ロザリーとルシアン
ルシアン王子…。
腕を組んで、入って来られたおふたりを直視するのは苦しくて、思わず、視線を下に向けると、私の上着の裾をしっかりと握られる小さな手に…ハッとした。
「…ロザリー…ぁ…」
私の名前の後になにか言われたが、ルシアン王子がアデリーナ様を紹介する声と、広間に集まった者達が、ルシアン王子を、アデリーナ様を、そしてローラン王を称える声で、ミランダ姫の声が聞こえなかった。
私は跪き、小さな両手をそっと握って
「大丈夫ですか?」とミランダ姫の顔を覗き込むと、小さな唇は震えながら
「…見えないの。ぁ…ち、違う。見えるけど…ありえないの。」
そう言われて、両手で口を抑えられた。
「気分がお悪いのですね?」
微かに頷かれたミランダ姫を抱き上げ、後ろの扉からそっと広間を出て庭に出ると、ミランダ姫は座り込まれしまった。
「ミランダ姫、大丈夫ですか?」
ミランダ姫は口元を押さえながら
「私には…あのふたりが…」
そう言われ、私にしがみつかれ
「見えなかったの、人の姿に…見えかったの。」
「ぇっ…どう言う事なのですか?それはエイブのように…」
ミランダ姫は、激しく頭を横に振り
「一度亡くなった人達は…おばあ様達や、エイブのように色がないの。でも人としての姿はあるわ。でもあのふたりは、ローラン王とアデリーヌは……人としての形さえ見えないの。」
「見えない?」
「そうなの、私にはふたりが黒い霧のようにしか見えないの。」
私はゴクリと息を飲むと、ミランダ姫を抱きしめ…
「後は、お任せください。」
私の腕の中から、顔を上げたミランダ姫は
「ロザリー!どうするの?叔父様は…あのふたりを信用しているわ。」
確かにそうだ。
ミランダ姫の話を100%信用されなかったら…それが剣さばきに出るだろう。
そうなれば…やられるかもしれない。
いや、そもそも…ミランダ姫の仰るように、ローラン王とアデリーヌ様が、黒い霧のようなものが、本体だったら、剣で致命傷を与えることができるのだろうか?
どうしたら…
でもこのまま、相手の出方を待っているのは正直怖い。やはり打って出たほうがいい。
なら、急がなくては…今やることは、ミランダ姫を安全な場所へと隠す事。
「このまま、父と侯爵家に…」
「ロザリー!」
ミランダ姫は、唇を噛んで私を見られた。
安心して頂く言葉が見つからない。
本当に全く打つ手が浮かばない。
だから私は微笑んだ。
私の微笑みに、ミランダ姫もほんの少し唇を緩めようとされたが…これはかなり難しかったようだ。私の首にしがみ付き
嗚咽を漏らしながら
「次回…の夜会は…」
「…はい?」
「私のダンスのパートナーは、シリルだから。」
「えっ?」
「キャロルが言っていたわ。シリルに恋をしている女の子は、一度でいいから、シリルにダンスのパートナーになって欲しいと神様に祈ってるって…絶対ダメ!ロザリーもシリルも叔父様以外の人には、絶対やらないもん。」
なんだか、嬉しかった。
だから…
「ならば、姫も私以外の方の手は取られませんように…」
「…バカ」
「それでもいいです。」
「バカ、バカ!」
「…はい。」
月明かりの中で、私は笑って言った。
「ミランダ姫、私は姫が大好きです。」
「……し、知ってるわ。」
そう言われ、大きな声で泣かれた。
*****
広間に入った時、ミランダとシリルが出て行くのが見えた。真っ青な顔のミランダに…俺は思わず、ローラン王をそしてアデリーヌを見てしまった。
…やはりこのふたりなのか?
「どうなさいました?」
母に似た顔で俺を見るアデリーヌに、軽く頭を横に振った。
そんな事はあり得ない。
アデリーヌは女の身でありながら、ミランダを助けに行った俺を追いかけ、見事な剣さばきで俺やミランダを助けに来てくれたんのだ。敵方なら、そんな事をする必要がない。
しかし、見事な剣さばきだった。下手をすると俺がやられるそうだ。
あぁ…庭で、剣を交えた時も、ダガーナイフとレイピアの二本使いは、侯爵譲り…の見事な…ぁ…見事な剣さばき?侯爵譲り?
なぜアデリーヌが?
そう思った瞬間、外から戻って来たシリルと眼があった。
シリル…。




