【閑話】暗躍する者たち④
目を細め口元に薄っすら笑みを浮かべたアストンのその顔に、余程ムカついたのだろう、エイブは顔を赤くし
「余裕だな!何が可笑しい…。」
「そこまで、あの気味の悪い女を信じているとは…と思うと可笑しくてな。」
「どういう意味だよ!」
エイブの声に答えようとしたアストンより、まだ青い顔のミランダがポツリと言った。
「…魂は不死身でも…肉体は…」
小さなその声に、アストンはニヤリと笑うと
「4歳児とはいえ、さすが姫は優秀だ。エイブとは大違いだなぁ。」
「な、なんだよ?!いったいどういう意味だよ!」
エイブはアストンとミランダを交互に見ると、更に顔を赤くして
「だから…なんだよ!!」
「不死身になった途端、偉そうなことを言うようになったと思ったが、中身は変わらねぇなぁ。やっぱりお前はビビリだ。」
「う…う…うるさい!」
そう叫んだ途端、エイブの手に握られていた銃は、乾いた音を立て、その銃口から鉛の弾を飛ばし、アストンの左頬を掠った。
悲鳴を上げたミランダだったが、気丈にもアストンに駆け寄り、エイブを睨むと
「…私が…私が教えてあげるわ!」
「姫まで、バカに付き合うことはないですよ。あなたになにかあったら…あの王子様やそして…あの女が…」と言って…口を閉ざすと、弾丸が掠った左頬を袖口で軽く拭い
「俺もお前が初めから気に入らなかった。いいぜ…ここでやるか?」
「お前はバカか?!俺は不死身だぞ?!」
「…だが頭を切り落とし…肉片になるまで細かく刻んだらどうかな。」
ミランダが思わず、恐怖で叫びそうな口を押さえた。
エイブはオロオロとして、ミランダとアストンを見ると、震える声で
「…お、お…おい…おまえ…」
と言いかけた言葉を唾で飲み込み、大きく目を見開くと頭を横に振った。
その様子を見て、アストンはクスリと笑い
「もう死んでいるんだ。怖くなどないだろう。」
「俺は!俺は…」
「不死身なんだろう?」
「そう…そうだ!そうだよ。俺は不死身だ。痛みさえないんだぜ、そうだよ。頭さえ切り落とされなければいいんだ。そうすれば俺はお前に勝てる。」
銃を両手に持ち、またアストンへと銃口を向けた。
「違う!違うわ!」
ミランダはそう言って、アストンを庇うようにエイブの前に飛び出すと
「体が痛みを感じないのは…その体はもう…この世に存在しないものだからよ。」
「はぁ?」
間の抜けたエイブの声に、アストンは鼻で笑うと、ミランダを自分の背中に回し
「雇い主に切られた腹を見てみろよ。パックリと開いた傷口は、血は流れないが…いずれ蛆虫が湧いてくる。要するに、永遠にその体はもたない。器(肉体)は腐敗するって言っているんだ。」
アストンはエイブに言ったのだが、ミランダはその言葉に顔を覆うと肩を震わせ
「…おばあさま達の時間は…もう…尽きているの?」
アストンは表情を変える事なく
「あぁ。腐敗はこいつより進んでいるだろうな。」
そう言ってエイブを見て
「遅かれ早かれ、お前も同じ運命だ。」
「違う!俺は違う。俺は約束したんだ、永遠の命を得て、この国を治める王にしてやるからと約束したんだ!」
「…どこまでバカなんだ?」
「うるさい!お前の言っていることは全部嘘だ!あの修道女様が俺を騙す事なんかされるはずはない!ぁ、会ってくる。修道女様に会って、お前が…お前が…嘘を言って…計画を壊そうとしていると言ってやる!」
「…チクリか?あぁ、行け行け…悪いが俺ひとりで、ルシアン殿下とシリルを殺れないから、俺はここからお暇させてもらおうぞ。だが…雇い主はこの状況をどう見るかなぁ。ミランダ姫を殺せと命令されたのに、その命令を無視したお前を…さてさてどう見るかなぁ?」
「い、今…殺ればいい。今、姫を殺れば済むことだ!」
「…遅いぜ。」
「えっ?」
「やっぱり感じていないんだ…この殺気を…」
「殺気?」
「殿下のお出ましだ。相手をしてもらえ。まぁ…がんばれ。」
そう言って、踵を返したアストンの服をミランダが握った。
「…あなたは色が…」
「色?」
「…ロザリーね。」
「…何の話やら…」
そう言って、走っていったアストンに…エイブは大きな声をあげた。
「くそっ!!俺に、俺に…あのふたりを殺れと言うのか?!俺に…。」
「もう…あなたに勝ち目はないわ。叔父様は強いもの。」
「知っているさ!だからあいつを、アストンを、引き込んだのに…俺では…」
エイブの自信なさげな声に被さる様に…
「…試してみるか?俺は左手で相手をしてやってもいいぞ。」
「ル、ルシアン王子。」
ゆっくりと近づくルシアンに、アストンの額から大粒の汗が浮かび、後ろに一歩さがったが…その瞬間満面の笑みを浮かべ
「まだ…まだ俺には勝算が…あったんだ。」
そう言って、ミランダへ手を伸ばしたが、その手にルシアンの剣が振り下ろされた。
だが…
エイブは悲鳴を上げるのではなく、笑い声を上げた。
「あ…あはは…痛くない。なんだ、あいつがいなくても大丈夫じゃないか。やっぱりこの体だ。この体があれば勝てる。あはは…」
倒れそうなミランダと…呆然とするルシアンをエイブは横目で見て、大きな声で笑い、足元に落ちた自分の体の一部である手を蹴り飛ばすと、逆の手でミランダを自分へと引き寄せ
「俺、不死身なんです。」と言って、ニヤリと笑い
「おい!お前達、出て来い!」と叫んだ。
その声に、教会の横に建てられていた納屋から、10人程の屈強な男達が出て来ると、エイブはそのひとりにミランダを渡しながら
「こいつらも俺と同じ不死身の体を持つ者なんです。不死身の体なら、殿下を殺れるかもしれませんね。殿下おひとりで、こいつらを相手にするのは大変ですよ。」
ルシアンの赤い瞳は、より赤くなり、口元を緩めると
「化け物相手は始めてだが…悪いが負ける気がしない。」
ルシアンの強気な言葉に、エイブは顔を歪め銃口をルシアンに向け
「それはどうですかね。動かないでくださいよ。俺、今…左手だけなのでうまく殿下を狙えないんですから…あっ、でも殿下が動きたいのなら動いてもいいですよ。ただ…殿下が動けばミランダ姫のお命はないですがね。」
「やめて…やめて!殺すなら私を、私をやって!」
「ミランダ!!何を言っている!」
「私は…お父様やお母様からも疎まれている存在だから…いいの…。もし叔父様になにかあったら、私はひとりぼっちだもの。ひとりは嫌。大好きな叔父様が死ぬは絶対に嫌!!」
「ミランダ!!」
「別れの言葉はこれで終わりだ。じゃぁ…殿下。」
エイブの指が引き金に掛かり
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乾いた音と「叔父様!!!」と泣き叫ぶミランダの声が…リールの森の中で聞こえた。




