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王子様と過ごした90日間  作者: 夏野 みかん


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2日目①

昨日のことを思い出すと、眠れないまま夜が明けてしまった。


あのフレッドという男は、王宮に駆け込んだろうか…?








レイピアでフレッドのシャツを裂いた。


「わぁ~!!た…すけてくれ。なんでも、なんでもするから…助けてくれ…。」


「なんでもすると…言ったな。その言葉、本気か?」


「…それって…」


「シッ!声が大きい。外に聞こえるぞ。いいか、一度しか言わない。」


裂いたシャツで男の手を止血しながら


「ここで私がおまえを殺らなくても、この傷だといずれ腐敗して…おまえは死ぬ。」


男の顔が歪んだ。私は男の顔を見て…その心の動きを確かめながら


「もぐりの医者なんかでは手に負えないぞ。だが王宮の医者なら助かるだろうな。」


男は大きく目を見開いた。


私は笑みを浮かべ

「王宮に伝手がある。おまえを治療してもらえるようにしてやってもいい。」


「本当か?!」


私は頷き、ルシアン殿下と私の名前が入った白い手袋を渡しながら


「簡単なことだ、王宮のキャロルという侍女にこれを渡してくれるだけでいい。あとは彼女がうまくやってくれる。もちろんおまえのこともだ。」



キャロルさんなら、この手袋を見てすぐに状況を判断してくれるはずだ。そうすれば…お父様に、そしてルシアン殿下に話が行き、この男から情報を得るはず。


男が頷いたのを見て私は


「悪い。」


そう言って、私は止血したばかりの男の手を握り、痛みに叫び声をあげた男の腹に拳を入れた。






あの時はその方法しか、思い浮かばなかったのだから今更だ。

応援が来ても、来なくても、やることはひとつ、必ずルシアン殿下の暗殺は阻止する。


それしかない。


「やるきゃないでしょう!」


大きな声でそう叫ぶと、ベットから起き上がり、身支度をしながら…グルリと部屋を見まわした。


この部屋に入ったのは、もうすっかり日が落ちてからだったので、よくわからなかったが…部屋は二人部屋で風呂もトイレも共同ではなかった。


だが…二人部屋。どう考えたって、相方は男だよね。


昨日ナダルは『おまえの相方は、明日には帰ってくるから、そのときに紹介しよう。俺の幼馴染だ。ちょっと…いや、すげぇ、変わっているからビビんなよ。』などと言っていたな。それも気になる。


「男性と二人部屋…。まぁ男と偽ってきているのだから、お、襲われるなんてことはないだろうけど…ルシアン殿下には知られたくないな…。それにしてもビビるなってナダルは言っていたが、どういう意味なんだろうか?どっちにしても、早く片付けて帰りたい。」



よし!


顔を数回叩き、気合を入れて部屋の外へと飛び出した。





ここは、ローラン国の王都近くだった。

ローラン国の地形、町、村は頭に叩き込んでいたつもりだったが、王都近くにこんな所があるとは知らなかった。


見渡した限りでは、大きな建物が4つほどあった。その一つが私に与えられた部屋がある建物、どうやら、もともと宿だったようだ。昔の名残の看板が傾いて残っている。


ナダルはこの村は俺たちの拠点だと言っていたが、確かに拠点だと思う。



弓矢が風を切る音


厳めしい男らが剣を交える金属の音


馬の蹄の音



音だけを聞けば、ブラチフォード国の兵舎でも、よく聞こえる音だ。

拠点と言っていたナダルの話は間違いないな。

今見えるだけでも、50人はいる。一個小隊だ。この分だと一個中隊並み(平均150人)はいるかもしれない。

だが一番気になるのは…どれほどの腕前の奴がいるかだ。

私は目を皿のようにして、周りを見た。





…えっ…



息が止まるかと思った。






あの…後ろ姿は?


高い背丈、黒い髪、大きな体…


あ、有り得ない。まさか…ここにいらっしゃるはずはない。



そう思っているのに、私はその後ろ姿の男に向かって走っていった。


会いたいと思っているから…

恋しいと思っているから…私は幻を見ている。そう思っても顔を見たいと思う気持が、私を走らせた。


だけど(ま、待って!!)と声を掛ける前に…



「おう、ルチアーノ。今おまえのところに行く途中だったんだ。」


それは、後ろ姿の男の横にいたナダルの声


「こいつがおまえの部屋の相方、そして俺の幼馴染のロイだ。」



…この人が…?


ロイ…。


前世のルシアン殿下と同じ…名前だなんて…。





「ロイ、いい加減にこっちを向けよ。ルチアーノはガキだが肝が据わった奴だ、おまえの顔を見たって、大丈夫だ。」



…どういう意味…


ゆっくりと振り向いた男のその顔は…鉄の仮面に覆われていた。









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