Σ(゜д゜lll) 赤の回廊で激突(メモリ視点)
眼前でのマユハの行動に、百瀬メモリは思わず息を飲んだ。
(あれは、ユユさんの『時空回廊』!?)
数日前の『橋舞台』、あそこでアヤトが見たであろう光景が、ユユさんとマユハという違いこそあるものの、自分の視界に重なってくる。
さらにメモリの脳裏に浮かんできたのは、あの時にマユハが尋ねてきた内容だった。
――ユユさんと模擬戦をしたら、勝てるかどうか。
――ただし、アヤトと同じ条件とする。使用するのはハリセン。
この質問に対して、メモリは本音を明かさずに、「んーと、無理」と返していた。
突破口なら見つけていた。たぶんだけど、ユユさんの『時空回廊』には、弱点になり得る箇所が存在する。そこを狙えば、勝てるかもしれない。
アヤトには無理でも、私なら・・・・・・。この世界に来る時に授かった、特殊な力がある。あの鎧を纏えば、力や速度が飛躍的に向上する。
そうやって強化された身体能力を活かして、先に潰してしまうのだ。『時空回廊』の加速直前、クラウチングスタートの態勢になっているタイミングを狙う。そう、まさに今のような状態。
メモリは微かに笑った。あそこでマユハに手の内を明かさなかったのは、正解だったかも。
勝利を強く意識した瞬間、全身を覆うように、銀色の鎧が出現した。
この鎧、「感情が一定以上に昂ぶっている間」だけ、こうして纏うことができる。
さて、『時空回廊』を打ち破る準備は整った。
というわけで、全速力で前へと走り出す。
その直後、正面にいるマユハが、微かに笑ったのだ。
瞬時にして、メモリは悟る。しまった、これは罠だ。自分は誘い出された。前に出てはいけない!
大事なことを見落としていたのに気づく。今手にしている武器は「ハリセン」ではなく、「バズーカ砲」なのだ。突進すれば、照準を合わせにくくなる。一か所に構えて、固定砲台として戦った方が、高い命中率を期待できるのに。
メモリは力いっぱい急ブレーキをかけた。
と同時に、せっかくの鎧が消えていく。アイドル風のドレスも解除され、紺色をした法被と白いジャージ、そんな姿に戻ってしまった。
今になって思う。あの日のマユハの質問、あれは「伏線」だった。ハリセンでの攻略法を印象づけておいて、とっさの時に、こちらのミスを誘うのが目的。
彼女にしてみれば、使う機会があったらいいな、通用したらいいな、その程度の感覚だったのだろうけれど、まんまと嵌まってしまった。マユハは「別の島で行われた実戦形式のテスト」に参加していたので、あの時点ですでに、こちらの武器が「バズーカ砲」に変わったことを知っている。
メモリは焦った。
マユハが動き出す。こちらに立ち直りの時間を与えずに、全速力で向かってきた。
それが、さらなる混乱を生む。
そこに声が飛んできた。
「メモリ、落ち着け!」
アヤトだ。
彼が走ってくるのが、マユハの後方に見える。
(そっか。『待機』の三秒が過ぎたんだ)
心強い味方の登場に、自分の中にあった混乱が、一気に収束していく。
これは形勢逆転かもしれない。
赤の回廊内は現在、『奥館』側から見て、私、マユハ、アヤトという位置関係になっているのだ。
こちらがマユハの足止めに成功すれば、あとはアヤトが仕留めてくれる。
メモリはバズーカ砲を構え直した。
残りのペイント弾は一発のみ。
でも、確実に命中させる必要はなくなった。相手の前進を遅らせさえすれば、回廊突破を阻止できるのだ。
マユハが突進してくる。残り十メートルもない。
そこで彼女が唐突に、右手の指の形を変えていく。
それを見て、メモリは再び焦った。
マユハのデコピンは、本気でやばい!
自分は喰らったことがないけれども、演劇部の男子たちが喰らっているのは、幾度となく目撃していた。
あのデコピンは、通称《指先最終兵器》。武勇伝には事欠かない。
ゲームセンターのパンチングマシーンを、デコピン一発で爆発炎上させたとか。
音楽室にある肖像画、その額のど真ん中に、金平糖が深々とめり込んでいるのは、彼女のイタズラだとか。
夏休み前に学校のプールを破壊したのは、隕石の墜落ではなく、マユハの仕業、という噂まで囁かれている。
そんな物騒すぎるものが、自分目がけて迫ってきているのだ。
恐怖と混乱から、とっさにペイント弾を発射してしまう。
まともに狙いをつけていないので、余裕で回避されてしまった。
メモリは顔をひきつらせる。その横を、マユハが颯爽と駆け抜けていく。
だが、このタイミングを待っていたかのように、禁断の最終兵器、《ゲート・シャッター》が起動した。




