王子様は迷う。《1》
ミランダのように、人の心が色として見える事はできないが、剣の修行をした者なら、おそらく俺と同じように、人の気配を感じる事ができるだろう。
例えば…殺気とかだ。
この…感じる…というこの感覚を、人にどう説明したら良いのかわからないが、まず外れる事はない。
だが、シリルと同じ気配を感じるロザリーを前にして、俺は自分のその第六感のような感覚を初めて疑った。
双子だから同じなのか?
身近に双子がいた事がなかったから、確信が持てない。
だが、もし俺が感じる物が正しかったら…
シリルとロザリーは同一人物……。
確かに18歳の男にしては、あの細すぎる体は、寧ろ女性と言ったほうが納得できる。
だが…あり得ないだろう。
シリルは確かに小柄だが、
あの古武術の腕が、
あの剣の腕が、
果たして……女性にできるだろうか?
ぁ…そうだった。
ロザリーはいやシリルは、あの侯爵の子供だ。
女性だからというのは、理由にはならないかも知れない。
まさか…
一瞬、そう一瞬。
この国は男子しか跡を継げないから…
もしや…いや…まさか…
ウィンスレット侯爵家は武門の誉れ高き名家だ、だが、侯爵はその名家の名前に縋るような男ではない。真面目で、無骨で、どこか憎めない…そんな男が娘を息子にしてまで、侯爵家に縋るだろうか…。
なにより、人の心が色として見えるミランダが侯爵に懐いている。
確かに…エイブが次期ウィンスレット侯爵になるのは、不安ではあるが…そこまでするだろうか?
武門の誉れ高きウィンスレット侯爵家だ、ただ剣が握れるだけでは務まらない。どんな騎士よりも優秀で、そして勇気がないと、周りからは認められないだろう。
そんなことが女性にできるだろうか?
男らに混じって苦しい鍛錬をやるというそんな生活が、女性として耐えられるだろうか?
いや、それだけではない。男としてやってゆくなら、結婚は出来ない。
男として生きて行くのであれば、女性と結婚ということだ。
それでは…血を繋いでは行けない。
女を捨て、男として生きるとしても…ここまでだ、血をつないで行けないのなら、結局、ウィンスレット侯爵家は…エイブの血筋へと変わってゆく。
有り得ないだろう。
そこまでやる意味がない。
ロザリーには、何かあると思っていたが、だが…まさか…
眼の前に佇むロザリーへと視線を移し、彼女の姿を…
その真の姿を見るように、瞬きもせず俺は、彼女を、ロザリーを見ていた。
青い瞳…青いドレス。
『医者を呼ぶなと仰るのなら、殿下の右腕は、私に止血させてください。』
と言って、ドレスの左袖を引きちぎった姿が…
扉の近くで、ゆっくりと、あの青いドレスを細い肩から落としてゆき、扉に手を置き祈っているような姿が…
盾になる覚悟で、俺を守ろうとする青い瞳の少年と重なっていった。
双子なのか…本当に…?
それともお前は…
俺は一歩、ロザリーに近づいた。
後ろに控えるウィンスレット侯爵の心の乱れを感じる。
そして、ロザリーの揺れ動く心がわかる。
双子なのか?
それとも…お前はロザリーでもあり…そしてシリルでもあるのか?




