Σ(゜д゜lll) 赤の回廊で激突(マユハ視点 その四)
マユハが左前方に加速すると、相手が三発目を発射してきた。
これまでとは違って、弾の速度が明らかに遅い。
と思った瞬間、マユハの数メートル手前でいきなり、ペイント弾が空中破裂した。緑色のペンキが放射状に飛び散り、正面の視界を遮ってくる。
やはり使ってきたか。
先行する弾と同じ軌道で、後続の弾を発射してくる技だ。
あの二つの弾には、速度の差が存在する。この差は、彼女が意図的につけたものだ。
後ろの弾の方が速いので、前の弾に追いつき、二発は空中で破裂する。その際、大量のペンキを、周囲にまき散らすのだ。
スピード任せに直進してくる役者なら、ペンキの中に自ら突っ込んでしまうだろう。
そうでない役者に対しては、前方の視界を一時的に塞いでしまう。
あの島でメモリが、繰り返し練習していた。だから、この技のことをマユハは、すでに知っている。そのため、ペンキに突入する前に、足を止めることができた。
今のが三発目と四発目なので、残るペイント弾は四つ。
マユハは耳に集中する。前方の視界を塞がれた以上、メモリの攻撃は、目に頼っているだけではかわせない。
三発の発射音がした。一発だけが先行して、他の二発は連続だった。
聞こえた音、その微妙な癖を頼りに、マユハは右側へと走り出した。
あの日、実戦形式のテストで、ただペイント弾を喰らいまくっていたわけではないのだ。
いずれ《関所回廊》で対決する時のために、情報収集を怠らなかった。その成果が、この場面で活かされている。
マユハは移動しながら、視線の端を横へと流した。
離れた場所を、三発のペイント弾が通過していく。
さっきいた場所からだと、左に一発、正面に二発という軌道だ。右への移動で正解だった。
これで、残りのペイント弾は一発になった。最後の一発。
ただし、ここからのメモリは、驚異的な集中力を発揮してくる。あの日、彼女の「最後の一発」から逃げのびた《役者勢》は、一人もいない。
本来なら絶望しかない状況だが、マユハは気持ちが昂ぶってくる。
今度はこちらが、とっておきを出す番だ。
対メモリ専用の「秘策」。足を完全に止めると、その場にしゃがみ込んだ。
赤く発光する床に、両手と片膝をつける。陸上競技のクラウチングスタートのような態勢になった。
そうしたあとで、右手だけを床の表面から離していく。
その手を銃を模した形にすると、回廊の奥へと照準を合わせた。
これこそが、メモリを突破するための、たった一回きりの秘策だ。
(いくよ、私の『時空回廊』!)




