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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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本気が見てみたい。

今日はシリルとして、ルシアン王子の警護に入るのに、昨日の事が頭を過ぎり、とうとう眠れないまま、夜明けを迎えてしまい……


朝の柔らかい日差しでさえ、今は目が痛い。


ちゃんと頭の中で、整理できていたはずだったのに…ベットに横になるといろんな事が頭に浮かんでしまい、そのうちいったいどんな顔をして、ルシアン王子の前に行ったらいいのかわからなくなってしまった。


足元にあった小石をつま先で転がしながら

「大丈夫、私は大丈夫!」


…と大きな声で言ったものの…言葉とは裏腹に、足は止まったまま一歩も進めない。

下を向いていた顔をゆっくりと上げると、ルシアン王子の部屋が見えた。



『…俺は必ず、この国を守る。』



あぁ…ダメだなぁ…。

なにを動揺しているの。


まだ、これからだと言うのに…今はそう、ルシアン王子の仰るとおり、

この国を守る事を…ルシアン王子やミランダ姫を守る事を…考えるべきなのに。


あの時、ルシアン王子との間に流れた風は…

女の姿の私との間にあったもの。


今の私はシリル。

ルシアン王子とミランダ姫を守る騎士。


どんな顔をして会おうが…関係ない。その動揺は必ずルシアン王子に気づかれる。


それは…


シリルとロザリーは同一人物とバレるということに繋がってゆく。


しっかりしろ!私!

大きく息を吸ってもう一度、「大丈夫!」と叫んで、小石を蹴り上げた。



小石は青い空に放物線を描き、

綺麗に刈り込まれたイヌツゲの垣根を越え…

淡いピンクの花をつけたチェリーツリーを超え…


ガシャ~ン!


と見事な音と立て、ルシアン王子の部屋へと飛び込んでいった。


「誰だ!ルシアン殿下のお部屋に向かって、石を投げたのは!」


その怒鳴り声に、思わず両膝を地面につくと、四つん這いになって植え込みに移動し


……口にした。


「…嘘…」



頭を振りながら、植え込みの隙間に隠れるように、両膝を抱えて体を小さくして……もう一度

「嘘~」


ルシアン王子の部屋から、聞こえる怒鳴り声に、抱え込んだ両膝に頭をつけ


「うぅっ~、わかっています。騎士なのに、窓ガラスを割って逃げるなんて最低だって…でも、出て行けないよ。こんな気持ちのままで行ったら、ボロがでそうなんだもん。だけど窓ガラスを割って逃げるとは…トホホ…カッコ悪。」


ルシアン王子と顔を合わせづらいからと、逃げてるなんて…私はなにやってんだか…


はぁ~と大きな溜め息を吐き出した時…


私の頭に温もりを感じ、そして……聞こえた。

「シリル。おまえはいったいなにをしている?」



ルシアン王子…


声に出ない。


私はあの時のように、赤い瞳に魅入られたように見つめると


赤い瞳の主君は、額に薄っすらと掻いた汗を、私の頭に置いていた左手を動かし拭うと、右手に持った剣を鞘に収められた。

「どうした?シリル?」


「ぁ…ぁ…今、そう今、殿下のお部屋に行く所だったんです!本日は私が殿下の警護に入るので…」


「ふ~ん。俺の警護をするのに…なぜこんなところにいるのだ?」


「いや…そ、それは…。」


「そう言えば…今、バートが叫んでいたな。」


「うっ…。」


「誰だ!ルシアン殿下のお部屋に向かって、石を投げたのは!…と」


「そ、そうみたいでしたね。」


「おまえか。」


「…そ、そうみたいです。」


「なにをやってるんだ?!」


「いや…その、小石をですね。コツンと蹴ったら…あのガシャンだったんです。す、すみません!!」


「…あの窓ガラスは…青味がかっていたんだ。」


「そうだったんですか…」


「…俺が生まれた時に、母と陛下が西の国から、わざわざ取り寄せたと聞いた。」


「あぁ…そんな貴重な…それも思い出が詰まった…も、もし訳ありません!」


「フッ…あはは…」


「殿下?!」


「良いさ。気にするな。それより、俺の剣の相手を頼む。どうせ…バートが、仁王立ちしている俺の部屋には、まだ行けないだろう?」



剣の相手…

ルシアン王子の…あの剣捌きを直に見れる?!

いや、それいじょうだ。剣を交えるなんて…


あの毒のせいで、ずっと横になっていたせいか、体が鈍っているんだ。シリル、剣の相手をしてくれるか?」


「いいんですか?!私で!」


「おまえだからだ。」


「わたしだから…?」


「エイブとやっていた遊びのようなものではない。お前の本気を見てみたいんだ。」



ゴクンと息を呑んだ。

本気でと言われた…と言うことは…ルシアン王子の本気も見れるということ。


「俺に本気で掛かって来い。」


「本気…」


「ビビるなよ。」


そう言って、ニヤリと笑われると…剣を肩に担がれ

「やるか?!」


「御意!」


そう言って、立ち上がった私の顔を見たルシアン王子は

「その面構え…肝が据わった良い表情だ。来い!シリル!」


「私は今や師でもある父より、剣の腕は数段上だと思っております。殿下…手加減は必要ですか?」


「まさか、俺に勝つつもりか?」


「御意。」


「楽しみだ。」



悩むことなどなかった。

今ルシアン王子の前にいる私は…ロザリーではない。


でも…

ホッとしたと同時に、少し寂しいと思ってしまい、胸が…小さく疼いた。


立ち止まって胸を押さえていた私に、ルシアン王子が振り返って

「どうした?」


「…いえ、武者震いが抑え切れなくて」


「口では負けそうだが…剣ではそうはいかないぞ。」


そう言って笑われたルシアン王子に、私も笑って返した。


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