ローラン王とミランダ姫
「姫!ミランダ姫!」
侍女のキャロルの声に、庭の木の上から幼い声が答えた。
「ここよ、キャロル!お爺様はもう侯爵家に入られたの?」
「はい。先程、国王陛下は侯爵家に繋がる通路を使われて、無事侯爵家にお入りになられたと知らせがまいりました。」
と言って、微笑んだキャロルだったが、木の上にいるミランダをあらためて眼にして、溜め息をつく寸前のような顔に変わり
「と言うことは、陛下に付き添っていらした、ウィンスレット侯爵様が折り返し、姫をお迎えに参いられると言うことです…ですから…木の上からお降りくださいませ。」
「わ、わかってるわ。キャロルが困っているのは、わかっているんだけど、でも叔父様が…ロザリーが…心配なんだもの。ここからだと、見えるんじゃないかと思って…」
と、ぶつぶつ言いながら、後ろ向きになって木を降りようとしたが、後ろから突然大きな手が、ミランダの腰を掴み足が浮いた。
「?!」
ミランダは足をバタバタさせながら、「えっ?」「なに?」と叫んでいたが、その大きな手は、その声に動じず、ゆっくりとミランダを木の上へを押し上げ
「少し、木の上で私と話をしてもらえないか?」
ミランダはその声にゴックンと息を呑んだ。
(ローラン王…?!。どうしてここに?ぁ…ぁ…キャロルは?!)
「キャロル!キャロルには手を出さないで!お願い!」
「フッ…さすが姫だ。侍女の心配が一番か?案ずるな、ほんの少し眠ってもらっているだけだ。」
「……信じてよろしいんですね。ローラン王。」
「もちろん。ミランダ姫。」
「では、手を離してくださる?ひとりで登れますから。」
だが、大きな手はミランダを自分の腕の中に囲うと、片手で木の上を登って行こうとした、ミランダは慌てて体を捻り、手を伸ばしローラン王から離れようとして
……ハッとした。
(ある?体が…ある。まるで黒い霧のようにしか見えなかったのに…手に触れる事ができる。どうして?)
ミランダは恐る恐る自分を抱くローラン王を見上げ
「み…見え…る。顔も…見える。」
思わず言った言葉に、ローラン王は声をあげて笑い、その顔が大きな緑色の瞳に映った。
「と言うことは、先程までは人の姿に見えなかったのか…?」
そう言って、また笑うと…
「だが、今は私の姿が見えるのだ。」
ミランダは黙って頷き
「そうか…なら良かった。」
穏やかなその顔に、ミランダは顔を顰めた。
(な、なに?私を殺すつもりではないの?じゃぁ、どうしてここに…ローラン王は現れたの?)
ローラン王はミランダを枝振りの良い所に、座らせると、自分もその横に座り
「少し、話がしたかった。」
「わ、私と?!」
驚いたように、パタパタと音がなるかのような瞬きをするミランダに、ローラン王はクスリと笑うと、ミランダをじっと見つめ
「姫はブラチフォード王がお好きか?」
「お爺様?…えっ?…ええ、大好きですが…」
幼いミランダにも、ローラン王が脈絡のない会話をしているように感じて、首をかしげた、その姿に、ローラン王は眼を逸らし
「そうか…好きか…」
そう言って…周りの景色をぐるっと見渡し
「こうやって木に登るのが好きなのか?」
「えぇ…」
「なぜ?」
「なぜ?って、あ、あの、小鳥になった気がするから…」
「そうか…小鳥か…」
ローラン王がなぜ、自分にそんなことを言うのかは、ミランダには全然わからなかった、だが笑みを見せながらも、どこか寂しそうな顔に思わず、言葉が出ていた。
「小鳥になって…」…と。
ミランダのその声に、ローラン王は視線をまたミランダへとやった。
(怖くないと言えば嘘だけど…でも…)
「小鳥になって遠くを見ていると、悩んでいた事がつまらない事だと思うんです。ムカムカ、イライラしてても、鳥になった気分で下の人達を見たら、すっきりしちゃうんです。」
ローラン王は眼を見開き、ミランダを見ると、なにか呟くように言って、口元を歪めながら、ミランダから視線を外した。そんなローラン王が、ミランダは不思議で堪らなくて、ローラン王の顔を覗き込み
「いったい何を私に聞きたいのですか?私と何を話したいと言われるのですか?」
その問いに、ローラン王はうっすらと笑みを浮かべ、呟くように言った。
「…もう…良い。もうわかった。」




