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異世界の王様  作者: 池崎数也
第四章
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第百四話:年の暮れに

「ふぁ……」


 年の暮れも迫り、城の中でも正月に向けて慌しい雰囲気が流れる中、義人は会議室の中で小さな欠伸を噛み殺した。すると、その欠伸をどう思ったのか義人へと声がかかる。


「ヨシト様、どうかされましたか?」

「いや、なんでもないよ」


 少し不思議そうな顔で尋ねてきたカグラに適当な答えを返し、義人は軽く目を擦った。そんな義人の視線の先では、財務大臣のロッサが資料らしき紙を片手に今年一年の“(かね)の動き”について報告をしている。

 昼食後に開かれたせいか、数人ほど眠そうな目をしていることに義人は内心で苦笑した。


 ―――やっぱり、昼飯を食べてすぐっていうのは間違いだったなぁ……。


 内心でそんなことを考えた義人だが、会議室の中で最も華美な装飾が施された椅子に腰をかけ、目の前の会議の推移を眺めているだけなので義人自身も眠い。

 そんな義人の右隣には『召喚の巫女』であるカグラが座り、左隣には宰相であるアルフレッドが座っている。だが、二人とも特に眠気を感じていないらしく、真剣な面持ちでロッサの報告を聞いているようだった。他にも主だった文官が揃っているが、眠そうな目をしているのはごく少数である。


「次に、秋の収穫期の際に納められた年貢に関してですが……」


 その中でも、報告をするロッサは真剣そのものだ。過去の過ちの清算とでも言わんばかりに、財務大臣になってからの仕事振りは真面目の一言に尽きる。

 それを見た義人は、実に良いことだと小さく頷いた。だが、それと同時に思うこともある。


 ―――みんな、働き過ぎじゃないか?


 カーリア国では、“元の世界”の日本のように週休二日制があるわけもない。“こちらの世界”全体のことは義人にはわからなかったが、少なくともカーリア国において休日に関した話を聞いた覚えはほとんどなかった。

 思い返してみれば、義人とて“こちらの世界”に召喚されてから休日らしい休日を過ごした記憶がない。

 政務をこなし、謁見を行い、会議を進め、視察に出かける。丸一日の休日はなく、休暇と言えば時折できる空き時間に羽根を伸ばす程度で、それも長くて半日あるかないかだ。


「なあ、カグラ」

「なんですか? ロッサ殿の説明でどこかわからないところでも?」

「いや、そうじゃなくて。ちょっと質問だけど、この国の休日ってどうなってるんだ?」


 気になったことをすぐさまカグラへと尋ねる義人。すると、カグラは僅かに怪訝そうな表情をしながらも口を開く。


「カーリア国においての正式な休日は、正月と建国記念日の二回ですね。あとは体調を崩した場合や冠婚葬祭の際に休暇を取られる人が多いです。兵士の場合は隊長の判断で休日を申請していますが……」


 それが何か、とカグラは首を傾げる。義人は僅かに苦笑すると、首を横に振った。


「少し気になっただけだよ。というか、この国にも正月があったんだな。それも歴代の国王の誰かが決めたのか?」

「はい。たしか八代前の国王だったかと思いますが」


 記憶を辿っているのか、カグラは少しだけ視線を遠くへ向ける。すると、それをどう勘違いしたのか、丁度話を終えたロッサが声を上げた。


「カグラ殿、何か質問でも?」

「いえ、そういうわけでは―――」


 ――ズドン。


 カグラがロッサの言葉を否定しようとした瞬間、不意に奇妙な音と僅かな振動が響く。まるで高所から巨大な岩でも落下したかのような音に、文官達は顔を見合わせる。


「またか……一体何が?」

「ここ数日、何度か耳にしますが……」


 音の出所が何なのか、文官達は声を潜めて話し合う。義人はそんな文官達の様子に少しだけ視線を外し、ため息を吐いた。そして、ロッサが最後の報告だったことを思い出して口を開く。


「ロッサの報告も終わったな。それじゃあ最後に、質問とか他に報告しておくことはあるか?」


 最後の締めくくりにと、義人はそんな言葉を口にした。すると、文官の一人が恐る恐るといった様子で義人へと声をかける。


「あの、ヨシト王……」

「ん? どうした?」

「時折聞こえてくる、この妙な音は一体何なのですか?」


 慌てる様子がないために義人が関わっていると思ったのか、声色には答えがもらえるだろうという確信がこもっている。そのことを感じ取った義人は、不安を解消するのも役目かと苦笑した。


「ちょっと、小雪が暴れてるんだよ」

 





「やー!」


 幼い掛け声と同時に繰り出される、大振りな拳。

 志信は繰り出された拳を危なげなくかわすと、すぐさま後方に跳んで距離を取った。すると、それを見た小雪は風を切りながら突撃していく。

 志信が離した五メートルの距離を一歩で詰め、勢いを殺しながら志信の懐へと飛び込んで体を回転させる。


「あ、た、れー!」


 そして、小雪から見ればがら空きの腹部目掛けて右拳を突き出した。だが、志信は半身開くだけでその拳をかわす。


「コユキ様、感情に任せて魔力を暴発させては駄目ですよ? ……あ」


 近衛隊と共にその様子を見ていたサクラが注意を投げかけるが、すでに時遅し。続けざまに振り下ろした小雪の拳が、殴りつけた地面を轟音と共にすり鉢状に陥没させる。


「あぁ……また穴埋めか……」

「筋力を鍛える訓練にはなるけど、何度も同じ作業をするのはきついんだよな……」

「俺達の休憩時間にするのは良いけど、その後の穴埋めがなぁ」


 それを見て、遠い目をする近衛隊の兵士達。

 ここ数日、近衛隊の訓練の休憩時間を利用した小雪の訓練が行われている。志信が組み手の相手を務め、休憩時間以外はサクラが魔法に関して教えていくというものだが、時折繰り出される手加減なしの一撃で地面が陥没するのがネックだった。

 兵士達の会話を耳にしたサクラは、傍で小雪の様子を見ていた優希へと声をかける。


「ユキ様、あとでコユキ様にもう少し加減をするように言ってもらえますか? わたしの教え方が悪いのか、コユキ様は中々その通りにしてくれなくて……」

「別に良いけど……サクラちゃんの教え方が悪いんじゃなくて、熱中している内に忘れちゃうだけなんじゃないかな? そのあたりは義人ちゃんにも似たところがあるけど」


 そう言って、手拭いを持った優希は志信相手に殴りかかる小雪を見て微笑む。サクラはそんな優希の言葉に気を入れ直すと、相変わらず志信へ殴りかかっている小雪に目を向けた。


「一撃の威力は文句もないのだが……いかんせん大振りに過ぎる。この前から言っているだろう? もっと手数を増やせ、と」

「わかってるもん!」

「……ならば、実践することだ」


 優希やサクラ、穴埋めのための道具を用意し始めた近衛隊(ギャラリー)を気にも留めず、志信と小雪は組み手を続ける。

 ひたすら拳を繰り出す小雪と、ひたすら回避を行う志信。小雪の動きは速く、攻撃はそれなりに鋭い。だが、目を見張るのはそれだけで動きそのものは単調だった。

 それに対して素人の、ましてや一歳にも満たない少女の拳に当たるような生易しい鍛錬を志信は積んではいない。小雪の動きを見切り、拳を避け、時折逸らしていく。

 しかし、一見余裕であしらっている志信だったがその表情は硬かった。


 ―――動きの速さ、攻撃の重さについては言うこともなし、か。龍の身体能力とは大したものだな……あと五年も修行を積めば、どうなるか。


 逸らすだけでも腕に衝撃が走る程度には、小雪の拳は重い。龍種としての身体能力と『強化』による底上げが可能にしているのだが、当たれば志信とて無事ではすまないだろう。そのため、小雪の相手は志信にとっても緊張感のあるものだった。

 魔法とはつくづく便利な力だと内心で呟き、志信は集中を強める。

 今はまだ単調な動きしかできないが、小雪も成長していけば様々な攻撃方法を覚えていく。そうなれば、組み手の相手をするのも難しくなる。

 それをどこか楽しみに感じながら、志信は拳を突き出したことで伸びきった小雪の右腕をつかむ。そして同時に小雪の足を払うと、なるべく衝撃を感じないよう注意しながら地面へと投げ倒した。


「うきゅっ!?」


 投げられ、奇妙な悲鳴を上げる小雪。志信はそんな小雪の様子に僅かな苦笑を浮かべると、大の字になって地面に倒れる小雪の顔を覗き込んだ。


「そろそろ終わりにするか?」

「う……うー……もういっかい! つぎはいっぽんとる!」


 悔しいのか、小雪は文字通り飛び起きる。そして腰を落とすと、志信が構えるのを待ってから地面を蹴った。


「……そういうところは義人にそっくり、か」


 小雪の言葉と態度からか、志信は小さく呟きながら苦笑を深めるのだった。




 


「おー、やってるな」


 会議室での回答だけでは納得がいかなかった文官数名に加え、カグラとアルフレッドを連れた義人は小雪が志信に飛び掛っていくのを見ながら楽しげに口を開く。


「いやぁ、やっぱり子どもは外で元気に遊ぶべきだよな?」

『遊ぶと言うには被害が大きいようじゃが……さすがの龍種といえど、すぐさま魔力の制御を覚えることはできないようじゃな。いや、長寿の龍種だからこそとも言えるのかのう』

「成長も緩やかってことか? たしかに、動きは単調みたいだけどさ」


 義人の目から見れば、小雪の動きは高速。しかし、それはどこか単調な印象を受ける動きでもある。志信と小雪の組み手を眺めながら、義人はノーレと雑談がてら話を続けていく。


「速いなぁ……でも、動きが真っ直ぐすぎるか?」

『そうじゃのう。あれでは避けるのも容易いじゃろうて。まあ、ヨシトでは避けられるかわからんが』

「いやいや、俺でも避けきれるって。多分、きっと……そうだといいなぁ」


 声が尻すぼみに小さくなるが、それに対する突っ込みはない。義人は少しだけ空しさを感じつつ、小雪の訓練を眺めている優希とサクラの元へ足を向けた。


「お疲れ様。小雪はどんな感じだ?」


 義人がそんな言葉をかけると、優希は笑顔で振り返り、サクラは慌てたように頭を下げる。


「も、申し訳ありません。コユキ様が魔力の制御を覚えるのには、まだまだ時間がかかりそうです」

「そうか……慌てなくて良いけど、なるべく地面を陥没させないようにさせてくれるか?文官連中から不安の声が上がっててな」


 義人はそう言って苦笑すると、様子を見に来た文官達に視線を向けた。それを見たサクラは表情を引き締めて頷く。


「出来得る限り早く、コユキ様に魔力の制御を覚えていただきます」


 気合のこもった声でそんな言葉を口にするサクラ。すると、それを擁護するように優希が口を開く。


「でも、小雪が地面を陥没させる回数は減ってきてるよ? 最初の頃は一日に十回以上穴を空けてたけど、今日はまだ二回だし」

「二回か。それならたしかに成長して……あ」


 思わず、義人は声を上げた。すると、それに続いて巨石が落下したような音が響き、僅かに地面を揺るがす振動が発生する。

 その場にいたほとんどの人間が震源地へと目を向けると、そこでは小雪が地面に拳を振り下ろした体勢で動きを止めていた。


「……やっちゃった」


 一応、注意はしていたのだろう。小雪が呟いた言葉には、僅かな申し訳なさがこもっている。それを聞いた志信は、警戒のために構えていた両拳を下ろした。


「今回はここまでにするか……休憩を取ったら、サクラに魔法について教えてもらうといい。魔力の制御さえ覚えれば、力加減も覚えるだろう。それと、次からはちゃんと手数を増やすように」

「うー……はい」


 小雪は志信の言葉に頷き、サクラの方へと振り返る。振り返った小雪はどこか落ち込んだ表情をしていたが、サクラの傍に義人と優希が立っているのを見てすぐさま喜色を浮かべた。


「おとーさん! おかーさん!」


 非常に楽しそうに、小雪が地面を蹴る。それを見た義人は、過去の経験からすぐさま『強化』を使いながら身構えた。そして、文字通り飛んでくる小雪をなんとか受け止める。


「ぐっ……な、何度も同じ手は食わねえ……」

『その割には、受け止めた衝撃で膝が笑っておるが?』


 ノーレからの指摘を受け流し、義人は飛び込んできた小雪を地面に下ろす。すると、今度は優希のほうへと小雪が抱きつき、それを見たアルフレッドが穏やかに口を開いた。


「ふむ、慕われておるのう。それに、子どもは元気なのが一番じゃな」


 そう言って、好々爺な笑みを浮かべるアルフレッド。その様子はまるで、公園で遊ぶ孫を見る祖父のようだった。そんなアルフレッドの後ろでは、連れてきた文官達を相手にカグラが現状の説明をしている。


「というわけでして、コユキ様に力の制御を教えているんです。そうしないと、城の中の物を壊されかねませんから」


 音や振動だけでなく、実際に小雪が地面を陥没させる光景を目の当たりにした文官達は冷や汗混じりに苦笑した。それと同時に、音や振動の発生源がわかって納得がいったのか、義人に一礼して城へと戻り始める。


「おとーさん、しのぶさんにかてない」

「ん? 変な人呼ばわりは止めたんだな。あと、勝てないのも仕方ないって。むしろ、数日で一本取ったら俺が凹む」


 義人はそんな文官達に軽く頷いて応え、優希が持っていた手拭いで顔を拭かれた小雪に苦笑して見せた。続いて、常の如くメイド服姿のサクラへと顔を向ける。


「サクラ先生から助言は?」

「せ、先生? ……い、いえ、その、コユキ様、もう少し魔力の制御に意識を向けないと駄目ですよ?」


 突然の先生呼ばわりに面食らったサクラだったが、すぐさま気を引き締めて小雪へと助言を始める。しかし、それを聞いた小雪は僅かに首を傾げた。


「でも、どうやってもサクラおねえちゃんみたいにうまくできないよ?」

「わたしも長年魔法を使っていますから、魔力の制御ができるのは当然です。魔法の習得については、練習あるのみですよ」


 そう言って、サクラは僅かに胸を張る。それが妹に対して威厳を見せようとする姉のように見えて、義人は小さく笑った。

 小さく笑う義人を不思議そうに見つめた後、共に来ていたカグラはサクラへと質問を投げかける。


「サクラ、コユキ様の治癒魔法に関しての才能はおおよそ知っていますが、他の属性の魔法についてはどうでしたか?」


 そうやって尋ねるカグラに、サクラは姿勢を正す。


「治癒魔法以外に関しても、魔法の才をお持ちのようです。おそらくは治癒魔法が一番得意だと思うのですが、雷魔法を除いて他の属性すべての魔法も使えます。その中では風魔法が一番得意だと思われますが……」

「風魔法か」

「風魔法ですか」


 偶然というべきか、義人とカグラの声が重なる。義人は単に確認の意味を込めて呟いただけだったのだが、カグラはどこか複雑そうに視線を逸らした。


「か、風魔法が得意だなんて、ヨシト様に似たんでしょうか?」

「似たのか? 俺としては、龍だったら炎を吐くって思ってたんだけど」

「たしかに、龍種は炎の扱いに長けていることが多いですね。水龍などを除けば、大抵は火炎魔法が使えますし」

「へぇ……そのあたりは想像通りなんだな」


 言い換えると、定番である。だが、義人はそんなことは口にせず、優希に抱きついたままの小雪へと視線を向けた。すると、その視線をどう受け取ったのか小雪が元気良く右手を上げる。


「こゆきもできるよ!」

「できるって、口から火を吐くのか?」

「うん! みてて!」


 そう言うなり小雪は少し離れた位置に移動し、集中するためか目を閉じた。義人はサクラへと視線を向けると、声を潜めて尋ねる。


「大丈夫なのか? というか、魔力の制御が苦手なのに魔法が使えるのか?」

「は、はい。おそらく、成功しても小さな火が出るぐらいだと思います。今までも、小規模の魔法を使うことぐらいは出来ていましたから」

「それならいいけど……お、口から火が……」


 義人がサクラに安全を確認していると、小さく開けた小雪の口の数センチ先に小さな火が灯った。その火はゴルフボールサイズの球体になると、ゆっくりと回転しながら徐々に大きく膨らみ始める。


「想像と違うな。俺としては、もっと放射状に吐くものかと」


 実際に放射状に吐かれると何かしらの被害が出かねないが、想像と違ったため義人はそんなことを口にした。すると、小雪の様子を見ていたサクラが驚いたような声を上げる。


「すごく安定してますね。ヨシト様やユキ様がいらっしゃるからでしょうか?」

「良いところを見せたいのかもしれんのう」


 サクラの声に続いて、アルフレッドが笑いながらそんな言葉を呟く。だが、途中から表情を変えて僅かに眉を寄せた。


「やけに大きな魔力を使っておるようじゃが……っ!」


 怪訝な表情から一転、アルフレッドは表情を強張らせる。それとほぼ同時に、カグラも小雪の行動を理解して表情を変えた。


『と、止めよっ! あれだけの魔力を使えば威力が洒落にならん!』


 とどめとばかりに、ノーレも大声を張り上げる。今までほとんど聞いたことのないノーレの焦り方に、義人は首を傾げた。


「え? 止めろって……あれ?」


 アルフレッドやカグラ、そしてノーレの反応に意識が向いていた義人は、小雪の口の先に発生した火の玉を見て目を見開く。

 火の玉はいつの間にか直径三十センチほどまで巨大化しており、刺すような熱気を振りまきながら高速で回転していた。


「がおーっ!」


 なにやら可愛らしい咆哮が響き、それと同時に小雪が火の玉を発射する。

 上空目掛けて発射された火の玉は高速で上空へと突き進み、五百メートルほど上昇してから一気に膨張した。


 ――そして、爆発。


 爆発音と共に火の玉が四散し、打ち上げ花火のように大輪を咲かせる。ただし、それは本物の打ち上げ花火のように火薬と金属粉による美麗なものではない。法則性もなく、無秩序に炎が飛び散っただけだ。


「空中に向けて放たれたのが救いですね」


 呆然と爆発を見ていた義人を支えるように、カグラが声をかける。

 幸いというべきか爆発の規模自体は小さく、建物などに被害はないだろう。炎は空中で消えており、残り火がどこかへ落下したようにも見えない。もしも街中にでも撃ち込まれれば大惨事になっただろうが、カグラもその場合は全力で止めるつもりだった。


「おとーさん、どうだった?」


 褒めてほしいと目を輝かせる小雪に、義人は引きつった笑顔を向けた。そして小雪の両肩をつかみ、作った笑顔で詰め寄る。


「小雪、良い子だから魔力の制御を覚えよう。な?」

「え?」

「サクラ。極力早く、魔力の制御を小雪に教えてくれ。いや、いっそ叩き込んでくれてかまわない。もしも城の中で今みたいなことをされたら大惨事になる」

「は、はい。了解です」


 予想していたよりも酷い事態になりそうだと判断した義人がそう指示を出すと、背中に背負われたノーレがどこか呆れたような声を出す。


『魔力量に物を言わせた魔法だったのう……あれほどの魔力を使った割に、威力としては中級魔法ぐらいか。城の中だったら、壁が吹き飛ぶぐらいじゃな』

「それでも十分に大変だっての……」


 母親の龍が迎えに来ないと、遠くないうちに城が破壊されかねない。そんな嫌な未来を想像し、義人はため息を吐くのだった。






「カグラ」

 ため息を吐く義人を視界の隅に捉えつつ、アルフレッドは傍にいたカグラを手招く。カグラはそんなアルフレッドに不思議そうな表情をしながら近寄ると、小さく首を傾げた。

「はい。なんでしょうか?」

「少々話がある……夜にでも、儂の部屋に来てもらえるかのう」

 アルフレッドは真剣な瞳でカグラを見据え、それを受けたカグラはすぐさま頷く。

「わかりました」

「うむ。では、儂は一足先に城へ戻っておく」

 そう言い残し、アルフレッドは背を向けて歩き出す。カグラはそんなアルフレッドの背中を見送り、義人とは違った意味でため息を吐くのだった。



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