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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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王子様は叫んだ。

『私の体がアデリーナ様にとっては剣なのです。悪魔との契約を切り離す事ができる剣なんです。』



それは何を意味している言葉なのかは、すぐにわかった。


唇は微かに動くが、それを止める言葉が見つからない。

早く、あいつを止める言葉を言わなくては…



だが…


レイピアを地面に置く彼女の姿に、俺の心臓が大きく音をたて、微かに動いていた唇さえ、その動きを止めた。


やはり…自分の体であの短剣を受け止めて、アデリーナを捕まえるつもりなんだ。

右手が使えない彼女には、左手でアデリーナを捕まえねばならないから、だから…剣は邪魔なんだ。


くそっ!自分は剣だと言っているが…それでは盾ではないか!



盾…?


ぁ…


あ…ぁ…


『私は殿下の剣でもありますが…盾であることも、それは騎士の務め、そのようなご心配は御無用でございます。』


頑固な声が聞こえた。


「ぁ……」




一瞬なにかが見えた気がしたが、だが「ルシアン王子。」と、アストンが俺を呼ぶ声に引き戻された。


「あいつが死ぬ気なのは、気がついてんだろう。このままでいいのか!あいつはあんたしか見てないが、このまま黙ってあいつが死ぬくらいなら、泣こうが喚こうが俺のものにするぜ。あいつを止めれるのは…あんただけだ。あの時のように、俺とあいつのキスを見たいならべつだが…いやなら、早く思い出してやれ!!」





キス…。


そう口にした途端…。アストンが女性に覆いかぶさりキスをしているのが見えた。


アストンが笑いながら、

『そんなに腕を振り上げたら、せっかく胸元を直したのに…また肌蹴るぜ。いいのか…俺と良い事をした名残を殿下にお見せして』


そうだ、女性の胸元は乱れ…キスを受けていた。


だが女性は頭を横に振り

『信じてください…お願いです。殿下!」



その声の持ち主を信じていた。信じていたから、だから…だから…ミランダを助けるために、罠だと分かっている場所に連れて行きたくなかった。


その女性は騎士であることを誇りに思っていることを、小さく細い手が、その華奢な体が、俺に教えてくれたが、


だが…


連れて行きたくはなかった。

当身を入れて、気を失わせても連れて行きたくなかった。





気を失っている女性の金色の髪に触れている…俺が見える。


『すまない。当身を入れて気を失わせて。置いていった事を恨むだろうな。だが、おまえが俺を守りたいように、俺もおまえを守りたいんだ。』


泣いて赤くなった鼻、まだ涙があるその目元に唇で触れ、愛おしさで胸が張り裂けそうで、堪らなくて…自然と言っていた。



『愛している。』



俺はその女性の唇に、そっと唇で触れ、その女性の名を呼んだんだ。




『〇〇〇ー』…と



だがどうしても…名前が思い出せない。

眼の前で命を捨てようとするひとを、惚れているひと止めるために、名前を呼ばねば…「好きだ。」と本当の気持ちを叫んでも、彼女の心には届かない。寧ろ偽った言葉だと思うだろう。


思い出せ。惚れている彼女の名前を!







「どうなさいました?私が怖いのですか?」



突然、シリルの、いや彼女の声が聞こえた。

アデリーナを挑発するその声に、俺は息を呑んだ。



…やめろ。




「いえ、べつに…ただ800年たっても、片思いとはお可哀想だと思っただけです。」


…やめてくれ!



「ロイの魂は何百年たっても、あなたに靡かないとは…ほんとうにお可哀想。」



…あ…ぁ…やめろ。



その瞬間、アデリーナが短剣を振り上げて、彼女に向かっていった。



…やめろ!やめろ!!!


俺の体は彼女の元へと飛び出し、俺の心が、俺の唇が叫んだ。





「ロザリー!やめろ!」




あ、ぁ…あ…あぁぁ!!!



ロザリー…!ロザリー!!!ロザリー……。



ロザリーは、暴れるアデリーナをしっかり左手で抱きしめると、アデリーナの体が光だし、金色の粒状になって行くのが見えた。金色の粒はやがて、アデリーナの人としての形を崩し、キラキラと光りながら、ロザリーを包み、そして俺を包み…空へと上がっていった。



「ロザリー!動くな!今誰か呼ぶ!だから、動くな!アストン!!人を呼べ!早く呼んで来い!」


ロザリーに走りより、そう叫ぶとロザリーは笑いながら…

「…アストンは…敵…ですよ。」


「かまうもんか!」


俺は、ロザリーを抱きしめ

「盾になる事は許さんと言ったじゃないか…。主君の言うことが聞けなかったのか…。」


「女として…ルシアン王子の……側にいられないのなら、せめて…騎士として…ルシアン王子が…愛するこの国を……守りたかったんです。」


「バカやろう…俺が一番愛しているのは、この国じゃない。ロザリー、おまえだ。だから!だから俺は、おまえに守られるより、守りたかったんだ!!」



ロザリーは涙を一粒零し、なにか言うと微笑んで、左手を俺へと伸ばした。


だが、その手は俺に触れることなく……落ちていった。



「ロザリー!!おまえは俺の騎士だろう!勝手に離れるのは許さん!」


腹部から流れる血を、俺は必死に抑えたが…血は溢れでて、ロザリーの白い騎士服を染めてゆく。



怖かった。


幼い頃、同じように、母の体から溢れる血を抑え泣いた記憶が蘇る。


大切な人を守りたくて、磨いた剣の腕はなんのやくにも絶たなかった。


俺は…また失うのか…。


愛する人を…また眼の前で…。



「ロザリー!逝くな。……俺をひとりにするな。」


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