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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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私は幸せ。

「ロザリー!」


「……ロザリー…」


異なるふたつの声に、ぼんやりしていた私はハッとして顔を上げると、視線の先に私を見つめる4つの眼があった。


私は慌てて周りを見渡しながら

「ぁ…ルシアン王子は…もう行かれたのですか?」


そう言った私を同じ青い瞳が、心配そうにその瞳を揺らせ…


私の心の奥底まで見えているかのような緑色の瞳は…

不思議そうに瞬きを繰り返すと


「なにがあったの?叔父様と心が通じ合ったんでしょう?なのに、叔父様もロザリーもどうしてそんなに元気がないの?」


「な、な、なにを仰っておいでですか?!ミランダ姫!ご冗談を…あはは…」


「…えっ?!叔父様はロザリーに好きって言わなかったの?!えぇぇっ!!」」


「す、好きだなんて…あ、あ、ありえません!!」」



そう、ありえない。ありえるわけない。

だけど一瞬、ほんの一瞬……

赤い瞳に囚われ、近づいてくる熱に、動けなくて


私は……

キスをされるのかと思った。



でもそんなことありえるはずはない。


ロザリーという立場で、殿下にお会いしてのは二度目、心が通じ合うほどの時間なんかないに等しい。そんな僅かな時間でどうしてありえるというの。


殿下が私のことを……なんてありえるはずがない。


それに…


ご結婚を控えていらっしゃるルシアン王子が、例え政略結婚であろうと、戯れに私のような女に手を伸ばし、お相手の女性や国を裏切られるはずはない。


そう考えれば…化粧が崩れて、目元が真っ黒になったんですかと…咄嗟に出た言葉だったけど…ハズレてはいなかったかもしれない。


そう…あれは…化粧が崩れた私の顔をびっくりして覗き込まれたんだ。


はぁ~

…少し…惨めだけど、それしか考えられない。


はぁ~

溜め息をついた私のあとを追うように、目の前のミランダ姫も大きく溜め息をつかれ


「叔父様って…」と言って、頭を抱えられたミランダ姫の声に被さる様に


「…好き?殿下が?」


ミランダ姫の後ろで、呆然とした顔のお父様が…何度も瞬きを繰り返し…

「…好き?殿下が?」とまた口にすると、頭を何度も横に振り、ミランダ姫を見て、私を見て


「…好き?」と語尾を上げて、張り付いた笑みを浮かべ、大きな声で笑い出したが…その笑い声にミランダ姫が


「あら?侯爵は気がつかなかったの?」


……お父様は笑い顔のまま…固まった。


そんなお父様にミランダ姫は畳み掛ける様に

「私はローラン国王が勧める方より、ロザリーが良いと思うの。ロザリーが叔父様と結婚するほうが絶対、叔父様もロザリーも幸せになるわ。侯爵もそう思うでしょう?!」


「…結婚」


お父様はそう言って、また固まった。


「えっと…ミランダ姫?」


「ロザリーも、ロザリーよ!」


「えっ?私?」


「そう、あの堅物で女心がわからない叔父様には、行動あるのみなのよ。キャロルも言ったわ、ニブイ男は押し倒せって!」


侍女のキャロルさん…あなたは良い方なんだと思います。

ミランダ姫があなたの言うことを信じていると言うことは…そうなのでしょう。


でも…少し…


「ミランダ姫。その情報は一旦、忘れてください。」


「どうして?!」


「その情報は…そ、その情報は…」


「古武術で勝負して、勝ったら恋人になるって…やっぱり難しい?叔父様も強いものね。」


「へっ?」


「ロザリーなら、勝てるかなぁと思ったんだけど…」



キャロルさん…あなたの教えは正確に伝わってはいないようです。


でも良かった。

幼いミランダ姫が、ふ、深い意味を知って言っているのかと…焦ったけど…良かった。


「…良かった。」


「なにが?」


「…ぁ…さ、さすがに、ルシアン王子には敵わないから、戦わなくて良かったと言ったんです。あははは…」


「あぁ、残念。押し倒せば…恋人になって、結婚できると思ったのに…」


私はそっと、ミランダ姫の前に跪き、つまらなそうに口を尖らせた顔に微笑み

「好きになるって、そういうことではないですよ、姫。」


「ロザリー?」


「恋は勝負して勝つとか負けるとかではないです。例え、姫の仰る通り勝負をして、そして勝ったとしても、心がないキスをされても悲しいだけ。お解りいただけますか、姫?」


「…うん。」


ミランダ姫は私の頬に手を伸ばされ…

「ロザリー。」と私の名前を呼ばれると、私の頬を何度も触りながら


「ロザリーのバカ。」


「…姫?」


「涙がいっぱいでてるのに…気がつかないの?」


「えっ?」


「そんなに、苦しいくらいロザリーは叔父様が好きなんでしょう。なのに…」



ルシアン王子に憧れていた。あの気高さに。そして剣の腕に。

それがいつのまにか…憧れが…


叶うことなどない。ううん、願うこともしようとは思わない。


だって私は…


『…俺は必ず、この国を守る。』


ルシアン王子のあの言葉に従うだけ、だって私は騎士だから…。

ルシアン王子とこの国を守るのが、騎士としての勤めだから…。


だから私は、シリルとして仕える。

この90日余りの日々はロザリーじゃない、シリルとして…。


私の頬を伝わる涙を拭う小さな手に触れ、顔を歪ませるミランダ姫に微笑みながら、視線をミランダ姫の後ろに移し


「姫がそんな爆弾発言を仰るから、お父様がまだ固まってますよ。」


「ロザリー…」


ミランダ姫は、私の首に腕を回して、大きな声で泣き出された。



私が…

可哀想だと…



私は、銀色の長い髪を撫でながら

「ミランダ姫、私は幸せです。姫がこうして私の事を慕ってくださるから、すごく幸せです。」


幸せ。

そうだ、私は幸せだ。


この手で好きな方達を守れるのだから。

この手で立ちふさがるものに、剣で戦う事ができるのだから。


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