扉から視線が外せなかった。
目の前に座っていらっしゃる小さな主君は、なぜだかムスッとした顔で、私を見ていらっしゃる。
この4日、毎日私を見舞ってくださるのだけど、あの可愛いい顔が日に日に険しくなって行き…今日など、扉を開けた途端、私の部屋をグルリと見渡し、溜め息をつかれると顔を歪められた。
どうしたらいいのかわからず、取り敢えず笑みを浮かべた私の顔に、小さな主君は眉間に皺を寄せると、私に近づかれ
「…俺を信じて待っていろ…」
「…?」
「俺はお前を離さない。」
「…?!」
「すべてを片付けるまで…待っててくれ。」
「…ぁ!」
「ロザリー、愛してる。」
「あっ!あアァ!!ど、どうしてて!あのその…!」
「せっかく、気を利かして寝たふりしていたのに…その後、な~んの進展もない…ってなんなのよ!」
う、うそ…
「叔父様もロザリーも、日頃なら私の動きなんて、お見通しだと思っていたのに…キスに夢中で…。」
「い、いや、あ、ぁぁ…」
顔が真っ赤になって行くのがわかって、下を向いた私の顔を下から覗き込まれ、畳み掛けるように
「もちろん…叔父様がその後いろいろ忙しくされているは…わかってるけど、好きな女性を、それも怪我をしている恋人を…ほったらかしはないわ。おまけにそんな薄情な態度を許しているロザリーも、ロザリーよ。」
「あ、あ、あ…」
言葉にならない私を一瞥されると
「しょうがないわね。」
へぇ?なにが、なにがしょうがないのだろう?
嫌な予感がしてならない。
「任せてロザリー。」
なにを任せてなの?
ミランダ姫はニッコリ笑われると…扉の向こうで控えていたキャロルさんを呼ばれ
「ウィンスレット侯爵に手紙を書くから、ペンと紙を用意して頂戴。」
お父様に…手紙?
なぜ、お父様に?
キョトンとした私に、ミランダ姫は満面の笑顔で
「叔父様を守る秘密組織…ううん、今度からは叔父様とロザリーの恋を叶える秘密組織と名を変えて、活動するの!」
叔父様とロザリーの恋を叶える秘密組織…。
「いや…あの…私は…」
戸惑う私に、ミランダ姫はハッとした顔で私を見られた。
わかった下さったんだ…顔を曇らせたミランダ姫のお顔に、ホッとしたが…なんだか胸だけがチクッと針が刺さった気がした。
バカだ。まだどこかでルシアン王子を求めている自分がいる。本当に私は…
心の思いがけない動きに俯いた私を、抱きしめるようにミランダ姫は私の首に手を回され
「ごめんなさい。私ったら…ロザリーの気持ちも考えず、勝手に進めて…」
「ミランダ姫…。」
もう、これ以上…。私はルシアン王子のお側にいてはいけない。
男と偽った事で、侯爵家に処分は下るだろう。
爵位を失ったウィンスレット家が、国を裏切ったウィンスレット家が…王家に入るなどできるわけはない。
いや…国の為に、ルシアン王子は…道を選ばれるはずだ。
そうしなければ、国は…
そう思うと胸が痛くて、一瞬顔を歪めた私の耳元で、ミランダ姫の声が…
「隊員のロザリーが入るのは変よね。」
「えっ?」
えっ?そ、そこですか?!そこが問題なんですか?!
唖然とする私に、ミランダ姫の唇が頬に触れ、チュッと小さな音を立ててキスをされた。
「あとは任せて!」
ニッコリとされ、私の両頬に手を添えると、ニンマリと笑みを浮かべ
「私を信じて待ってて」
ギクッとして震えた、私の体だを抱きしめられ
「あっ!これは叔父様のセリフだったわね。」とクスクスを笑われた。
わざとだ。
わざと…仰ったんだ。
青やら、赤やらと顔色が変わる私を、楽しそうに見られると、
「何れは、叔母様と…ロザリーを呼びたいの。だからこれは私の望みでもあるの。」
「ミランダ姫…でも私は…」
私の声は小さな手に遮られた。
「もう…」
ムスッとした顔で、私の口を押さえられた手をゆっくりと外しながら
「前を向く!騎士の気構えはどうしたの!私はロザリーのように剣や、古武術という力はないわ。でも!私には違う力があるの。」
「ミランダ姫?」
ミランダ姫は幼子のあどけない顔に、笑みを浮かべ
「次期、この国を治めるという力が…」
「ミランダ姫!」
「フルに使わせてもらうわ。」
そう言って、微笑まれると…走り出された。
「ミランダ姫!!!」
叫んだ私に、振り返られると
「叔母様。大好きよ。」
そう仰って、扉の向こうに行かれた。
「叔母様…。」
そう口にして、私は呆然と扉から視線が外せなかった。




