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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん


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2日目②

…息が止まるかと思った。




「こいつ、火事で顔と喉をやられて以来、こんな鉄仮面をつけてるんだ。なぁ、やっぱりビビったろう?初めてこいつを見た奴は、大概そんな顔をするもんな。」




…違う。


仮面じゃない。息が止まりそうに驚いたのは瞳。

ローラン国の王家に血を引く方にしか現れない赤い瞳。

そして…その名前。



でもナダルは昨日、私にこう言った。

『おまえの相方は、明日には帰ってくるから、そのときに紹介しよう。俺の幼馴染だ。ちょっと…いや、すげぇ、変わっているからビビんなよ。』


あの話が本当なら、ここにいるのはルシアン殿下ではない。


でも…あの体格。黒髪…そして王家に血を引く赤い瞳。

そして、この隙のない動き。



いったい…誰だ?



鉄仮面の男から視線が離せない私に


「ルチアーノ?ふ~ん、おまえが驚いているのはこの鉄仮面じゃないようだな。知ってんだ。この瞳が何を意味するのか」


「…ナダルが言っていたように、私は良いところのボンボンですから、父上から聞いています。」


ナダルへ視線を移し


「ルシアン殿下を狙う我々の中に、ローラン王家の血を引く方がいるは…どういうことでしょうか?!」



ナダルは大きな声で笑いながら

「なんだよ、そのキツイ目は…カリカリするなよ。」


「ナダル!答えてください。なぜ、ルシアン殿下を狙う我々の中に、ローラン王家の血を引く方がいるのですか?!」


私は腰のレイピアに手をかけ

「私もそれなりの覚悟で入ったのです。こんな重要なことを話してくれないのなら、ここを出て行きます。」


「別に隠そうとはしてないさ。まぁ落ち着け。その話はこんな場所で話せることじゃない。今夜でも遅くないだろう。」


「今夜…ですか?」

そう言った私の顔が不満そうに見えたのだろう、ナダルは苦笑しながら


「なんか意外だぜ。結構冷めたガキだと思っていたんだが、顔に出るほどイラつくような奴とは思わなかったな。」



…ぁ…つい…


しまった。ナダルは不信に思っただろうか…?。



青褪める私に

「いや、おまえは熱いところがあったな。なんたって、ロザリーだったか?あの下手糞な刺繍をおまえに持たせる女は…。それを大事に抱え、その女の為に金を稼ごうとしている、熱い男だったことをつい忘れていたぜ。」



…刺繍の話は…


今度は顔が赤くなってゆくのを感じた。




「…やめてください。」


小さな声で俯いた私に、ナダルは大きな声で笑い

「なんだ。照れてんのか?おまえ、どんだけロザリーに惚れてんだ?!」


「だから!もうやめてください!」


「面白れぇ。ヒヤリとするような瞳で剣を振ったガキでも、恋をすれば年相応の純な反応をするんだ。」


もう、ここにはいられなかった。

「ロイを!ロイを部屋に案内してきます!」


私はそう叫び、ロイの手を握ると歩き出したが、後ろでナダルの笑う声が聞こえ、私は振り返り

「今夜!いいですか、今夜必ず聞かせてもらいますから!」


ナダルは返事の代わりに、笑い声をより大きくした。








はぁ~大きなため息をつき、ベットに座り込んだ。

揶揄われ、笑われるくらいはマシだったのかもしれない。気を付けないと、正体がバレたら…。



俯いた私の目に、大きな靴が目に入った。


あっ?!忘れていた。



「すみません。ベットは昨夜私がこっちを使っていたので、あなたは窓側でいいですか?」


ロイという男は頷き、窓側のベットに荷物を置くと、ポケットからメモを出し


《俺は早朝から夕方まで、部屋には戻らないから、おまえがいい様にこの部屋を使ってくれ。》


「えっ?」


《仮面を外した顔を見られるのが嫌なんだ。だから風呂もおまえが眠った頃に入る。》



そうしてもらえると助かるけど…


私はロイという名の男の赤い瞳を見た。


ロイは視線を外し、何か書いたが、丸めてポケットに入れ、あらためて書き直すと私に差し出してきた。


《ロイ》


「私はルチアーノ。よろしく」


ロイは軽く手を挙げると、部屋を出て行った。



えっと…なんか、そっけない。

まぁ、【ルシアン殿下を狙う我々の中に、ローラン王家の血を引く方がいるは…どういうことでしょうか?!】なんて、ロイを否定するようなことを言った私と、親しくしたいとは思わないか…。


ロイが出て行った扉を見つめ、ため息をついた。

ロイ…か、その名前はレックス(Rex)の愛称だ。珍しい名前ではない。よくある名前だ。


だから…前世のルシアン殿下と同じ名前だからと、気にすることはないだろう。


だけどあの瞳は…

あの瞳は間違いなくローラン王家の血筋の方だ。


それがなぜ、ナダルと幼馴染なんだろう。

なぜ、ルシアン殿下を狙う輩と一緒なんだろう。



一瞬、私と同じように、潜り込んでいる方なのではと思ったが、あの様子だと違う。



違うのなら…何れ、戦うかもしれない。



その時私は…無傷でいられないだろうな。



私は枕を抱き、ベットに転がり、薄汚れた天井を見た。

「結婚式…したかったな。」


そう口にしたら、薄汚れた天井がぼやけ始め、思わず枕を顔に当てた。

これ以上涙を零すと、ルシアン殿下が恋しくなりそうだったから…。









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