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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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王子様は聞く。

ぼんやりと兄上を見ていた俺に、ローラン王はくだけた口調で

「なぁ…ルシアン。」と…俺の名を呼ばれた。


「えっ…?」

いくら伯父と甥の中でも、他国の王と王子の仲だ。

そう簡単に、名前を気安く呼ばれる事はなかったので、驚いてローラン王を見てしまった。


そんな俺の顔に微笑まれたが、ゆっくりと部屋を見渡し…静かに言われた。

「ルシアン。私は…この国はもうダメだと思う。」




声が出なかった、それは心のどこかで俺も感じていたからだ。



「もちろん約束通り、この国の民の為にわが国の兵を出そう。だが…例え不穏分子や、その化け物らを一掃しても、その後はどうするのだ?国民の心を纏める国王や王太子が…」


と言って、陛下と兄上へと視線を向け

「あれでは…どうにもならんだろう。」


「…ミランダが…おります。」


「4歳だったか?あの姫は…。4歳の少女に何ができる。国政はママゴトではないぞ。」


例え、伯父であっても、他国の王に陛下やミランダが持つ力は言えない。


黙り込んだ俺に、ローラン王は

「ローラン国へお前が来れば…もうこの国を纏める者などおらん。」


「…なにが仰りたいのですか?」


「私がお前の後ろ盾になってやる、だからこの国を統治しろ。」


「えっ?」


「私がお前を支えてやる、だからお前がブラチフォード国王になれと言っている。」


俺の呆然とした視線に気がつかれたローラン王は、オレンジ色の瞳を細め

「お前が婚姻の為に、今この国を離れてしまったら、この国は纏らんだろう。ならば、これしかないと私は思うが…?」


「…そんなことできません!…俺とローラン王が一緒に、このブラチフォード国を治めるという事など…それは…できない話です!」


俺の肩に手を置かれ、盛大な溜め息をつかれると

「どうやら…お前はこの国を治めようとする心を…野心だと思っているようだな。」


オレンジ色の瞳が笑いながら、

「では、お前に問う。


わずか4歳のミランダ姫に、どうやってこの国を治める事ができるのだ?

有能な臣下をつけると言いたいようだが…その人数は万か?千か?百か?まさか……」


と言って、口元を歪ませ

「まさか…数人などと言わんよな。」


俺は俯くしかなかった。

まさしく、数人しかいなかったからだ。


大きな溜め息を付かれたローラン王は

「私のもとに来る決心をしたのは…このままだと、王太子を押す者達と、お前を押す者達との衝突は避けられんと思ったから、決心したのだと思う。確かに、お前が決心した頃はそうだったろう。だが…それは今となってはどうだろう?」


「…今となっては…?それはどう意味ですか?」


ローラン王は王太子へと視線を向け

「誰にも気づかれないようにこの部屋に入りこみ、肉片となった王太后と王妃と一緒に、この部屋にいた王太子。そんな王太子を皆はどう見るだろな。」



誰にも、気づかれず…?


あっ…!

誰も王太子が、この部屋にいると口にしていなかった。


あぁ…兄上がここにいる事を、誰も、誰も、知らないのだ。


…ならば…もし姿を見られたら、王太子は…王大后や王妃と同じ輩だと…。いや化け物になった王大后や王妃の黒幕だと思われるやも知れん。そうなった時、あの重鎮らは保身を考え、おそらく王太子を見捨て、他国と手を結ぼうと動くやも…あるいは、ミランダを取り込み、傀儡政権を作ろうと画策するやも知れん。



兄は優しい方だ。

きっと、王大后や王妃の黒幕に嵌められたのだ。


だが扉の向こうにいる城で働く多くの者に…この状況の中でどうやって信用してもらう?あの優しい王太子の人柄を一兵士らが知るはずもない。


それをどうやって…わかってもらえばいいのだ。


「ルシアン。王太子は今マズい立場だということはわかっているよな。そんな状況の中、お前は、信用が出来る数人の臣下にミランダ姫を任せ、ローラン国に来れるか?お前にはできんだろう?私は妹の忘れ形見のお前が可愛い、だから…お前と妹が愛するこの国を守ってやりたいのだ。」


ローラン国王は母を亡くした俺を、手紙で、そして時折訪ねて…見守って下さっていた。

伯父と甥と言っても、他国の王が当時まだ子供とはいえ、王子の俺を訪ねる姿に、不審な眼で見ていた者が回りに多くいただろう。ましてや濃い色を嫌う王家の人間や、それに賛同する貴族達の冷たい視線もあっただろうに、そんな視線にさらされても微笑みながら、俺を案じて訪ねて来て下さるローラン王に、どんなに感謝をしたかわからない。


だが…俺は…。


「今はこの国を離れ、遠くからブラチフォード見守るという段階は…もうすでに機を逸したと思うぞ。私の右腕の伯爵の娘との婚姻をすることで、お前はローラン国の後ろ盾を得ることになる。ましてや、私とお前は伯父と甥の仲。ふたりが手を組めば、不穏分子を押さえこみ、そして化け物らを操る黒幕をも壊滅できるのだぞ。だがお前がブラチフォード国王となるのを躊躇えば…果たしてどうなるだろか…」


ローラン国王は俺に背を向かれ

「いつまでも、この部屋に、人を入れないわけにはいかない。だが、王太子の姿を誰にも見せることなく、この部屋から出す事は無理な話だ。では、どうする?王太子の姿が、皆に見られたくないから、このまま籠城でもするか?」


ローラン王はそう言って苦笑すると

「フッ…王太子は…もう王にはなれんな。なら、次の王を決めなければ、国は本当に滅ぶぞ!そんな不安定な状態の祖国を、お前は見捨てるのか?!」


俺は、顔を歪めるしかなかった。


「それでも、お前がブラチフォード国王になるのを、まだ躊躇うのなら、お前が望むとおりにすれば良い。私はお前がどちらを選んでも、力を貸すつもりだ。だが、ブラチフォード国王や王太子の力が弱まったら、不穏分子と…あの化け物と戦おうとする者が、どれほど出てくるかな。もちろん私は約束は通り、兵は出そう。だがローラン国とブラチフォード国は離れておるからな。なにかあったときに、急いで軍勢を引きつれやって来たとしても…果たして間に合うかのう。ブラチフォード国に着いたときには…」


と言って、腐臭を放つ肉片にまみれたドレスと宝石へと、また眼にやられ、俺もその後を追うように見た。


「皆…あのような姿になっているかも知れないな。」


侯爵が…ミランダが…


……ロザリーが…


唇をかみ締めた俺に、ローラン王が囁いた。


「私とお前は、伯父と甥の仲だ…頼れ。」

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