2日目⑤
「あの後、俺は町のみんなを弔ってもらいたくて、50キロほど離れた村の教会に行ったんだ。生きていても苦しく悲しい日々だった女達の最後ぐらいは、牧師の祈りで締めくくってあげたくな。
牧師は良い人だったよ。みんなを弔い、そして…俺とジャスミンを教会で育ててくれた。きっとあの事がなければ、教会での日々は幸せだと感じていたと思う。だが心の中に開いた穴は、何年たってもふさがらず、王が変わっても、穴からはいつも血が流れ、痛くて堪らなかった。でも2年前だ…俺のところに、あの方が現れたんだ。」
あの方…?
「あの方は…俺を見て涙を零してくださり、こう仰った。
15年前、ロイを助けた私は、ロイからおまえともうひとり、まだあの町にいるから、助けてくれと。だが私があの町に戻った頃にはもうすでにおまえはいなかった。長い間探していた…辛かっただろう。すまない。ロイが待っている。一緒に行こう…と。」
ナダルの話し方から、恐らく【あの方】とは貴族。いや王族かもしれない。
この町がなんだったのか、そしてナダルやロイが先々代の落胤と知っているということは、先々代に近い王族か?!
「誰ですか?!ナダルがあの方と呼ぶ人物は」
私のキツイ物言いに、ナダルは…
「悪い、あの方の名前は言えない。」
「私が信じられないからですか?」
「そういうんじゃない。約束なんだ。事が成就するまでは、自分のことは公にしないでくれと言われているんだ。」
事が成就?
「事…ってなんですか?」
そう口にしながら、答えはわかっていた。おそらくそいつは…
ナダルはクスリと笑うと
「次のローラン王を…ロイにするということだ。」
息を吐いた。
やっぱりか…。
「赤い瞳を持つことが、王家の人間と認められるのなら、ロイもローラン国の王となる資格がある。ブラチフォード国から、わざわざルシアンを呼ぶことなんか必要ない。」
確かに…ブラチフォード国から次の王を呼ぶ必要はないだろう。
スミラ様を思うあまり、心も体も捨て魔物になってしまった先代ローラン王には、子供はいないのだから、数十人いると言われている、先代ローラン王の兄弟から選ぶというのは正論だ。
だがあらゆる悪に手を染め、国よりも自分の利権を欲するような王族しかいないから、ルシアン殿下はこの国の重鎮達に懇願され来たのだ。
まともな王族が残っているのなら、ルシアン殿下もこの国に出張るつもりはなかったはずだ。
「なら、なぜ声を上げない。わざわざルシアン殿下を呼ぶことなど必要ないと、今みたいに堂々と声を上げないんだ。ルシアン殿下、ウィンスレット侯爵のふたりを殺るより、そう声を上げたほうが簡単だと思うが…。」
ナダルは口元を歪め
「そうするつもりだったさ。だが俺達の動きを知ったルシアンは…ロイを殺そうとしたんだ。」
「殺そうとした?」
「あぁ!ロイをこっそりと始末しようとして、ロイが住んでいた屋敷に火を放ったんだ!深夜だったために、逃げ遅れたロイは、それで顔に大きな火傷を負い、気道内の熱傷で声を失ってしまった!」
「火を…放った?!」
有り得ない。
ルシアン殿下がそんな卑怯なことをされるはずはない。
屋敷ならば多くの人もいたはず、そんなところを、ましてや深夜に、火を放つなど絶対に有り得ない。
「…まさか…そんなこと…」
「剣を極めた者がそんなことをするはずはないと、思っているんだろうが、ロイにはあの方が付いていたから、ルシアンは怖かったんだ。だから自分が手を下したことがわからないように、事故でロイを殺そうとしたんだ。」
まただ…。
あの方とは一体誰なんだ。
王族には間違いないだろうが、思いつかない。
厳しい表情のナダルの顔を見た。
ジャスミンやロイを大事に思う優しい心と…底知れぬ闇を持つ男。
この男が纏う色はなんだろうと思った。
もし、ミランダ姫がナダルを見たら、なんとおっしゃるだろうか。
厳しい表情だったナダルが、突然口元に笑みを浮かべ、
「参ったぜ。」と口にし微笑むと
「ここまで話すつもりはなかったのに、おまえといると、まだ素直だった頃のガキに戻ってしまったみたいだぜ。」
そう言って、大きなため息をつき
「おまえが女だったら、惚れていたのに…残念。」
「いや…私が女であっても、遠慮します。」
「なんだよ!その言い方は…私が女であっても遠慮しますって。…でも…男でもおまえぐらい、綺麗な顔ならいいかもな?試しにキスでもしてみるか?!」
ナダルが満面の笑顔でそう言った。
涙を零し、色々と話してしまったことが恥ずかしくて…それを誤魔化そうとしているんだな。
だから私を見るナダルの顔には、イロを感じない。
ナダルが子供みたいに笑うから、私も釣られて笑ったら…
ガタン!!
大きな音を立てて扉が開き、ロイが飛び込んできた。
「おい、どうしたんだ?ロイ」
ナダルの問いかけに、ロイは頭を僅かに横に振ると、私とナダルをじっと見ているようだったが、また頭を横に振ると、踵を返し部屋を出て行った。
茫然とロイが出て行った扉を見つめていたナダルが
「なんだ?あいつ…。」と呟く声に私も頷いた。
一体…なんだったんだろう。




