王子様は苛立つ。
まったく…覚えていない俺は何も答える事ができず、シリルに視線を向けたまま、固まったようになっていた、そんな俺をシリルは黙って、しばらく見ていたが、そのうち言葉を選ぶように俺に話し始めた。
「ミランダ姫がエイブに攫われたことは…覚えておいでですか?」
「あぁ…覚えている、俺はミランダを救いに行った…」
「…誰と…ですか?」
【誰と?】
シリルのその言葉は、心臓に大きな音を立てさせた。
『俺の背中をお前に預ける。』
あの時…
……誰かに…そう言った。
でもいったい誰に?俺は言ったんだ?
俺は…
背中を預けるほど信じた者を…。
忘れてはいけない者を…。
…忘れている?
心臓の音がさらに激しくなり、エイブに剣を向ける悲しげな背中と、そして小柄な体が浮かんだ。
その瞬間、なぜだか眼の前のシリルへと眼がいった。
どうして?シリルへと…眼が行くのだ?
いや、それはあり得ない。
なぜなら…あの背中を…俺は…
抱きしめたいと思った。
すべての悲しみから守りたいと思ったんだ。
あの背中は…女性だ。
愛おしいと思って見た背中だった。
だがそれも…あり得ない話だ。
剣は重い…。
男だってそれなりに鍛錬をしないと、剣を振り抜くことなど無理だ。
それに……あの構えは間違いなく剣の使い方を知っていた。
それも、かなりできると思える。
そんな女性などいるはずはない。
「ルシアン殿下。」
その声にハッとした俺は、シリルへ意識を向けたが、俺を呼んだシリルは躊躇っているように思えた。
だが、軽く眼を瞑ると、もう一度俺を呼んだ。
「ルシアン殿下。ここに参りますまでに、城の者が色々言っているのを聞きました。
私が、陛下のお部屋から離れてすぐに、ローラン国王の声が聞こえたそうです。
【なぜ、こんな事をなさる?!】…と、その言葉と同時に、大きな物音とローラン国王の叫び声が聞こえ、衛兵は入室をローラン国王に止められておりましたが、堪らず陛下のお部屋に飛び込むと、そこには…
ベットに横たわる陛下、そのベットの脇には…王大后様と王妃様と思われる……」と言って、口を閉ざしたシリルに、俺は頷きながら思った。おそらく…もう…人としての形を留めることが出来ない状態になっていたんだ。
大きく息を吐き…
…そうか…お二人はもう…」と口にした、
その言葉にシリルは小さな声で「はい」と返事をすると
「殿下と父は奥のクローゼット近くに…、そして窓際の長椅子には折り重なるように、ローラン国王と王太子様が意識を失って倒れていらしたそうです。」
「王太子?兄上が…?」
「はい、それも…王太子様は右手に短剣を持って、倒れておいでだったそうです。」
「えっ?」
シリルの言葉の意味がわからなくて、もう一度…
「えっ?今…何と言った。」
俺の問いにシリルは
「短剣を持った王太子様、そして首に浅いとはいえ傷があったローラン国王が、窓際の長椅子に折り重なるようにいらしていたと…城の者は言っておりました。」
「お前は…兄が…ローラン王を…と言っているのか?!」
兄上は…そんなお方ではない。
第二王子として生まれながらも、この黒髪を…この赤い瞳を…忌み嫌われた俺は、母とふたりで王家の人間でありながら、隠れるように暮らしていた…そんな中、兄上だけが俺と母に優しかった。
側室とその子供…ましや、その子は呪われているとまで言われていたのに…
【ルシアンは私の弟、第二王子です。これ以上の無礼は第一王子の私が許しません。】とまで、王大后や王妃、そして…貴族らに言ってくださった兄だ。
確かに、娘のミランダを避ける兄上と姉上を、悪し様に言う者がいるのは知っているが、俺はそれにはきっと理由があると思っている。必ず理由があると信じているから、兄上と姉上に、ミランダに会ってくれとは言ったことはない。
俺は信じている。優しい兄が…あの修道女と呼ばれる女の、手先だなんてあり得ない。
だから俺は、淡々と人から聞いた話を報告するシリルに苛立った。
「城の者が口にしていた事を…そんな不確かな事を…わざわざ報告にきたのか!」
苛立つ俺に、シリルは
「私はこの眼で見て、そして感じたものでしか、真実はあり得ないと思っております。」
「ならば、なぜそんなことを言う!」
シリルは透き通るような青い瞳を俺に向け
「その後、私はローラン国王から直接聞きました。ローラン国王は王太子様に…後ろから襲われたと仰っておいででした。」
「ローラン王が、王太子に襲われたと言っておいでなのか?」
「はい。そしてローラン国王の首には、右の首筋から入った短剣のあとが…」
「右?」
「はい、右です。」
シリルはそう言って、俺を見つめ、もう一度言った。
「刃先は右から入っておりました。」
すみません。
(小説家になろう)での投稿が、先行の(アルファポリス)で書いておりますほうに、追いついてしまい、改稿できないままの更新になりそうなので、明日の更新後、お時間を戴いての更新に変えて行きたいと思っております。
明日の更新後、毎日の更新は出来ませんが、よろしくお願い致します。




