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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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ただいま私は、ど田舎に療養中と言うことになってます。

「…おまえは…誰だ?」


「ルシアン王子…。」


ふ、不審者と思われた?!

…だよね。私が警備していて裸足で踊る女を見たら、そりゃぁ思うもの。ここは正直に…迷子になってウロウロしていたら、迷い込みましたと言って頭を下げよう。


よし!

「殿下、申し訳あ…あぁあ!!」


ああぁ!!マズい!だってウィンスレット侯爵家のロザリーは、ただいま領地であるど田舎に療養中と言うことになっているのに…ど、ど、どうしよう。


「あ、あの…」と顔を上げた。


もうここは、ルシアン王子に不審者に思われないように、取り合えずにっこりと笑って、怪しくないオーラを出すしかない。


引きつるような私の微笑に、ルシアン王子は舌打ちをすると、大きく体をよろめかし、その拍子に握られていた手が私から外れた。


ルシアン王子はフッと口元を緩め、

「…部屋にも刺客を…放たれていたとは…」と言って、ガクンと倒れるように膝をつき、荒い息を吐きながら、座り込むと焦点が定まらないのか、赤い瞳を揺らしながら私を見上げた。


これは…いったい…


「殿下!どうなされたのですか?!」


「ハァハァ…おまえは…刺客では…ないのか?」


「刺客?わ、私が…?」


呆然とする私に殿下は顔を歪め、左手で口を押さえると、嘔吐を堪えるような仕草に、私はとっさに、ルシアン王子の背中を擦ろうとした。


「俺の後ろにくるな!!」


「殿下…?」


「俺は…ハァハァ…信用していない者は、男でも…女でも…自分の後ろには…やらん。」


国民の前に立った時、ほんの少し目元を和らげ微笑むあの姿だけが、ルシアン王子だとはさすがに思っていなかったけど…。


なんだか…胸が痛かった。

でもそんなことを考えている場合じゃない。


おそらく、これは毒を盛られたんだ。


「殿下、毒を盛られたのですか?すぐに医者を呼んで参ります!」


「医者は呼ぶな。毒に…対する耐性は…できている。だからよい。」


でも、このままでいいわけはない。どうしたらいいんだろう。

座り込み、荒い息を吐くルシアン王子を見つめ…ハッとした、毒だけじゃなかった。


ルシアン王子の右腕から、血が流れている。

この傷から見ると…細い剣…三角形の断面形状を持った片刃…レイピアだ。


「医者を呼ぶなと仰るのなら、殿下の右腕をせめて、私に止血させてください。」


私は青いドレスの左袖を引きちぎると、ルシアン王子の右腕を取った。

ルシアン王子の赤い瞳が大きく見開き、私を見ると、荒い息を吐く唇から戸惑ったように


「…ドレスを…」


「長袖だったので、これが一番かと…。ドレスの裾やシーツを引き裂くより、こちらのほうが丈夫です。」


左袖で、縛った右腕は止血したにも関わらず、じわじわと薄い青を赤く染めていった。

毒のせいなのだろうか、出血が止まらない。

このままではやっぱりだめだ、やっぱり医者に見せないと…。


「では、殿下が信用できる方を呼んで参ります。どなたを呼べばよろしいでしょうか?」


黙って私を見ていたルシアン王子だったが

「ではウィン…スレット侯爵を呼んでくれ。」


お父様を…?ええっ~?


「…ウィンスレット侯爵…様ですか?」


「あぁ…頼む。」


家では頼りないお父様だけど、何気にルシアン王子から信頼を得るほどのやり手?


いやいや…。


頭の中で、お母様に叱られるお父様が浮かび…薄く笑ってしまった。


まぁ、外ではできる男と思ってやろう。娘だもんね。


「わかりました。」

そう返事をして、立ち上がろうとした私の手を、ルシアン王子が荒い息を吐きながら掴んだ。


「君は……いったい…誰なんだ?」



また…ああぁぁぁ…また振り出しに戻ってしまった!


まさか、領地で療養しております、ウィンスレット侯爵の娘 ロザリーですが、少し気分が良かったので、200キロの道のりをやって参りました…って言う?

ないよなぁ…絶対ないよなぁ…これは。


あぁ背中に…汗が…。


200キロ先のウィンスレット侯爵の領地にいるはずの私が、ここにいてはマズい。下手をすると18年間、一人二役で男と女をやっていた事がバレる可能性も大。


いやそれだけではない。


『俺は…ハァハァ…信用していない者は、男でも…女でも…自分の後ろには…やらん。』

と言われていたルシアン王子から、信頼を得ているお父様が、裏で国の法律を破っていると告白するようなものだもん。そんなこと言えない~。


マズい、よりこれはマズくなった。


でもなにか言わないといけないと思って口を開いたが、言葉に出てこなくて、唇を噛んで俯いた私にルシアン王子の手が頬に触れた。


「…殿下?」


「…青い瞳なんだ…。」


「…えっ?」

ルシアン王子の大きな手が、私の頬を柔らかく包み、何度か撫でると、その手を私の仮面へと伸ばし


「…顔を見たい…おまえの顔を…」


赤い瞳が覗き込むように私を見ると、ルシアン王子の指が仮面に触れ…仮面が外された。


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