Σ(゜д゜lll) 謎の女の子
気がつくと、アヤトは自分の部屋とは違う場所に立っていた。
広さは自分の部屋と大して変わらないものの、牢獄のような場所だ。
あのサイト『檻の中の乙女神ちゃん』のドット絵を実写化したら、こんな感じになりそうだと思った。
暗い色のレンガを積み上げた壁。同じ色のレンガで、床も一面覆われている。
磔台やギロチン、魔女が使うような大釜はないが、黒いお掃除ロボットが三台、せかせかと動き回っている。
牢獄の真ん中には、中学生くらいの女の子がいた。
椅子に座って、テーブルの上のボードゲームらしきもので遊んでいる。半透明の六面ダイスを転がしながら、古めかしい地図の上で、さまざまな形のコマを動かしていた。
黄色い女盗賊のコマを動かしたところで、
「マイナス五分の遅刻なのだ。もうちょっと遅く来てくれないと、こっちの手順が狂って困るのだ。今は休憩中だから、そこで待っているのだ」
棒読み口調で、謎の女の子が言う。
ドット絵では、しま模様のドレスを着ていたのに、今の彼女は光沢のある白いレオタードを着ていた。
彼女が何者なのかはわからないが、囚われの存在だと強く感じさせる物を複数、身につけている。
赤い首輪から垂れる鎖は、床の鉄球とつながっているし、胴につけた黒いコルセットは、女の子がつけるにしては、かなり厳ついデザインだ。
鉄球にしろ、コルセットにしろ、結構な重量がありそうに見える。あれでは自由に動き回ることができない。
しかも彼女の頭部は、白い金属製の兜によって、その大半が覆われていた。
兜の顔にあたる部分は、美少女の顔に整形されている。笑っている顔だが、その下でどんな表情をしているのかはわからない。口の辺りには、細かい穴が複数あって、そこから呼吸をしているようだ。
ドット絵の時には、こんな頭全体を覆う兜はつけていなかった。
兜の側頭部には左右それぞれ穴があいていて、束ねられた髪の毛が飛び出している。右側の髪の毛は金色で、左側のは銀色をしていた。
「ここはどこですか?」
質問してみるが、謎の女の子はスルーして、ボードゲームに興じている。
しばらくして、床のお掃除ロボットが一斉に停止した。
ちょうど彼女のゲームも終わったらしい。
テーブルの真上に、ピンク色の魔方陣が出現した。
魔方陣は高性能掃除機のような吸引力で、ボードゲームだけをピンポイントに吸い込んでいく。
片付けが済むと、ようやく謎の女の子がしゃべり出した。
「さっきの君の質問に答えておくのだ。ここがどこなのか、正確なことを言ってもわからないだろうから、こう言っておくことにするのだ。異世界転生する前のブリーフィングルームなのだ」
ということは、自分は異世界転生できるのか。あの『System Error』は、「失敗」という意味ではなく、「受付完了」という意味だったのかと、アヤトは密かに納得する。どうりで、あのあと何回試しても駄目だったわけだ。
次に気になるのは、『同行者』についてだった。第一希望から第三希望まで、三人の候補者がいる。
誰になったのかを尋ねてみると、
「それは答えられないのだ。異世界転生にも、色々とルールがあるのだ。でも、転生後にすぐ会えるだろうから、楽しみにしておくといいのだ。あと、君が探している相手も、そこにいるのだ」
そう言って笑い始める。「フフフフ」という笑い方まで棒読みだ。