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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん


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「脱げ!」「脱ぎません~!!」


騎士として、誓いをたてたその覚悟に一転の曇りもない。


その誓いに偽りはない……けれど



今、私は胸のリボンを手にして、固まってしまっている。


「な、な、なんてことないわ。そうなんてことないわ。」


未婚で年頃の女性が、男性の部屋でただ着替えるだけよ。あはは…

それにその男性は眠っていらっしゃるのよ…でも…目の前に…。あはは…


パッと脱げばいいのよ。そうパッと……ノロノロとしているからいけないのよ。



カタカタ…



窓を揺らす風音に、私は慌てて振り返り、また手は止まってしまった。

はぁ~と溜め息をついて…ルシアン王子が眠るこのベットと、長椅子しかないこの部屋を見渡し


「ないよね。着替える場所って…まさかこの部屋を出るわけには行かないし」


甘かった、当然いろいろ事情を知っているお父様が、着替えを持ってきてくださると思っていた。着替えの為に、一時お父様と護衛を変わり、私は隣の部屋で着替えるつもりが…


着替えを持ってきてくださったのは…お母様だった。




コンコン・・


「どうかしら?着替えた?」


「いえ、まだです。あの…お父様は?」


「女官長と後宮の人事を扱っていらっしゃる伯爵に、お話があるそうよ。」


あぁ…私が後宮に入り込む話だ。長くなりそうだわ。


どうしよう。まさかお母様にルシアン王子の護衛を頼めないし…かといって、いつこちらに来られるかわからないお父様を、待っているわけには行かない。


なにより、お母様をルシアン王子の部屋の前に立たせておくのは…危険だもの。


箱の中の服を見つめ…

しっかりしなくちゃ、今私はウィンスレット侯爵家の嫡男、シリル・クライヴ・ウィンスレット。ましてやルシアン王子の護衛。ロザリーじゃないんだから!


ええぃ!!とばかりにリボンを解き、胡桃ボタンを震えながらだったけど、一個、また一個と外して行き、スリップ姿になった時だった。


気配を感じ、振り返ると…ルシアン王子と眼が合った。


ど、どうしたらいいの?


「ぁ、怪しい者では…」

いや、充分…怪しいですよね…私。


「えっと…ちょっと…ここで着替えを…」

何言ってんの、私!!それじゃぁ、ますます怪しいじゃん。


ゴックン・・


大きな音をたてて、唾を飲み込んだ私を見ているが、ルシアン王子は、ぼんやりして反応がない。

もしかして…まだ意識がはっきりしていないのかもしれない。

た、助かった。と…とりあえず着替えよう。ズボンを穿いて…胸に…


胸に…晒さらしを…巻くんだけど…


…ない。


着替えが入っている箱を、ガサガサとすべて出したが……ない。


………ない。


そんな~!どうするの~?!


私の右手は慌てて、扉を叩いた。


コン!コン!・・


「お、お母様、ないです。いつも胸に巻いている晒が…」


「えっ?……ま、巻かないとやっぱり…マズい?」


自分の胸を見た。

大丈夫…かなぁ…大丈夫かもしれない。でも…でも…なんだか涙と鼻水が出てきた。

鼻を啜る音に扉の向こうから、必死な声が聞こえてきた。


「ロ、ロザリー?ご、ごめんなさい。私ったら、なんとひどい事を…。朝!朝一番に持ってくるから!絶対一番に!」


「グスン、グスン…もう…ルシアン王子が…目覚めそうなんです。お母様、どうしよう…」


「そ、そうだわ。このコ、コートを…」


「コート?」


「ロザリー、扉を開けて!」


私は自分が今、下着姿だった事を忘れて、扉を開けた。


お母様は眼を見開き私を見たが、慌ててコートを私に押し付けると扉を閉め

「まだ、殿下はお眼覚めではないんでしょう。朝一番に持ってきますから、その間だけ着ていれば…どうにかなるわ。」


「…わかりました。どうにかこれでしのぎます。でも!でも!朝一番ですよ!絶対ですよ!!」


「大丈夫よ、ロザリー!すぐに戻れば、朝一番に来れます。この母に任せなさい。」


バタバタと走るお母様の足音に…祈るように額を扉につけ…大きく息を吸って、シャツを羽織ると、暗い部屋の中で、手探りで小さなボタンを留めていった。


そして…コートを羽織り

「大丈夫」と口にし、今度は扉に手を置いて


「朝一番で届きますように」と祈ったら……


それは低く胸に染みる声が聞こえてきた。

「なにが…朝一番なのだ。」…と


それが一瞬、神様の声に聞こえ、私は思わず、縋る気持ちを声に出した。


「さら…し…」


ハッ?…なに?今のなに?

今、何か聞こえて…なんか答えちゃったよね…私。


キョロキョロと辺りを見まわすと、ベットの背にもたれたルシアン王子が、手のひらを上に向け人差し指だけクイクイと曲げ、私を呼ぶ仕草に…汗が一気に出た。



行くしかないよね。

さりげなく、コートの前を合わせ、歩き始めると…ちょうど月の光が部屋に差し込み、暗かった部屋がわずかだったが明るくなった、でも私は明るい月の光の中で、ルシアン王子と眼をあわす事が出来なくて、ルシアン王子の前で下を向くと


訝しげに、ルシアン王子は私にこう言われた。

「お前は、明日来る騎士のひとりか…?」


「は、はい。」


「コートの下から見えるのは…騎士団のズボンだが…だがそのコートはなんだ。」


「も、申し訳ありません。ちょっと風邪気味で…」


ルシアン王子の声が、ずっ~んと低く冷えた声になった。

「風邪?だと…そんな言い訳をよく考えたものだ。舞踏会で知り合った女のところにでも行っていたのだろう?!」


「はぁ?」

妙な問いに、顔を上げた私に…


ルシアン王子は…

「まだ…子供のような顔と、華奢きゃしゃな体つきなのに…もう女遊びか?」


「へぇ?」


キョトンとした私の顔に、気分を害されたのか、ふらつく体でベットから立ち上がろうとされた。


まだ、無理してはいけないのに…


「殿下!起き上がってはなりません!」


と慌ててルシアン王子に近寄ったら、ルシアン王子は私の胸倉を掴み、赤い眼を細めて


「任務は明日からだから、女と遊ぶのはかまわん、だが…俺の前にそんな格好で出てくるのは許さん!脱げ!」


「そんな格好?」


「お前が身に着けているそのコートは、女性のものだろう!」


慌てて、視線を落とすと…


私は…フリフリの真っ赤なコートを身に纏っていた。

あぁ、そうだった、今日は仮面舞踏会で、顔がわからないからと言って、中には仮装して来る方もいるが…母はそのタイプだったんだ。


でもなんで…フリフリ?

なんで…真っ赤なの?


「脱げ!騎士として、恥ずかしくないのか!」


騎士じゃなくても…恥しいです!でも…脱げば…胸が…胸の○首が見えて、今以上に恥しいんです。



だから…


「…い、いやです!」


「なんだと!脱げ!」


「ぬ、脱ぎません~!!!!」


片方の眉が上がり、赤い瞳が一層鋭くなったけど…無理なんです。


騎士として、誓いをたてたその覚悟に一転の曇りもない。もうピッカピッカ!!

その誓いは嘘じゃないもん。ほんとだもん。


でも、でも…それとこれは別!!


「絶対!絶対!脱ぎません!!」





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