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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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ドナ.ドナ.ドナ?

わかっている。

国を、王家を欺いた罪は、何れ償わねばならないことは…

でも…まだ、知られたくない。


「まだ…」


そう小さな声で口にし、唇を噛み締めた時だった。

俯いた私を守ろうかとするかのように、背中に優しい…温もりを感じた。


それは…



「ロザリー!」

ミランダ姫が私の名前を呼んで、背中に抱きついてこられた温もりだった。


ルシアン王子は私とミランダ姫を見つめて、なにか呟かれると、後ろに控えていたお父様へと視線を向けられたが、迷うように赤い瞳が揺らして…まるで言葉を探しておいでのように見える。


そんなルシアン王子に、お父様は黙って頭を垂れ、次の言葉を待っていた。


お父様とて、カルヴィン・アストンがここにいる以上、真実は言えないだろうと私は思っていたが、でも…お父様のあのご様子は…



私はお父様を見た。

お父様も私を見られた。


微かにお父様が、頷かれたように見える。


あぁ…やっぱりお父様は…


ルシアン王子に…お父様はもう嘘をつきたくないから…

【シリルとロザリーは同一人物なのか?】とルシアン王子に問われたら、お父様は【はい。】と言われるおつもりだ。



「侯爵。」


ルシアン王子は、そうお父様に声をかけると、しばらくお父様を見つめていらしたが、その赤い瞳に迷う色は見えなかった。


お気持ちが決まったのだ。

私はゆっくりと眼を瞑ると、言葉を待った。



「侯爵、ロザリーとふたりだけで話しがしたいのだか、良いだろうか?その間、ミランダを頼む。」


一瞬、ルシアン王子の以外な言葉に、お父様が眼を見開かれたが、私をチラリと見て

「…御意。」



私に直接お聞きになられるおつもりなのだろうか。


ふたりだけになったら、ルシアン王子は黙って歩かれた。

私はその後を付いて行く。




その構図が…

こんな時なのに…な、なんだか、売られて行く子牛みたいに思えて、頭の中で…



♪かわいい子牛、売られて行くよ。悲しそうな瞳で見ているよ。ドナ ドナ ド~ナ ド~ナ~♪


そのメロディが頭の中で流れている。


苦しいことや、嫌な事があると…違う事を考えて逃げるのは…私のダメなところだ。何やってんだか…


はぁ~。



クスッ。



と笑う声が聞こえ、ハッとして顔を上げると…口元を押さえ笑いを噛み締めるルシアン王子がいた。


「…なんだ?その顔は…。まるで売られて行くみたいだな。」


当たりです。そんな気分です…と無理矢理口角を上げると、ルシアン王子は大声で笑いながら


「俺の腕を止血する為に、左袖を引きちぎった猛女とは思えないな。」


「も、も…猛女だと思っていらしたのですか?」


ハイヒールを放り投げ、裸足で殿下の部屋で踊っていた、頭のおかしな女だと思われているかも知れないとは、覚悟していたけど、プラス…猛女までついていたとは…最悪だ。


よほど、青ざめた顔だったのか、ルシアン王子が眉を八の字にして

「すまない。レディに…」


「いえ、いいんです。昔から言われていたので。」


「昔から?」


「…はい、剣の稽古の時に、お父様から…【淑女なぞ、目指すな!目指すなら、猛女となって、俺を打ち負かせ!】と」


「あはは…俺も昔、そんな熱い事を言われたな。【猛者となって、男の生き様をこの老いぼれに見せてくださいませ。】とな。」


お父様は…熱い。というより…暑苦しい。

いったい何を、ルシアン王子や私に求めているのやら…。はぁ~


情けない私の顔を見て、ルシアン王子は微笑まれ

「お前とシリル…そして俺は、そうか…兄弟弟子なんだな。」


そう言って、また笑われ…私をじっと見られると

「あの時…」


「はい?」


「朦朧とする中、やっと部屋に戻ったら…踊るお前がいた。青いドレスの裾を翻しながら踊る姿を見て…天使かと思った。」


「えっ?」


「でもまだ、死ぬわけにいかないから…。まだ、天使を迎えるのには、やるべき事があるから…焦った。それでお前に対して、いや…天からのお迎えに、反発するようなキツイ物言いになってしまい…本当に悪かった。命を助けてくれたのに、酷い言い方で…御礼も言えなかった。ずっと心に引っかかっていたんだ。」


「ルシアン殿下…。」


「ロザリー、あの時はありがとう。」


何度も頭を横に振った。

御礼なんて…言ってもらえるような人間じゃない、だって私はルシアン王子を騙しているだもん。なのに…御礼なんて…



ごめんなさい。


涙がどんどん溢れてきて、止まらなかった。

袖で何回も拭いたけど、止まらなくて…両手で顔を覆うとしたら…


親指と人差し指の付け根あたりに剣だこある、硬く大きな手が…




私の頬に触れ…涙を拭っていった。



「…ロザリー…」

小さな声で私の名前を呼んだ、ルシアン王子の赤い瞳が近くで見えた。


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