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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん
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騎士に必要なものは…

えっ?嘘…もう終わり?


何度、眼を擦って見ても…

私に喧嘩を吹っ掛けたエイブと、あとの2人は転がっていた。


いや…まだでしょう?!

私は欅の根元で、倒れているエイブを爪先で、ぽんぽんと蹴って見た…。


真っ赤な顔で睨みながら

「お、俺は、いずれお前の兄になるんだぞ。体が弱いお前の代わりに、俺があのブスのロザリーを嫁にして、侯爵家を継ぐ男なんだぞ。」



…まだ言ってる。

もう一回、蹴っておこうかな。


私のただならぬ雰囲気に、ようやく気が付いたのかエイブは、慌てて

「おまえ…騎士のくせに、恥ずかしくないのか!すでに戦闘不能の俺をいたぶって!」


いやいや…3人でひとりを襲うあんたらのほうが、恥ずかしくないの?

…と言いたかったが、バカバカしくて…でも取り合えず言った。


「バカ」


「なんだと!」


エイブの怒鳴る声を背中に聞きながら、歩き出すと…感じた。エイブの殺気を…


そうこなくちゃ!


後ろから、私の心臓でも狙ってきたのか、短剣を突き刺そうとしたエイブの右手を脇で挟み、手首を捻り、短剣を落とし、左肘でエイブの顔面を弾き飛ばすと、エイブはヒィ~と叫びながら座り込んだ。


ほんと…バカ。

えっ?

これは…

「エイブ!伏せろ!」そう言って、私はエイブを突き飛ばすと、短剣が私の左腕を掠って、欅に突き刺さった。


起き上がろうとするエイブを踏みつけ、

「いいか…動くな。」


と言って、私だけゆっくり立ち上がると、ナイフが飛んできた方向に向かって、

「…どういうつもりだ!」


私の問う声に、答える声はなかった。

だが…まだいる。まだ殺気がある。


「殺気立った気配を漂わせて…知らん振りはないだろう?!」




小さな笑い声が聞こえ、男が現れた。


栗色の髪を撫で付けたその男は、

「お前が止めを刺さないから、俺が変わりにやろうとしたまでだ。そう、いきり立つな。」


「ふざけるな!」


「いや…ふざけてなどいない。後ろから短剣で襲ってきたんだ、そんな卑怯者、死んで当たり前だ。」


「あんただって、わかっていたはずだ。エイブの腕で、私がやられるはずがないことを…」


「あぁ、お前のほうが、上だってことはわかったさ。だが…」


「だが…なんだ。」


「お前は、人を殺ったことはないだろう?。」


「えっ…?」


「俺は、何度も見た。躊躇した為に反対に殺られたところをな。」


わかっている。でも…私は…


俯いた私にその男は、クスクスと笑うと

「確かに良い腕をしているが…人を殺す事ができない騎士では、主は守れないぞ。」

と言って、大声で笑いだし


「あぁ…そうだったな。お前が仕えるルシアン王子も甘いお方だったよな。命を狙われているとわかっているのに…姪の姫様からの酒を簡単に飲み干すところなんざ、お前と同じだ。せいぜい…気をつけることだ。」


そう言って、けだるそうに欠伸をすると、その男は歩き出した。


いざと言う時、私は人を殺めることが出来るか、まだ…答えをだせない。

甘い…そう言われても、しょうがない。


でも…


ひとつだけ、あの男が言ったことは違うと思う。


「ルシアン王子は…」


私の声に…男が振り返った。


「騎士はあなたの言われるとおりだろう。主の為に、国の為に、剣を使い、立ちふさがる者を切る。だが、上に立つ方はそれだけでは…人の心を掌握し、国をまとめ、導く事などできない。優しい心がないと……人は付いては来ない。」


「ルシアン王子が…そうだと言うのか?」


「あの方は、上に立つ方が持たねばならない、冷静さ、厳しさ、そして優しさを持っていらっしゃる。」


「フッ…やっぱり甘いな。だが…聞いておこう。名を何と言う。」


「シリル…。シリル・クラレンス・ウィンスレット」


「侯爵の…嫡男殿か…俺はカルヴィン・アストン。」


じっと見られ、恐かった。でも、その視線を外す事はしたくなかった。


「侯爵の坊ちゃんにしちゃ、いい目だ。気に入った。だが…俺はやれねばならないときは、お前でも切る。」


そう言って、歩き出した男の背中を見ながら、私は…


「カルヴィン・アストン…。」

と、その名を口にし、唇を噛んだ。

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