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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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王子様は見る。

ようやく城へと戻ってきたのは、夜も明けた頃。


慌ただしく城内に入ってきた俺たちを、衛兵たちが

「お早く!お早く陛下の寝室へ!」と叫ぶ中、俺は頷きながら陛下の下へと走った。


陛下の寝室の前には、うな垂れた侍女や兵士が大勢いて、その様子に俺は最悪な事を想像し、扉へと手を伸ばしながら、動けずにいると、小さな頭が俺の胸にコトン…とぶつかってきた。


「ミランダ?」


「…だいじょうぶ。」


そう言って、眼を擦っていたが、またすぐにミランダは船を漕ぎ出し

「寝てていいんだぞ。」


「…いや。」呟くように言うと、また眼を擦り


「お爺様のお顔を見るまでは…いや。」


「そうだな。陛下の顔を見ないで、ここで立ち尽くしても意味はないな。」



俺はミランダの頭を撫で、力を貰ったその手で、陛下の寝室の扉を開けたその瞬間。


大きな声が聞こえた。

「ルシアン王子だけだ!他は誰も入ってはならん!」


ぁ…やっぱり…遅かったか?


その厳しい声に大きく息を吐き、下を向いた俺に…ロザリーが近づいてくるのがわかった。

ゆっくりと顔を上げると、騎士の服のところどころが破れ、わずかとはいえ、血で染まったその姿に、胸がチクリと痛んだ。


俺は…


俺は…惚れている女の清らかな手に、化け物になったとはいえ、見目が人である者の首を刎ねさせ…そして彼女自身の心に…いや体にも傷をつけてしまった。


だがそれは…無意味なことになったかも知れない。

ただ、辛い思いをさせただけになってしまったのかも知れない。



俺の視線をそっとロザリーは外すと軽く眼を伏せ、

「いかなるときもルシアン殿下と共に…」


そう言って、ロザリーは優しさに溢れる瞳で微笑み

「困難に立ち向かう覚悟を持っております。」


彼女が瞳で言っている。

まだだと、まだやるべき事があると…


俺はロザリーを見つめ、黙って頷いた。


そうだ。まだ…だ。

まだ、エイブらを裏で操る輩がわかっていない。


その輩を倒さない限り終わりではない。

そうだ、まだ終わりではないんだ。


例え…陛下に何かあったとしても…民を守り、幸せへと導かなければならないのが王家の勤めだ。


俺はミランダをロザリーに預け…ひとこと

「頼む。」


その言葉だけで、ロザリーは俺の考えのすべてがわかったように、「はい。」と返事をすると、震えているミランダを強く抱きしめて


「あとはお任せください。」と言って、強い眼差しを俺に向けた。



ロザリーが側にいるなら、ミランダは大丈夫だ。

俺は頷くと、部屋の中へと足を踏み入れていった。





部屋の中には、陛下がベットに横たわり、その側には…


……ローラン王がいらした。



「…ローラン王?!どうしてここに?」


ローラン王は、青い顔で頷くと

「外遊の途中だったのだが、この国を横切るのに挨拶もしないのは、いささか薄情かと思って、先触れを出したら、使者から…体の一部分がない…王大后と王妃が、無理やり王の部屋に入ろうとして、城内が混乱していると連絡を貰い、慌てて城に参ったら…このような状況だ。だが安心しろ。国王は大丈夫だ。眠っていらっしゃるだけだ。ただ…」


と言われ、視線を窓へ向けられた。

その視線の先を追うように、俺も視線を動かすと、窓際の長椅子に横たわる人物が…


えっ?…俺は思わず息を飲んだ。

「ぁ、兄上!!」


「ルシアン王子!落ち着け。王太子は気を失っているだけだ!だが、なぜここにいらしたのかは…それが…なにを意味するのかはわからぬ。それより!!」


と言って、視線をベットの下へと移され

「それより、どういうことだ?この城はどうなっているのだ。」と震える声で訊ねられた。



そこには金銀の糸を使ったドレスと宝石が…腐臭を放つ肉片に…まみれていた。




「私が部屋に入った時、王大后と王妃の体が……突然…」

と言われて、込み上げてくる吐き気に口を押さえ、後の言葉を言うことが出来ないようで、その続きを俺が大きく息を吐き


「…崩れたんですね。」



口元を拭いながら、ロレーヌ王は顔を歪ませられ、俺を見られ

「あぁ…まるで溶けるように…。いったいなにがあったのだ?王大后と王妃は…化け物だったのか?!」


まだわかっていないことばかりだが、これだけは言える。

「この国を誰かが…壊そうとしているようです。」


「壊す?」


「はい。すべてを無にしたい輩がいるようです。」


「私に力を貸してくれと、言っていたのは…王大后と王妃を化け物にする輩と戦うためでもあったのか?!」


「あの時は、そのような輩がいるとは…わかりませんでした。」


そんな恐ろしい輩と対峙してくれと頼むのは、民を預かる王としては返事はできないだろう、だが…俺だけではどうにもならない。


「ローラン国まで、巻き込む事になるかもしれませんが、力を貸して頂きたい。」


ローラン王は俺の肩に手を置き

「甥の願いということは、もちろんだが…人を化け物にする輩が、わがローラン国に災いをもたらさないという保障はない。ならば…やるしかないな。」


「ローラン王…すみません。」


「だが、ルシアン王子。王太后と王妃があの様な姿になったことを、臣下の者にどう言うのだ?言えば恐ろしさのあまり、逃げ出す者も出てくるだろう。いや…それより…王太子だ。部屋から出ない王太子夫妻に、臣下らの気持ちは離れていっていると聞いておる。その王太子があの様な姿になった王太后と王妃と共に、国王の部屋にいたということを…臣下の者にどう言うのだ?あぁ…本当にブラチフォード国が壊れてしまうな。」


ローラン王の言葉に俺は何も言えず、長椅子に横たわる兄を…王太子を見た。


(兄上…)

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