Σ(゜д゜lll) 強襲
夜の海箱シティで、屋根から屋根へと、身軽に移動する者がいた。
エピテリカだ。
少し前までは、紫の《選定候》だった彼女。
しかし、その称号を、もはや名乗ることはできないだろう。
先ほど、仲間たちを裏切った。
劇場を貸し切り、強力な《劇番衆》たちを集めて、特殊なガスをまいたのだ。
催眠ガスと痺れガスの「混成ガス」。あれを吸っても、命に別状はないし、後遺症もない。
だが、丸一日は動けない。これで明日の『赤曜日』、彼らが《ゲキバン》に参加することは不可能になった。
どうして《劇番衆》の戦力を削がなければならないのか、その理由をエピテリカは知らない。
ただ、一つの感情だけが、彼女を動かしていた。
(一達さまのご命令とあらば)
エピテリカは過去に色々と、「千座一達」の世話になっていた。
そのご恩を返したいと、常々思っていたところに、今回の話だ。断る理由はない。
もう一つ頼まれていたことは、すでに実行済みだ。「今日の早朝、あるホテルへ行き、ある少女を護衛しつつ、そこにいる見張りを全員、無力化して欲しい」という内容だった。
あの行動に、どんな意味があるのか、それについても聞いていない。
が、エピテリカは信じている。
(一達さまには、深いお考えがあるのだ)
このあと当分の間、女の子海賊団のアジトに、身を隠す手はずになっている。北の港には現在、迎えの小型潜水艇が待機しており、こちらの到着を待っているのだ。
屋根から屋根へと飛び移りながら、エピテリカは右肩に、大きな麻袋を担いでいた。
麻袋の中には、リンドエンドが入っている。
薬と魔法で眠らせたあと、用心のため、口には猿ぐつわ、両手両足を拘束道具で封じている。
この行動は、完全な独断だった。
ただし、一達の意志に背くものとは思っていない。
ガスが充満する劇場の中で、リンドエンドは最後まで動くことができていた。
となると、他の《劇番衆》たちよりも早く、《ゲキバン》に復帰する可能性が高い。場合によっては、明日にでも・・・・・・。
だから、連れ去ることにしたのだ。女の子海賊団のアジトに軟禁する。
これで、自分の役割は果たせた。エピテリカは小さく息を吐く。
とはいえ、戦力を削ぐよう頼まれたのは、リストの最低でも五割、できれば七割だ。
下の目標はクリアしたものの、上の目標には足りていない。招待状を送ったのに欠席した者の数が、予想していたよりも多かった。
北の港に着くまでに、リストにある《劇番衆》の誰かと、たまたま出くわさないだろうか。その人数次第では、上の目標もクリアできるのだが・・・・・・。
そんなことを考えながら、エピテリカは周囲に細かく視線を放つ。
そして幸運にも、倉庫街の谷間に、《劇番衆》の白いジャージを見つけた。
欲していた獲物が二人。
愛用の鞭を左手に握ると、エピテリカは強襲する。
目標、石化少女たち!
彼女たちを狩れば、七割をクリアすることができる!




