2日目②
…息が止まるかと思った。
「こいつ、火事で顔と喉をやられて以来、こんな鉄仮面をつけてるんだ。なぁ、やっぱりビビったろう?初めてこいつを見た奴は、大概そんな顔をするもんな。」
…違う。
仮面じゃない。息が止まりそうに驚いたのは瞳。
ローラン国の王家に血を引く方にしか現れない赤い瞳。
そして…その名前。
でもナダルは昨日、私にこう言った。
『おまえの相方は、明日には帰ってくるから、そのときに紹介しよう。俺の幼馴染だ。ちょっと…いや、すげぇ、変わっているからビビんなよ。』
あの話が本当なら、ここにいるのはルシアン殿下ではない。
でも…あの体格。黒髪…そして王家に血を引く赤い瞳。
そして、この隙のない動き。
いったい…誰だ?
鉄仮面の男から視線が離せない私に
「ルチアーノ?ふ~ん、おまえが驚いているのはこの鉄仮面じゃないようだな。知ってんだ。この瞳が何を意味するのか」
「…ナダルが言っていたように、私は良いところのボンボンですから、父上から聞いています。」
ナダルへ視線を移し
「ルシアン殿下を狙う我々の中に、ローラン王家の血を引く方がいるは…どういうことでしょうか?!」
ナダルは大きな声で笑いながら
「なんだよ、そのキツイ目は…カリカリするなよ。」
「ナダル!答えてください。なぜ、ルシアン殿下を狙う我々の中に、ローラン王家の血を引く方がいるのですか?!」
私は腰のレイピアに手をかけ
「私もそれなりの覚悟で入ったのです。こんな重要なことを話してくれないのなら、ここを出て行きます。」
「別に隠そうとはしてないさ。まぁ落ち着け。その話はこんな場所で話せることじゃない。今夜でも遅くないだろう。」
「今夜…ですか?」
そう言った私の顔が不満そうに見えたのだろう、ナダルは苦笑しながら
「なんか意外だぜ。結構冷めたガキだと思っていたんだが、顔に出るほどイラつくような奴とは思わなかったな。」
…ぁ…つい…
しまった。ナダルは不信に思っただろうか…?。
青褪める私に
「いや、おまえは熱いところがあったな。なんたって、ロザリーだったか?あの下手糞な刺繍をおまえに持たせる女は…。それを大事に抱え、その女の為に金を稼ごうとしている、熱い男だったことをつい忘れていたぜ。」
…刺繍の話は…
今度は顔が赤くなってゆくのを感じた。
「…やめてください。」
小さな声で俯いた私に、ナダルは大きな声で笑い
「なんだ。照れてんのか?おまえ、どんだけロザリーに惚れてんだ?!」
「だから!もうやめてください!」
「面白れぇ。ヒヤリとするような瞳で剣を振ったガキでも、恋をすれば年相応の純な反応をするんだ。」
もう、ここにはいられなかった。
「ロイを!ロイを部屋に案内してきます!」
私はそう叫び、ロイの手を握ると歩き出したが、後ろでナダルの笑う声が聞こえ、私は振り返り
「今夜!いいですか、今夜必ず聞かせてもらいますから!」
ナダルは返事の代わりに、笑い声をより大きくした。
はぁ~大きなため息をつき、ベットに座り込んだ。
揶揄われ、笑われるくらいはマシだったのかもしれない。気を付けないと、正体がバレたら…。
俯いた私の目に、大きな靴が目に入った。
あっ?!忘れていた。
「すみません。ベットは昨夜私がこっちを使っていたので、あなたは窓側でいいですか?」
ロイという男は頷き、窓側のベットに荷物を置くと、ポケットからメモを出し
《俺は早朝から夕方まで、部屋には戻らないから、おまえがいい様にこの部屋を使ってくれ。》
「えっ?」
《仮面を外した顔を見られるのが嫌なんだ。だから風呂もおまえが眠った頃に入る。》
そうしてもらえると助かるけど…
私はロイという名の男の赤い瞳を見た。
ロイは視線を外し、何か書いたが、丸めてポケットに入れ、あらためて書き直すと私に差し出してきた。
《ロイ》
「私はルチアーノ。よろしく」
ロイは軽く手を挙げると、部屋を出て行った。
えっと…なんか、そっけない。
まぁ、【ルシアン殿下を狙う我々の中に、ローラン王家の血を引く方がいるは…どういうことでしょうか?!】なんて、ロイを否定するようなことを言った私と、親しくしたいとは思わないか…。
ロイが出て行った扉を見つめ、ため息をついた。
ロイ…か、その名前はレックス(Rex)の愛称だ。珍しい名前ではない。よくある名前だ。
だから…前世のルシアン殿下と同じ名前だからと、気にすることはないだろう。
だけどあの瞳は…
あの瞳は間違いなくローラン王家の血筋の方だ。
それがなぜ、ナダルと幼馴染なんだろう。
なぜ、ルシアン殿下を狙う輩と一緒なんだろう。
一瞬、私と同じように、潜り込んでいる方なのではと思ったが、あの様子だと違う。
違うのなら…何れ、戦うかもしれない。
その時私は…無傷でいられないだろうな。
私は枕を抱き、ベットに転がり、薄汚れた天井を見た。
「結婚式…したかったな。」
そう口にしたら、薄汚れた天井がぼやけ始め、思わず枕を顔に当てた。
これ以上涙を零すと、ルシアン殿下が恋しくなりそうだったから…。




