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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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王子様は迷う。《2》

「ロザリー!」


疑念に揺れ動く俺の心に、ロザリーを呼ぶミランダの声が響き、揺れ動いていた心が、ピタリとその揺れを止めた。


「ロザリーと会ったばかりだろうに…これほど慕っているとは…なのに…俺は…」


ウィスレット侯爵に『ブラチフォード国を、そして私を裏切るのではないのなら、それ以上は言わなくても良い。』と言ったのに…何を動揺している。


もう少しで、あの時信じていると言った口で、俺は侯爵やロザリーを疑う言葉を吐くところだった。

冷静さを忘れて、上に立つものとして、やってはいけないことを…言ってはいけないことをやるところだった。


侯爵が、俺や国を裏切らないと信じているはずなのに…俺は…。

純粋にロザリーを慕うミランダの姿に、唇を噛み、そっと俺は眼を逸らした。



どうして疑う言葉を、口にしようとしたのだろう。

どうして冷静でいられないのだろう。


あの時、俺に言えない何かを隠す事への後ろめたさに、ウィンスレット侯爵の顔は僅かに歪んだが

『殿下の臣下でなくなりましても、殿下は生涯、私の大切な御方でございます。』と言った時には、あの眼は真摯な想いに溢れていた。


そして…


そんな侯爵の姿に、心を打たれたように、自然と騎士の誓いを口にしていたシリルの姿が…瞼の裏に焼きついたかのように、今もはっきりと見える。


あの時のシリルは、そして侯爵は、間違いなく俺に忠誠を誓ってくれた。あのふたりの姿には、嘘などなかった、だからどんな秘密であっても俺は、このふたりを信じた。


なのに、俺はどうして?

そっとロザリーへと眼をやった。


……嫌だったんだ。


もし、このロザリーの姿が、仮の姿で本当の姿が、シリルと言う少年だったら…嫌だったんだ。

シリルは賢く、腕も立つ、何より心根が真っ直ぐで、好ましい少年だ…だが少年なんだ。


何を思っている。


少年であろうが、女性であろうが、その人柄に拘れば良い事なのに、その性別に拘り…何処かで、双子であって欲しい、もし事情があって、双子でなかったとしたら、その性別は…女性であって欲しいと思う心が…ある。


俺は何を思っているのだ。


例え、双子であったも、

例え、仮の姿がロザリーという女性であっても、

関係ない。性別など関係ないはずなのに…。

国の為にその命をかけるど言ってくれているのに…俺は…。


双子だろうが…男だろうが…女であろうがどうでもいい。例えシリルとこのロザリーが同一人物だったとしてもきっと理由があるはずだ。いや性別などに拘るな。あの不思議な力に怯え、人が近づくことを拒むようになったミランダが…。何よりあんなに慕っているのなら、間違いない。信頼できる者だ。それだけでいい。それだけで…。


ミランダは人の心が色として見える。

俺のように感じるものではなく、視覚として見えるのだ。


ミランダがロザリーと言っているのなら、もう考えるな。


俺は、何処かしっかりこない想いに蓋をし、侯爵に…言った。

『侯爵、ロザリーとふたりだけで話しがしたいのだか、良いだろうか?その間、ミランダを頼む。』


今はただ話をしたい。あの時の礼を言いたい。



青いドレスを着て踊る天使が頭の中を過ぎったが…軽く頭を振って、俺はロザリーをもう一度見た。

(天使には性別はないそうだ。まさしく…天使だな。)



青く澄んだ瞳に一点の曇りは見えない。ロザリーの心の清さは…俺も色として見えるようだ。

(天使なら…俺の手など届くはずはないな。いや…俺はもう…なにも求める事はできなかったんだ。)



後ろから付いてくる、ヒールの音を聞きながら、俺はそう思っていた。


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