2日目①
昨日のことを思い出すと、眠れないまま夜が明けてしまった。
あのフレッドという男は、王宮に駆け込んだろうか…?
レイピアでフレッドのシャツを裂いた。
「わぁ~!!た…すけてくれ。なんでも、なんでもするから…助けてくれ…。」
「なんでもすると…言ったな。その言葉、本気か?」
「…それって…」
「シッ!声が大きい。外に聞こえるぞ。いいか、一度しか言わない。」
裂いたシャツで男の手を止血しながら
「ここで私がおまえを殺らなくても、この傷だといずれ腐敗して…おまえは死ぬ。」
男の顔が歪んだ。私は男の顔を見て…その心の動きを確かめながら
「もぐりの医者なんかでは手に負えないぞ。だが王宮の医者なら助かるだろうな。」
男は大きく目を見開いた。
私は笑みを浮かべ
「王宮に伝手がある。おまえを治療してもらえるようにしてやってもいい。」
「本当か?!」
私は頷き、ルシアン殿下と私の名前が入った白い手袋を渡しながら
「簡単なことだ、王宮のキャロルという侍女にこれを渡してくれるだけでいい。あとは彼女がうまくやってくれる。もちろんおまえのこともだ。」
キャロルさんなら、この手袋を見てすぐに状況を判断してくれるはずだ。そうすれば…お父様に、そしてルシアン殿下に話が行き、この男から情報を得るはず。
男が頷いたのを見て私は
「悪い。」
そう言って、私は止血したばかりの男の手を握り、痛みに叫び声をあげた男の腹に拳を入れた。
あの時はその方法しか、思い浮かばなかったのだから今更だ。
応援が来ても、来なくても、やることはひとつ、必ずルシアン殿下の暗殺は阻止する。
それしかない。
「やるきゃないでしょう!」
大きな声でそう叫ぶと、ベットから起き上がり、身支度をしながら…グルリと部屋を見まわした。
この部屋に入ったのは、もうすっかり日が落ちてからだったので、よくわからなかったが…部屋は二人部屋で風呂もトイレも共同ではなかった。
だが…二人部屋。どう考えたって、相方は男だよね。
昨日ナダルは『おまえの相方は、明日には帰ってくるから、そのときに紹介しよう。俺の幼馴染だ。ちょっと…いや、すげぇ、変わっているからビビんなよ。』などと言っていたな。それも気になる。
「男性と二人部屋…。まぁ男と偽ってきているのだから、お、襲われるなんてことはないだろうけど…ルシアン殿下には知られたくないな…。それにしてもビビるなってナダルは言っていたが、どういう意味なんだろうか?どっちにしても、早く片付けて帰りたい。」
よし!
顔を数回叩き、気合を入れて部屋の外へと飛び出した。
ここは、ローラン国の王都近くだった。
ローラン国の地形、町、村は頭に叩き込んでいたつもりだったが、王都近くにこんな所があるとは知らなかった。
見渡した限りでは、大きな建物が4つほどあった。その一つが私に与えられた部屋がある建物、どうやら、もともと宿だったようだ。昔の名残の看板が傾いて残っている。
ナダルはこの村は俺たちの拠点だと言っていたが、確かに拠点だと思う。
弓矢が風を切る音
厳めしい男らが剣を交える金属の音
馬の蹄の音
音だけを聞けば、ブラチフォード国の兵舎でも、よく聞こえる音だ。
拠点と言っていたナダルの話は間違いないな。
今見えるだけでも、50人はいる。一個小隊だ。この分だと一個中隊並み(平均150人)はいるかもしれない。
だが一番気になるのは…どれほどの腕前の奴がいるかだ。
私は目を皿のようにして、周りを見た。
…えっ…
息が止まるかと思った。
あの…後ろ姿は?
高い背丈、黒い髪、大きな体…
あ、有り得ない。まさか…ここにいらっしゃるはずはない。
そう思っているのに、私はその後ろ姿の男に向かって走っていった。
会いたいと思っているから…
恋しいと思っているから…私は幻を見ている。そう思っても顔を見たいと思う気持が、私を走らせた。
だけど(ま、待って!!)と声を掛ける前に…
「おう、ルチアーノ。今おまえのところに行く途中だったんだ。」
それは、後ろ姿の男の横にいたナダルの声
「こいつがおまえの部屋の相方、そして俺の幼馴染のロイだ。」
…この人が…?
ロイ…。
前世のルシアン殿下と同じ…名前だなんて…。
「ロイ、いい加減にこっちを向けよ。ルチアーノはガキだが肝が据わった奴だ、おまえの顔を見たって、大丈夫だ。」
…どういう意味…
ゆっくりと振り向いた男のその顔は…鉄の仮面に覆われていた。




