Σ(゜д゜lll) 連鎖
さらにリンドエンドは会場を見回すと、何気なくつぶやいた。
「ねぇ、エピ。あの子たちは呼ばなかったの?」
「あの子たち?」
「赤の回廊の、新人ちゃんと新人くん。あの二人の実力は、なかなかのものだと思うよ」
彼らの初陣での活躍を思い出しながら、リンドエンドは明るい笑顔になった。
「悪いが、今回は呼ばなかった。あの二人の実力がどうこうではなく、別の事情がある。私のお財布は、そこまで大きくないのだ」
「おやおや、現役最強の《選定候》さまが、随分とケチなことをおっしゃる」
くすくす笑うリンドエンド。
「だったら、次は私も協力するから呼ぼうよ。あの二人には興味があるし。特に、新人ちゃんの方」
「その顔、良くないことを考えているな?」
「さ~て、どうでしょう」
「石化少女たちではあるまいし、個人的な勝負を挑むんじゃないぞ」
「そこは成り行き次第かな」
「仮に戦いになるようなら、無視はできない。悪いが、助太刀させてもらうぞ」
「えー、私一人でいいよ」
「勘違いするな。あの新人たちの方に助太刀するんだ」
「それはそれで楽しみだね」
リンドエンドは剣を振るう仕草をした。最近、エピテリカとは手合わせをしていない。前は彼女の方が強かったけど、今はどうだろう。
「やれやれ。この戦闘マニアめ」
「うんうん。そういうわけだから、今さら何を言っても無駄だよ。私、聞かないよ。新しい技をいくつか開発したから、《ゲキバン》でのお披露目前に、最終チェックをしておきたいんだよね。あの新人ちゃん、かなり硬そうな鎧を着ているし、適任でしょ」
またもや、くすくす笑うリンドエンド。
「新人を実験台にする気か。前にそれで――」
「もちろん、相応の手加減はするよ。だから、やり過ぎることはないって、たぶん。それとも、エピが相手をしてくれる? そっちの方が、私は本気を出せていいな~♪」
「・・・・・・わかった。あの新人たちだな。次の機会があれば、呼ぶことにしよう。その時は、絶対に手加減しろよ」
「はいはい、わかってます、わかってますって。じゃあ、また、あとでね」
新たに到着した客の数人が、エピテリカへの挨拶をしようと、順番待ちをしていたので、この場を離れるリンドエンド。
ドリンクコーナーへと向かい、男性スタッフの一人に、甘いカクテルをつくってもらう。
それを持って客席に移動すると、ちびちびと飲み始めた。
ステージの上ではエピテリカが、余興のつもりなのか、銀色のストローをくわえていた。辺り一面に、無数のシャボン玉を浮遊させている。
あのストローは、彼女の専用武器だ。いつもの《ゲキバン》では、紫色をしているシャボン玉が、今日は無色透明をしている。あれなら割れても、周囲にペンキが付着することはなさそうだ。
十分くらいが経っただろうか。
そろそろカクテルのおかわりでもしようかな。そんなことをリンドエンドが考えていると突然、グラスの割れる音が聞こえてきた。ステージの上からだ。
しかも、同じ音が連鎖していく。
さらには、ばたばたと床に倒れていく《劇番衆》たち。
ステージの上だけではない。客席にいた者たちも、次々と倒れていく。
この異変に対して、リンドエンドは理解が追いつかなかった。急に自分も、意識が混濁してきたのだ。息苦しさも感じる。これは、いったい・・・・・・。
とりあえず、外に出ようと思った。グラスをその場に残して、ふらつきながら客席の通路へと移動していく。
エピテリカのことが心配だけど、確認している余裕はない。まずは外に出て、空気でも吸って、それから人を呼んで来よう。
少しずつではあるものの、リンドエンドはどうにか通路を進んでいき、ロビーに出るドアまでたどり着いた。
すでに体には、まともな力が入らなくなっている。痺れも感じるようになっていた。
こうなると、倒れかかるので精一杯だ。それでドアを開けようとする。
しかし、ドアを開けることはできなかった。
完全に倒れきる前に、何者かに後ろから、右肩を捕まれたのだ。勢いが削がれる。これでは、ドアは開かない。
誰だろう。
わずかに振り向くと、防毒マスクをつけた人物が目の端に入った。その服装は黒いビキニアーマーだ。
ということは・・・・・・。
「このガスの中でも動けるとは、さすがだ、リンド」
次の瞬間、口に布を押し当てられる。
強力な薬品臭がした。それと、この布からは魔法の力も感じる。
途切れ行く意識の奥で、親友が「すまない」とつぶやいたのを、リンドエンドは聞いたような気がした。




