Σ(゜д゜lll) 屋上で
昼休みに学校の屋上に行くと、先輩がいた。
彼女は俺に向かって瞳を輝かせると、
「私、私、異世界に転生しちゃうかも」
それを聞くなり、俺の心は笑顔になっていた。
だって、こういった非現実的なことを口にする時、いつだって先輩は、本当に嬉しそうな顔をするのだ。
普段の先輩は、学校では優等生だと思われている。
そんな周囲の期待に応えようと、真面目な顔でいることが多いので、こういう自然な顔を見せてくれると、俺も嬉しくなってくる。
そのあと先輩は、少し神経質そうな顔になると、右手で自分のほっぺを、左手で俺のほっぺを軽くつまんできた。
これは彼女の癖。ほほ笑ましい癖だと思う。
先輩にほっぺをつままれても、俺は特に痛さを感じない。
なのに彼女は、自分では本気でつまんでいるつもりらしく、自信ありげに、こう言うのだ。
「痛いから夢じゃないね。だから、絶対に叶うんだよ」
そして、もう一回幸せそうな顔をする。
そんな先輩が、夏休みの初日に失踪した。
それは普通の失踪ではなかった。
この世界に最初から存在しなかったかのように、彼女は大勢の記憶からも「失踪」することに成功した。
しかし、その「失踪」には小さなほころびがあり、俺を含む数人の記憶からの「失踪」には、失敗した。