2日目③
まだ、日が暮れたばかりなのに、ナダルはお酒の匂いをさせて、部屋にやって来た。
「ロイは…?やっぱりいなのか。まぁ、聞きたくないよな。俺だって酒を飲まないと、話せやしないからな。」
そう言ってナダルはふらつきながら、窓際のロイのベットへと座り込んだ。
「水を持ってきましょうか?」
「いや…それほど酔っちゃいない。」
「いや、酔ってます。」
「まったく…うるせぇ、ガキだぜ。」
ナダルは苦笑しながら、ゴロンと横になり、目を瞑った。
えっ?!ね、寝るの?まさかここで?!堪忍してよ。
慌てて、ナダルの肩を揺すろうとしたが、その手をナダルの手が握り、ゆっくり目を開き…言った。
「なぁ…なんでその女が好きなんだ?」
「はぁ?女…?」
「あの刺繍が下手な女だよ。」
ナダルの手を振りほどき
「あぁ…ロザリーですか。」
ムッとした声で答えた私に、ナダルは笑ったが、その笑いに少し温かみを感じ、私は目を見開いた。
「ルチアーノ。恋ってなんだ?好きになるってなんだ?」
「…えっ?」
突然の問いに、私の目はより大きく見開いていたのだろう、ナダルは私の額を指で弾くと
「なんだ。その顔は!」
「…いや突然、乙女チックなことがナダルの口から出てくるものですから…そりゃぁ驚きます。」
「おまえ、失礼な奴だな。」
そう言って、大笑いすると私の顔をじっと見つめ
「ここは…」
「この町のことですか?」
ナダルは頷き
「地図にも載っていない町、いや、載せられない町だ。」
「王家が…絡んでいるんですね。」
「察しがいいな。」
「何を隠すために作られたのですか?」
「…人だ。」
「それは…王家の血筋なのに、王宮に入る事ができない王子や姫を隠すために作られたということですか?」
ナダルはベットから起き上がると
「とんでもない国だよな。先代のローラン王は化け物で、その父親の先々代はイロに狂った野郎。
だが化け物だった先代はまだよかった。国をここまで大きくし、豊かにした。
化け物でも…俺は王としては最高だったと思うぜ。
だが、イロに狂った先々代のローラン王は糞だ!
王宮内でもあれほどの愛妾がいるのに、気に入った女がいたら、それが例え人妻でも手を付けるバカな王。」
王宮内でも愛妾や、その子供がたくさんいらしたと聞いている。
だから、前のローラン王はスミラ様を妹だと知らずに…愛してしまうという悲劇があった。
王宮内だけではなかったんだ。
悲しみや苦しみを味わった人達は…。
「では…ロイはやはりローラン王家の人間。」
「あぁ…王子といっても、町という名の牢屋に閉じ込められた王子様だ。だがあいつの悲劇はそれだけじゃない。
あの瞳だ。王との間にできた子供がすべてあの瞳を持つことはない、まぁ当たり前だよな。母親の遺伝を引き継げば、父親が赤い瞳であっても…同じ赤い瞳にならない。自然の摂理だ。
可笑しいよな。王の子供でありながら、王家の血を表すあの瞳の色を持たなかったために、王宮に迎え入れられなかった王子や、王女の為に町を一つ作るなって、狂ってるぜ。
フッ…すまない。
おまえが言う通り、酔っているんだろうか。話が逸れたな。
ロイは…生まれた時は瞳の色は、赤というより茶に見えたそうだ。それでここに連れてこられた。だが大きくなるにつれ、瞳は赤くなってきたんだ。
ロイの母親は狂気乱舞だった。あの瞳で自分も王宮に戻れると思ったんだろう、だが、同じ境遇だと思っていた女達や、その子供らの心に、ロイ達への憎しみを生まれ…そして悲劇は始まった。」
始まった…?
そうだ…。その話だけではなぜルシアン王子を殺そうとするのかわからない。
まだ…根が深いんだ。
王宮に迎え入れる事ができない女達と子供を閉じ込めた町。いかにも…ドロドロとした怨念が詰まった町だ。
…ぁ…?!
王宮に迎え入れる事ができない女達と子供を閉じ込めた町…?!
じゃぁ、幼馴染と言っていたこの男は…ナダルは…どこで王の子であるロイと知り合った?!
まさか…
「…ナダル。あなたは…」
「遅せぇぞ、ルチアーノ。俺様が丁寧に話してやってんのに、今気づいたのかよ。それとも俺があまりにも品がないから先々代の王の子…王子様だと思わなかったか?」
そう言ってニヤリと笑ったナダルに、なぜだか背筋が震えた。




