Σ(゜д゜lll) 回想、一年前のヘンデルリカ(前編)
(だって、ケイリィと約束したもんね)
ヘンデルリカは心の中でつぶやいた。
今から十分くらい前、いきなりケイリィが言い出したのだ。
――私、赤の回廊を助けに行きたい。
あの時の彼女は、すごく真面目な顔をしていた。ケイリィのあんな顔は、久しぶりに見た気がする。
彼女の要望を聞いて、ヘンデルリカは迷わなかった。
――うん。こっちは任せて。ここ青の回廊は、私が絶対に守り抜くから。
二人でいる時、普段はヘンデルリカの方がわがままを言い、ケイリィは笑顔で受け入れてくれる。
で、申し訳ないなぁと、いつも思っていた。初めて会った時から、ケイリィには世話になりっぱなしだ。
なので、こういう時こそ、彼女の意志を尊重してあげたい。
ヘンデルリカは回想する。
およそ一年前のことだ。最高の相棒ケイリィとの出会いは、人生最大の幸運だった。
初めて会話した時、自分たちの間には、一枚の閉じたドアがあった。
だから、交わしたのは声だけで、お互いに顔は見ていない。
そんな状況でヘンデルリカは、「あるプレゼント」をもらった。
それが何だったのかを思い出して、少しの間だけ微笑する。
ケイリィと出会う前の自分は、世の中が楽しくなかった。
どうして、この世界には、魔法を使える人が少ないんだろう?
どうして、他のみんなが使う魔法は、ちまちましているんだろう?
幼少の頃から見よう見まねで、大人たちの魔法を使うことができたヘンデルリカ。
どんなに高度な魔法でも、誰かが使っているところを一度か二度、見せてもらえばいい。それで習得できる。
その上、呪文の詠唱をしたりとか、魔方陣を描いたりとか、そういった面倒な部分は、ヘンデルリカには不要だった。やってみようと思うだけで、魔法を使うことができる。
しかも、桁違いの威力で。
おかげで、そっち方面の努力を、一切しなくなった。
普通の魔法使いならば、頭に入っていて当然の知識――どういう原理で、この魔法は発動しているのか――そんな知識がなくても、問題なかった。自分の感覚に頼るだけで、ちゃんと魔法は発動する。
なのに、周囲からは期待される。将来の進路に、魔法関連の研究職はどう? いかにも頭を使う仕事ばかりを、大人たちは勧めてくる。
これに嫌気が差したヘンデルリカは、だんだんと魔法を使わなくなっていった。
その結果、「この街最強の魔法使い」という呼称は、人々の口に上がらなくなっていく。
そうしたある日、ヘンデルリカのもとに、一人の人物が訪ねてきた。
白いニット帽をかぶった着物姿の女性で、
「私、こういう者です」
もらった水色の名刺には、「『海箱座』代表支配人 海箱ユユ」と書いてあった。
彼女がヘンデルリカに告げてくる。
「あなたをスカウトにきました。《劇番衆》をやってみませんか?」




