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Σ(゜д゜lll)  暗号解読挑戦中

 一行に五つの数字。それが三行、数字は全部で十五ある。


「12、165、447、270、125・・・・・・」


 クラスメイトたちが口頭で、互いの便箋びんせんの内容を確認し合っている。


 アヤトが手にしている便箋と、どの数字も同じだ。


 真っ先に頭に浮かんだのは、「暗号」という単語だった。この数字の秘密を解くことで、何らかの意味をもった内容が現れるのかも・・・・・・。


 もし各自の暗号が「別々」なら、協力して解く可能性もあったが、今回の暗号は違うようだ。


 おそらく、求められているのは、「協力」ではなく「競争」。


 誰が最初に暗号を解読するのか。それを封筒の送り主は望んでいるらしい。


 こういう手の込んだイタズラをしそうな人間は誰か。


 アヤトには一人だけ心当たりがある。


「はいはい、ちっちゃくてかわいい私が通りますよ」


 明るい声を発しながら、隣の席に百瀬ももせメモリが戻ってきた。


 目が合った途端、さっきまでの彼女の水着姿を思い出してしまう。メモリはクラスの女子の中でも小柄ながら、高校一年生にしては、なかなかのボディラインをしていた。


 プールにはまったく入っていないというのに、彼女の髪はびしょ濡れになっている。ショートカットなのですぐに乾くと思ったようで、どこかで水を浴びてきたらしい。白いセーラー服にまで結構な数の水滴が垂れているのに、彼女はお構いなしだ。


 メモリは手に持っていたペットボトル、それに残っていた少量のミネラルウォーターを、音を立てずに飲み始めた。


 その様子に、クラスメイトたちの視線が集中する。


 彼女の口がペットボトルから離れるタイミングで、一人の男子が質問した。


「これ、お前じゃないのか?」


 ラブレターっぽい封筒を見るなり、メモリがほおをほのかに紅潮させる。


「うん、実は私、あなたのことが・・・・・・」


 ひかえめな態度はそこまでで、


「ンナワケ、ナイデショーガ」


 白目でロボット口調になった。


 これには、クラスメイトたちの一部がざわつき始める。このクラス内に限定するなら、最有力の容疑者は彼女だ。


 しかし、今の反応からして彼女ではない。メモリが犯人なら、こういう時、素直に白状して「ごめんめんご」と謝ってくる。イタズラ好きな彼女だが、根は正直者なのだ。


 そしてアヤトも最初から、メモリ以外の人間が犯人だと思っていた。彼女がやったにしては、このイタズラ、わざわざ暗号をつくったりと、それなりに手が込んでいる。


 こんなことをしそうなのは、この学校に一人しか考えられない。


 演劇部副部長、峰谷みねたにマノ先輩だ。


 普段の先輩は、学校では優等生だと思われている。


 が、多くの者に知られていないだけで、たまに匿名とくめいで、色々と変なことをしている。


 いつもは演劇部の部員たちが対象になるので、それに結構な回数巻き込まれているアヤトは、真っ先に先輩の顔が浮かんでいた。


 白目を解除したばかりのメモリも、演劇部に所属しているので、これら大量のラブレターが誰の仕業しわざなのか、すでに察しているに違いなかった。


 彼女は自分の机の中から封筒を取り出すと、うきうきした足取りで、アヤトの席に近づいてくる。


「たにょもー☆(キャピッ)」


 又子先生の声まねをしながら、机の上に自分の封筒を置いていく。あとは任せた、ということらしい。まるで不幸の手紙扱いだ。


 アヤトは封筒を突っ返そうと思ったが、そこで世界史の美弥子みやこ先生がやって来た。


 この黒髪美人、大学卒業二年目の二十代で、いつも眠たそうな顔をしている。だるい表情から繰り出される和み系ボイスには、かなりの数の隠れファンがいるとか。


 授業中の内職に対して寛容な彼女は、授業の妨害をしなければ、大抵のことは見て見ぬふりをしてくれる。


 なので、クラスメイトの何人かは、早くも封筒の暗号解読に取りかかっていた。


「じゃあ、教科書の62ページを、パァァぁぁぁぁっと開いてく~ださい。今日は東南アジアですよぉ~」


 美弥子先生の声に耳をいやされながら、アヤトも暗号解読に入る。どうせ同じ物が入っているだろうから、メモリの封筒は無視することにした。


 まずは自分の封筒に入っていた暗号を、じっくりと眺めてみる。



    12 165 447 270 125

   219 215 343 112  51

   118 413 177  88 246



 最小が「12」で、最大が「447」。


 数字の重複はない。奇数もあれば、偶数もある。その混ざり方もランダムのようだ。


 手始めに、列の数字を縦横たてよこそれぞれ合計してみるが、何か意味のありそうな数字にはならなかった。


 今度は、隣接する数字同士の差を求めてみる。これも違うな。


 解読させる気があるのなら、そこまで複雑な暗号にはしていないと思う。数字を足したり引いたあと、さらに別の処理が必要とは考えにくい。


 一旦頭をリセットしようと、教室内を見渡してみる。暗号に挑戦している連中は、全員が苦戦しているようだった。


 しかし、いつ誰が抜け出しても不思議はない。この暗号、あることをひらめきさえすれば、ものの数秒で解けてしまう可能性だってあるのだ。


 これは競争。早い者勝ちだ。


 それを強く意識しながら、アヤトは再び九つの数字とにらめっこした。



    12 165 447 270 125

   219 215 343 112  51

   118 413 177  88 246



 数字を小さい順に並べ替えてみる。



    12  51  88 112 118

   125 165 177 215 219

   246 270 343 413 447



 これといった法則性は見つけられない。ただ、やみくもに十五の数字を選んだみたいだ。


「64ページに地図がありますぅ~。ついでに、113ページの地図も見ちゃいましょうねぇ~」


 美弥子先生の和み系ボイスが耳に入る。64に113。数字に敏感びんかんになっているので、暗号とは関係ないのに、つい頭が拾ってしまう。


 もう一度頭をリセットした方がいいのかもしれない。アヤトは気分転換に、世界史の教科書をななめ読みすることにした。


 その途中でうっかり手が滑って、終盤のページを開いてしまう。400番台のページだ。


 それを目にした瞬間、アヤトの中で閃光せんこうが走った。


 もしかして、あの数字の正体は・・・・・・。


 十五の数字で最大は「447」だった。そして、この世界史の教科書には、「448」までページ番号が打たれている。


 さっそく思いついた解法を試してみようと、教科書の「447」ページに移動した。索引さくいんがある。ヤ・ユ・ヨ・ラ・リ・ル・レ。


 たぶん、ここから先は、それほど複雑にはしていないはず。そのページの最初の文字ではないかと見当をつけて、「447」を「ヤ」に置き換えてみる。


 あとの数字も、教科書の対応するページで確認してみると、どうやら正解のようだ。


 地図や資料写真の文字は無視して、そのページの最初の文字。漢字の場合は、ひらがなに直して、一文字目だけを読んでいく。


 すると、暗号に隠されていたメッセージが、姿を現した。



   ひ る ヤ ス み

   お く じ よ ウ

   で ま ッ て る



 ――『昼休み屋上で待ってる』!


 飛び上がりたくなるほどの興奮を抑え、アヤトは周囲の様子をうかがった。


 今のところ、世界史の教科書を使うことには、まだ誰もたどり着いていないようだ。


 しめしめと思うものの、ここで油断すれば、せっかくの苦労が水のあわになるかもしれない。他の挑戦者たちも、アヤトが今しているように、競争相手の動向をチェックしていた可能性もあるのだ。


 なので、ここで暗号の解読をやめてしまうと、怪しまれるのは確実だ。直前にアヤトが世界史の教科書をバタバタとめくっていたのを目撃していれば、それをヒントに、正解までたどり着いてしまうかもしれない。


 アヤトは教科書をそっと閉じると、十五の数字を使った計算をすることにした。


 ただし、本当に計算するつもりはなく、あくまでも演技。それっぽく見えればいいので、計算結果はいい加減だ。この暗号は数学的に解く。そう競争相手に思わせるのが目的だ。


 適当に手を動かしながら、アヤトは考える。昼休みに屋上で、「簡単でしたよ、楽勝です」と、先輩に言う自分の姿を思い描いて、薄笑いを浮かべた。


 昼休みが終わったらメモリには、封筒を返すついでに、暗号の解き方を教えてやろう。その時にはすでにタイムオーバーになっているので、彼女に抜け駆けされる心配はない。


 残り五分になってからは、腕時計から一秒も目を離せなかった。手も完全に止まっている。


 そしてチャイムが鳴ると同時に、席から発進。速攻で教室を飛び出すと、屋上目指して激走した。


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