小さな温もり。
「叔父様!」
扉が開くと同時に、飛び込んだミランダ姫は、窓辺に立つルシアン殿下を見て、ポロポロと涙を零し
「ごめんなさい!私が見えなかったから…叔父様をこんな危ない目に…」
【私が見えなかったから…】
…えっ?……どういう意味?
一瞬、ルシアン王子と目があった気がしたが、その言葉と同時に…部屋の扉は閉まった。
扉の向こうで、ミランダ姫の泣き声と、ルシアン王子が宥める声が聞こえる。
私の聞き間違いだったのだろうか。
でも…
・
・
・
「よぉ!シリル。」
「……よぉ…エイブ。」
今日の警護はエイブ…か。
人がいろいろ考えているところに、またこいつだ。
だいたい、私に向かって刃物を振り上げたくせに、よく【よぉ!】だなんて、挨拶できるもんだ。
はぁ~ほんと、何を考えてるんだ…このバカは…
「シリル、おまえの勤務は明日だろう?今日は、俺とパートさんの勤務日なのに…なんでいるんだよ。」
「…おまえに言う必要はない。」
「なんだよ。また、裏でコソコソ何かやってんのか?」
「それはエイブ、おまえの方だろう?!」
「なんだと!コソコソやってるのは、おまえほうじゃん!今だってそうじゃないか、ミランダ姫と、どうやって知りあったんだ。あぁ、そうか、いつもの手を使ったんだな。その優男の顔を使って、女やガキをたらしこむのは、おまえの十八番だもんな。引きこもりの頭がおかしいガキなんか、簡単だったろう。」
こいつは、ほんとバカだ!
エイブの胸倉を掴み
「お前…、今何を言ったかわかっているのか!」
「な、なんだよ!女、子供をたらしこむと言うのは、本当の事じゃないか。偉そうに…俺に何が言いたいんだよ。」
バカだとは思っていたけど、ここまでとは…
「王太子様のご息女に対して、今…なんと言った!」
キョトンとしたエイブに、私は盛大なため息をつくと、エイブは復唱するように
「引きこもりで…頭が…ぁあ…」
ようやく、わかったのか、青くなった。
「さてさて、今の話をルシアン殿下がお聞きになったら…」
そう言って、エイブを見ると震え
「あ……言うのか?」
「ミランダ姫への侮辱を許すつもりはない!」
「お、おいシリル!お、俺、俺になにかあれば、縁戚の侯爵だって、無事ではすまないぞ。」
「お前と心中は嫌だが、お前をこのままにしていたら、ミランダ姫や国の為にならないのなら…お前を潰す。」
「シリル…!」
睨みあう私達のピーンと張り詰めた空気の中
カタン
小さな音が聞こえ、扉が開き、ミランダ姫おひとりが出て来られ、青い顔で私の手をしっかり握ると、エイブを睨みながら
「あなたは誰!」
まだ幼い少女のひと声だったが、やはり王家の血がそうさせるのだろうか、その声はまわりを服従させる鋭い声だった。
「…ミランダ姫…。」
「私はいいの!私は…他の人達から変わってると言われても…誰にもわかってもらえなくても!でも、シリルは違う。叔父様や国の為にシリルは本当はロザリー…ぁ…あぁぁ…」
途中で、言葉を止め俯かれたミランダ姫を、そっと抱きしめ耳元に
「ミランダ姫、大丈夫です。秘密を守ってくださってありがとうございます。」
「…シリル。」
エイブは、私を憎々しげに見ながら
「騙されてはいけません!どうせ、上手いことを言って、姫をルシアン殿下のもとに、お連れしたんでしょうが、信じてはいけません!」
・
・
・
ガタン!
「どうしたんだ?」
ミランダ姫とエイブの大きな声が聞こえたのだろう。
部屋から出て来られたルシアン王子は、ピーンと張り詰めた空気に、訝しげに眉を顰め
「シリル?」と私を呼ばれた。
落ち着けと自分自信に言い聞かせて、返事をしようとした時、私にミランダ姫の事を言われたくなかったエイブが
「殿下!シリルの行動は変だとお思いになりませんか?!この数日で、どうして、シリルがミランダ姫と親しくなったことといい、シリルの行動は怪しいです!」
私の左手に重なっていた、小さな温もりが震えだし
「シリルはあやしくない!だって、だってあなたと違って、シリルの色は凄く綺麗だもん!」
「…ミランダ姫…?!」
私を守ろうとして、言われたミランダ姫の言葉に、ルシアン王子は何も言わず、だだじっと私を見つめられた。




