王子様は決めていた。
ミランダを誘拐?
なぜミランダを殺さずに…攫った?
その時点で違和感を持ったが、だが反面、安心をもたらせた。
ミランダを誘拐した者は、ミランダをすぐには殺さないと。
今は…侯爵だ。侯爵ほどの腕を持つ人物を負傷させる者とは…いったい。
そして、その傷の具合が…心配だ。
横に立つシリルの顔は真っ青だった、そして俺も手に汗をかいていた。
「侯爵の傷はどうなのだ?」
「右肩を貫らぬかれたようですが…」
「後ろから刺されたのというのか?あの侯爵がか?」
「いや…それが…」
「どうした?」
「医者が申しますのには…剣ではなく、銃ではないかと…」
「銃だと?」
「はい。銃創を見たことがないで、はっきりとはいえないが、銃創ではないかと…。」
南の国で作られた銃が、とうとうこの大陸まで来たというのか…
ローラン国始め、南の国では今や、剣よりも銃へと変わってきていると聞いてはいたが、まさかわが国までか…
銃…そのようなものを持ち入り、ミランダを殺すのではなく攫った者は…いったいどういう者だ。
「殿下。ミランダ姫を攫い、侯爵に銃を向けた者からと思われるものが…このような手紙を残して行っております。」
*****
ミランダ姫を預かった。
取引がしたい。今夜23時にリールの森近くの教会で待つ。
ルシアン王子、シリルの両名で来られたし。・・・救国の志士
*****
ルシアン王子、シリルの両名で来られたし
これはどういう意味だ。なぜ俺とシリルを…
俺ひとりで充分だろうに…なぜ?
俺とシリルになにをさせるつもりなのだ。
……まさか?
となりのシリルの口も俺と同じように動いていた。
ミランダを殺さなかったのは、俺とシリルを呼び出すためだ。なぜ俺とシリルに拘る?
俺とシリルふたりを相手に勝てる者はそうそういないだろう。
もしシリルに勝てる相手がいるとすれば…おそらく俺だ。
そして俺に勝てる相手は…シリルしかいないだろう。
そう考えれば、わざわざ俺とシリルを呼び出すのは……やはり考えられるのはひとつ。
俺とシリルを戦わせる。
俺とシリルがもしやりあえば、お互い無傷ではいられない。どちらが勝っても、ミランダを攫った者は、傷ついた俺たちを相手にするのなら勝機はある。そして…銃だ。
シリルも気づいているはずだ。
どうする?
だが…行かない選択はない。行かねばミランダが殺される。
シリルの青褪めた顔は徐々に、色を取り戻していた。そして、バートから俺に視線を移し、軽く頷き、微笑んだ。
シリル…お前は…
シリルは例え敵であっても、人を殺める決心がついていない、おそらくシリルは…死ぬつもりだ。俺に切られて死ぬ覚悟を決めている。
シリル、俺に…お前を切れというのか?
俺に…お前を…
ロザリーが…泣く姿が浮かんだ。
シリルと同じ青い瞳から涙が零れる姿が
ミランダを人質にし、そして銃を持った者がいる以上、俺とシリルは剣を交えねばならないのか?!なにか…方法はないか?
考えろ!
何のために、この頭はあるんだ!
落ち着いて考えろ!
まだ…時間はある。
「バート、侍女たちからもう一度話を聞いて、現場の捜査を念入りに頼む。そして…侯爵の意識が戻ったら、話を聞きたい。連絡してくれ。」
「御意。」
走ってゆくバートの背を見つめていた俺に、シリルが口を開いた。
「…この命は殿下のものです、自由に使ってください。」
やっぱり、そう言うだろうと思っていた。
俺は眼を瞑り、大きく息を吐くと…
「そんなくだらないことでお前を死なせはしない。」
「ですが!殿下!」
「シリル!俺を誰だと思っている。」
「殿下…。」
「俺はこの国の王子、ルシアン・ウィルフレッド・メイフィールドだ。俺を信じて付いて来い。お前も、ミランダも、この国も、すべて俺が守る。」
そう、すべてを守るために…俺は俺自身を捨てる。
それだけは決めていた。




