本物のた・ら・し?!
ルシアン王子の顔が、風に煽られた黒髪で見えなくなっても、私の視線はそのままだった。
ぼんやりとルシアン王子を見つめる私の耳に
「ロザリー!」
ゲェ~!マズい!こんなところで叫ばないで!
「ミ・ミ・ミランダ姫!!それは秘密で!」
「うん、ロザリー、秘密ね!」
はぁ~だから秘密だってば…
「姫、私は弟のシリルです!さっきも言ったじゃないですか~!」
私の泣きそうな顔を見て、よりハイテンションになったミランダ姫は、私の腰の辺りに抱きつき、キャッキャッと声を立てて笑い
「でも、叔父様はいいんでしょう?」
「いや…その辺もちょっと…」
「あぁ!そうか!剣で叔父様を守りたいけど、女だから騎士にはなれない……ロザリーは健気なのね。任せて!!」
そう言って、ミランダ姫は難しい顔で宙を睨み、ぶつぶつとなにか言っていらっしゃるが…わかってくださってるんだろうか…不安だ。
やっぱりもう一度、言っておこう。
「あの…誰にも秘密でお願いします。」
「秘密!了解!」
ふ、不安だ!やっぱり不安だ。
「ミ、ミランダ姫!」と、私が叫んだと同時に、後ろから女性の声が…
「「シリル様!!」」
…ミランダ様付きの侍女の方達だ。
そうだよ。逃げるように出て来たから、ミランダ姫と私を追いかけて来られたんだ。
大丈夫かなぁ、ミランダ姫…。また大きな声で名前を呼ばれないだろうか。
とにかく取りあえず、にっこり…にっこり。
「すみません。お二人が一緒じゃないと、姫は外出できなかったんですね。」
「い、いえ…。シリル様は、ウィンスレット侯爵様のご嫡男ですから、心配などしておりませんでしたわ。ただ…急いでいらしたから、なにかお手伝いできたらと思って…」
「スザンヌは、シリル様が好きだもんね。」
「キャロルだって…そうじゃない。」
「……えっ?」
あはは…もう、笑うしかない。
初のナンパも…。初の告白も…。女性からだったとは…。
「…シリル。」
「…姫?」
ミランダ姫がムスッとして、私に両手を伸ばし、抱っこをせがんでいる?
「どうされたんですか、姫?」
「叔父様のところに…連れて行って」
おやおや…。なんだか3歳児らしくなっちゃって。
「御意。」
この少しピンクな雰囲気から抜け出したいし…良いチャンス!
私はミランダ姫を抱き上げ、
「申し訳ありません。姫をお待たせするわけには、まいりませんので、失礼します。」
「「あぁ…ですよね。すみません…。」」
私はにっこりと笑みを浮かべ、侍女達に頭を下げ歩き出した。
「ロザリーって…」
「なんですか?」
「…たらしなんだ。」
「た・ら・し?」
「女たらし。」
「はぁ~。まだ3歳なのにどこでそんなことを覚えてくるんですか?」
「もうすぐしたら、4歳だもん。」
「3歳であろうが、4歳であろうが、そんなくだらないことは覚えないでください。」
「くだらなくないもん。」
「くだらないです。」
覗き込むように、ミランダ姫を見つめると、ムッとした顔を横に向けられた。子供らしいその仕草が可愛くて、少しむくれた頬に手を当て
「お願いです。素敵なレディなって戴きたいのです。ですから、そんなくだらない話には、耳をかたむけられませんように。どうか私の願いをお聞きくださいませ。」
そう言って、優しく、すごく優しく微笑んだのに…。
「…無自覚女たらし。」
「…おませさん。」
そう言いかえすと、ますます頬を膨らませ拗ねられた。それも可愛くて、膨らんだの頬を指で突くと、姫は突ついた私の指を口で追い、その指をパクンと咥えられた。
「へっ?」
ミランダ姫がにっこり笑って…ガブリ!
「ギャッ~!」
可愛いと思っていたのに…や、やられた。
私の叫び声に満足されたミランダ姫の唇は、私の指をすぐに解放され、そっと私の頬に唇を寄せられた。
「姫…。姫の方が【たらし】です。」
ミランダ姫は、クスクスと笑いながら
「侯爵がね。」
「私の父ですか?」
「うん、本当の【たらし】は…」
と言われ、顔をそして指を向けられた、その先には…
黒髪をかきあげ…
赤い瞳を細め…
口元を綻ばせた方がいた。
「…でしょう?」
眼が離せなかった。
ドキン…と、胸が大きく音を立てて、心臓がまるで、駆け出したかのように、ドキドキと早く打ち出した。
「…本物には…敵いませんね。」
私の呟きに、ミランダ姫は大きな声で笑っていた。




