

 しかし、裏を返せば―――そんな緊張感(プレッシャー)など、“向こうの世界”で国王をやっていた頃にいくらでも味わっていたとも言える。

 く、と小さく苦笑し、義人は肩から力を抜く。そんなプレッシャーの中で国王という役職を投げて逃げ出さなかったのは、優希や志信の存在があったからだ。志信は義人の身を守るために近衛隊を組織し、優希は極力義人の傍にいた。特に、“こちらの世界”にいた頃と同じように接してくれた優希には精神的にも救われていただろう。

 そして今も、優希は“いつものように”義人の言葉を待っている。



 ―――まったく、俺には過ぎた彼女だよ。



 内心で独白し、義人はそれまでの苦悩をすべて飲み込む。そして今後どう動くかを決断し、目を開けた。

 義人が後悔するのが嫌だと、以前優希は言った。それならば、少しでも優希が安心するように後悔しない道を選ぶ。そう決断し、義人は大きく頷いた。

 義人の表情から思考の結果を悟ったのだろう、優希は柔らかな笑みを浮かべる。そんな優希に対して、義人も笑みを浮かべた。


「優希……ありがとう」


 謝罪を口にしても、優希は喜ばないだろう。だから、義人は心からの謝意を込めて礼の言葉を向けた。そして、決断したことを口にする。


「“向こうの世界”に戻るのを、手伝ってくれ」


 確かな決意を込めて、義人はそう告げるのだった。


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[一言] まさかの ヒロインが時空魔法使えるとは それも彼氏のため限定 愛が重すぎる
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