表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
51/214

守りたいと思う心。

「…細く、小さな手だ。」


「えっ?」


「その体で、ここまで強くなったのは、才能もあるだろう、だが、相当な努力をしてきたのだろうな。」


「殿下。」


なんだか、胸が熱くなっていく。


剣は好きだったが、その鍛錬は並大抵ではなく、あまりの辛さに好きだった剣が、嫌いになった時期もあった。


綺麗なドレスも、長い髪も捨てて…いったい何をやっているんだろう…と、剣ダコができた手のひらを見つめては、悲しくて堪らなかった時もあった。


貴族の娘なのに、華やかな社交界とは全く無縁の世界。

そんな世界に身を置かねばならない、自分の境遇が悲しかった…でも…もういい。


ルシアン王子の言葉ですべては報われた。

まだ…頑張れる。まだ、私は殿下のお役に立てる。



そう思いながら、目を瞑った私に聞こえてきた声は…


「もう…終わりにしろ。」



熱くなっていた胸に…小さなヒビが入った気がした。


終わり?どういう意味?言われている意味が解からない。


「……?」


唖然としていた私を、苛立ったように殿下は、私の手を高く上へ持ち上げられると


もう、男の真似などするな。お前は女だ。この細い腕に見合った人生を歩め。」


「殿下…」


「爵位は男にしか受け継げないと言う事が、お前を縛っているのなら、その件は俺が王太子に必ず意見をする…だから安心しろ。」



違う。今、私の頭を過ぎったのは侯爵家のことなどではない。

今…頭の中は…


「侯爵家のことなど…どうでもいいんです!」


「ロザリー…?」


「女に戻れとは…どういう意味ですか?それは騎士であることを…やめろと言っておいでなのですか?」


「…その通りだ。」


「で、でも、まだ私には騎士としてやるべきことがあります。」


「今宵の事なら…お前は来る必要はない。」


「どうしてですか!先程は…付き合えと…」


あぁ…そうか…アストンだ。

アストンからエイブに、私が約束の時間前に行かない事が、耳に入ることを恐れて…あの場はそう言われたんだ。


始めから…私を置いて行くおつもりだったのか。


だけど…


「エイブは!エイブは私を殺したいほど憎んでいます!その私が、約束の場所に現れなかった時点で、エイブはミランダ姫を手にかけるかもしれません!」


「エイブが殺したいほど憎んでいるシリルと言う名の騎士は…この世には存在しない男だ。」


シリルは…存在しない。

そんな名前の騎士は…存在しない。


嫌だ、こんな…こんな形で終わることなんかできやしない。


問いかけるように赤い瞳を見ると、迷いのない赤い瞳が私を見つめて居られる。

赤い瞳は揺れてはいない…迷ってはいらっしゃらない。ダメなんだ。もうそうお決めになられたんだ。


…私はうな垂れて唇を噛んだ。


ずっと…ずっと…憧れていた。

力強く、そして流れるような剣捌きに…

国民の前で、ほんの少し照れくさそうに微笑む姿に…憧れていた。


でもそれは、ルシアン王子の一部分だった。



『俺は…はぁはぁ…信用していない者は、男でも…女でも…自分の後ろには…やらん。』

それほどルシアン王子にとって王宮は、危険で…そして孤独だったことを知り、胸が震えた。


女物のコート着た私に、『脱げ!』とムキになって、子供みたいに剥れた顔。


『シリル…盾になることは断じて許さん。』私の迷いを見抜いた赤い瞳の鋭さ。


『ロザリー、あの時はありがとう。』優しい言葉と綺麗な微笑み。



ルシアン王子の姿を知る度に、いつしか憧れが、恋に変わっていったが、どうにもならないとわかっていた。だから叶うことなどない恋だから…この手で好きな方を守りたいと思った。


女として、ルシアン王子の側にいられないのなら、せめて騎士としてお守りしたい…と、なのにそれさえも…許してはもらえないんだ。



……嫌。やっぱり嫌だ!

男と偽って、生きてきたのは…こんなときの為だもの。


「…私は…シリルです。」


「ロザリー!!」


「私は殿下に騎士の誓いをたてた騎士です。」


「バカを言うな!お前は女なんだぞ!」


「私は殿下の剣であり、盾です。」


「いい加減しにしろ!惚れた女を危い目にあわせられるか!!」


「…えっ?」


「……」


「今…」


「…惚れていると言った。」


「…殿下…」


握られていた腕が引っ張られ…ルシアン王子の胸の中で、私は切ない声を聞いた。


「こんな形で…想いを打ち明ける事になるとは…。」


「…わ、私…」


「悪い。このままで居てくれ。お前の顔を見ては言えそうもないんだ。俺は……青いドレスで踊るお前を見た時から…惹かれていた。でも俺はお前に、愛も…将来も…何も与えることが出来ない。だからせめてお前の命だけは守りたいんだ。だから…わかってくれ。」


「…」


「ロザリー…?」


「私は!私は騎士なんです。守ってもらうのではない、守りたいんです。」


ルシアン王子の胸を押しながら

「だって騎士じゃないと…殿下のお側にいられない…。」


「ロザリー、お前…」


視線が絡み合ったが、ルシアン王子は眼を逸らして、呟くように

「すまない…」


その言葉と同時に、ルシアン王子が私のみぞおちに当身を入れられた。


「うっ……」


赤い瞳が揺れるのが見えたのが最後、意識は…ここで途切れてしまった。


「ロザリー」


ルシアン王子が震えながら私の名前を呼び…私の唇に触れられたことも…知らないまま…



時は…20時を回ろうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ