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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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王子様が感じたものは…。

眼の前に跪く、少年のような騎士は、鋭い眼で

「ご報告があります。」と言った。


視線の強さに、俺は押されたように頷くと、シリルは

「申し訳ありません。殿下とふたりでお話ししたいのですが。」


その言葉に、アデリーナの空気が変わった。


アデリーナ…?



視線をシリルから、アデリーナにやった。

俺はこの女性が気になっている。それは…母とそっくりなその容姿だけではない、うまく言えないが…もっと深いところで、離れられないものを感じている。

それがなんなのかはわからない。初めて会ったのに、どうしてそう思うのだろうか?


だが今のは…、アデリーナから感じたものは…、先程のアデリーナから感じたものとは違う。


いったいなんだったのだ?

一瞬だったが、この心地良い空気に…混じったものは…?


ぼんやりする頭を軽く横に振り、跪く騎士を見た。




心地良い空気か…

その空気はこの少年だ。


この少年がこの部屋に入った来た時、感じたものは…おそらくミランダがよく言っている。綺麗な色というものだろう。


俺には、ミランダのような力はないが…清らかな色を持つ者の空気とはこういう物なのかも知れない…ミランダがこの者を知れば、きっと夢中になるだろうな。



あぁ…ほんの数十分前に、ひどい頭痛と嘔吐感に…ようやく現実に戻って来たと思ったが、あれはまだ意識がはっきりとしていなかったのだろうな。


今、この者の持つ空気を感じて、ようやく俺の頭は動き出したような気がする。



「わかった。アデリーナ嬢、席を外してくれ。」


「で、でも…私は殿下のお体が心配です!」


「アデリーナ嬢、席を外してくれ。」


俺の言葉に、アデリーナは頷いたが…彼女から感じる空気がまた変わった事に、俺は眉を顰めた。


これは…いったい…?


俺の視線に気が付いたのか、慌てて俯いたアデリーナは…小さな声で

「わかりました。」と言って、部屋を出て行った。



その背中を見つめ…

彼女から感じたものはなんだったんだと…俺はアデリーナが出てゆくまで、眼が離せなかった。






ひどい頭痛と嘔吐感に、意識が戻ったのは、ほんの30分程前だった。

眼を開くことはできなかったが、痛む頭の押さえて、浮かんだのは…彼女に会いたい。と思う気持ちだった。


だが…彼女?…彼女って誰だ?…その女性がわからないことに愕然としたが、唇だけがその女性を知っているかのように、何度も何度も…唇がその女性の名前を呼んでいる。


だが、呼んでいるはずの俺には聞こえず…苦しくて【助けてくれ】と…手を伸ばした、その瞬間だった。誰かが俺の手に触れ……俺は眼を開いた。



『殿下』

そう言って、微笑んだ女性を見て、息が止まりそうだった。


なぜ…母上が…まだ…俺は眠っているのか?


『…は…はうえ…?』


唖然とした俺に…その女性は困ったように、首を傾げると

『やはり、絵姿を見て頂けていなかったのですね。』


そう言って、俺の頬に触れ

『ローラン国のアデリーナでございます。』


『…ローラン国……アデリーナ。』


『はい。』



彼女が…俺の…婚約者。

その事に不思議と違和感を感じなかった。


ぼんやりした頭だったが、この女性は…知っている。母に似ているからではない。もっと…そう、魂が知っていると…俺に言っているような…。


アデリーナは優しい微笑を浮かべると、

『お会いしたかった。』と言って、俺に凭れてきた。


柔らかく甘い香りに誘われるように、そっと手を伸ばすと…頭が痛み、また嘔吐感に襲われ、慌てて、彼女へと伸ばした手で口を押さえ

『…風にあたりたい。』と言って、ベットから起き上がり窓を開けた。


ようやく…吹き込む心地良い風に、息を吐いたら、アデリーナが涙を溜めて、俺の前に立つと

『私がお気に召さないのですか?』


どういったら良いのかわからなかった。ぼんやりとする頭で

『…そういうわけではない。』


そう言った俺に…アデリーナは笑みを見せたが…だんだんと切ない顔で

『婚約者になった時は夢のようでした。覚えておいでではないでしょうが、昔、私たちは…』

その次の言葉が出てこないのか、ただ俺の顔を見つめ、ポロポロと涙を零すと…


俺の腕の中に飛び込み

『お願いです。私を…愛してください。』


『…アデリーナ。』


『私たちは結ばれる運命だったんです。もう…誰にも邪魔はさせない。だから…私を…』


そう言って、俺の首に両手を回し、唇を請うように…俺を見た。


『お願い。』


そう言って、近づく唇に…俺は動けずにいた。

その時だ。白いカーテンが舞い上がり、カーテンの隙間から…キラリと光るものが見え、そちらに誘われるように、視線が動いた事で、アデリーナの唇は…俺の唇ではなく頬に触れた。




「ルシアン殿下、急ぎお知らせしたい事があり、無礼を承知でお邪魔いたしました。」




その声に…。その凛とした声に…。

カーテンの隙間から、キラリと光ったあの金色の髪に…。


俺は囚われたように、ぼんやりと見つめていた。




まるであの瞬間の俺は、この金色の髪と青い瞳の少年に…一目ぼれしたような感じだったな。


少年に一目ぼれか…おいおい…



バカなことを考え、クスリと笑った俺だったが、跪く少年は俺の笑った声にも動ぜず、ただ俺の言葉を待っているようだった。



その態度が、シリルの父親のウィンスレット侯爵の生真面目さと重なり、今度はクスリどころか、大きな声で笑い出しそうになってしまい、必死でその笑いを押し殺しながら

「その報告を聞こう。」


笑うのを堪えた為、震える声でそう言うと、シリルはようやく口元を少し緩めた。


だが…すぐに厳しい顔で

「殿下は、なにがあって倒れられたのですか?それを覚えておいでですか?!」


「…覚えて…?」


シリルのその言葉に…俺は小さな叫び声を上げた。


そうだ…なぜ俺は…意識がなかったのだ?

その前にいったい俺はどこで、なにをしていたのだ?


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