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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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王子様の心《欠片》

幼子の声と、柔らかい女性の声が聞こえた気がして俺は…眼を開けた。


また…眠っていたのか…時間がないのに、俺の体力はまだ戻らない。

ベットの背にもたれ、傍らに置いていたシャツを手にすると、大きな溜め息がでた。


こんなにベットにいたのは…あれ以来。

母が殺され、そして…秘密の欠片を見たあの日以来だ。


*****


5歳の頃、俺と母を切ったあの男は、俺の背中を触り、べっとりと手についた血を見つめながら


「おまえも、俺も…あの男の血が流れているのに…。お前は化け物の血は受け継がなかったのか?!なんだよ!!くそっ!化け物の血をしっかり受け継いだのは俺だけかよ。」


だんだんと意識が遠ざかる中、男はクスリと笑い

「…運がいいよな。お前には出なかったんだ。あの血が…お前にもあの血が流れていると思っていたから…いつか誰かに俺のことを言って、俺を殺してくれると思っていたのに…残念。」



意味の解からない言葉を残し男は、2ヵ月後、処刑台へと上っていった。




《化け物の血。》


《でも、お前には出なかったんだ。あの血が…》


《あの血が流れていると思っていたから…俺を殺してくれると思っていたのに…。》



耳に残る母の悲鳴と男の嘲笑う声から、ようやく抜け出した頃には、男が言っていた言葉は、いつしか欠片になり……忘れてしまった。いや、思い出す事を心が拒み、鍵をかけ、俺に思い出させないようにしていた。



だが、その言葉を思い出す切っ掛けが、一年前…3歳になったばかりのミランダのひとことから、それは始まった。



「あの騎士のおじさんは…まっくろでドロドロしてて…こわい。」



その騎士は長い間、俺に仕えていた騎士のひとりだった。温厚でその人柄を現すような笑顔で、多くの仲間から慕われるような男だったが、ミランダは初めて、その男に会った時、異常に怯え、その様子に俺が…どうしたのかと聞くと…


「あの騎士のおじさんは…まっくろでドロドロしてて…こわい。」


俺はそのときは、ただ困惑していたが、ミランダの言葉を聞いた一ヵ月後。


人を切ったところを、町の子供ら数人に見られたことで、その男の所業が次々と明るみに出てきた。男は裏社会で、金の為に人を殺す仕事を……やっていた。



「人は見かけによらないなぁ。」


「俺、あんなに面倒見の良い人が…そんなことをやっていたなんて、今でも信じられないよ。」


誰もが…そして俺も、その男の所業は誰かに、嵌められたのではないかと思うほど信じていた。

いや、誰もが…じゃない。たったひとり、その男を異常なほど、怯えていたミランダ除いてだ。


その後も、ミランダが怯えたり、顔を歪ませる人物の裏は…最低な人間ばかりだったが、だが俺の中では、その事実とミランダが言うことが、繋がっているとは思わなかった。


だが…ある日、ミランダが侍女のひとりに

「寄らないで!私の側に寄らないで!」と叫び、手に持っていたカップを投げつけたことがあった。泣き叫ぶミランダを抱きしめ、落ち着かせたが…


ミランダはいつまでもその侍女を睨んでいた。


その後、わかったことだが…。

その侍女は夫以外の男に、思いを募らせ…その思いは子供さえいなければ、男のもとへ行けると、愚かな考えへと変わって行き、2人の子供を手にかけていた。



「ミランダ。あの侍女が…いや…人は嫌いか?」


「ううん、叔父様と侯爵は大好き。だって、キレイなんだもん。」


「綺麗?」


「うん、叔父様は透き通るような青い湖と同じだから…。侯爵はピンクや黄色で柔らかい色だから…。」


「ミランダ…よくわからないんだ。昔…『あの騎士のおじさんは…まっくろでドロドロしてて…こわい。』って言っていたことを覚えているか?」


「おぼえてる。真っ黒な何かかがドロドロと溢れていて…そういう人はみんなこわい人なの。お爺様がそう教えてくださったの。あの…侍女もそう…真っ黒な何かかがドロドロと溢れていて、そのドロドロが私に向かってきたの。」





言葉の欠片が……繋がっていく。


《化け物の血。》


《でも、お前には出なかったんだ。あの血が…》


《あの血が流れていると思っていたから…俺を殺してくれると思っていたのに…。》



まさか…父上は…


人の心が見える?色となって見える?


そして…それはミランダに……受け継がれた?



遠ざかる意識の中で、ぼんやり聞いた声が、今はっきりと聞こえた。



《おまえも、俺も…あの男の血が流れているのに…。お前は化け物の血は受け継がなかったのか?!なんだよ!!くそっ!化け物の血をしっかり受け継いだのは俺だけかよ。》


《…運がいいよな。お前には出なかったんだ。あの血が…お前にもあの血が流れていると思っていたから…いつか誰かに俺のことを言って、俺を殺してくれると思っていたのに…残念。》


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